小津安二郎無声映画の名作
無声映画(活弁付き)
「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」
1932年 松竹キネマ 90分
<監督>
小津安二郎
<キャスト>
斎藤 達雄、
吉川満子、
菅原秀雄、
突貫小僧、
坂本武、
加藤清一、
笠智衆(ノンクレジットなし)
<内容>
良一(菅原秀雄)、啓二(突貫小僧)のお父さん(斎藤 達雄)は、重役の岩崎(坂本武)の近くに引っ越して出世のチャンスをうかがっている。
だが、子供たち兄弟の前では厳格そのもの。
引っ越しで転校した兄弟は早速地元の悪ガキグループと喧嘩した揚句、鬱陶しくなって小学校をずる休みするも担任の家庭訪問で知られ、2人は父さんから大目玉。
そのうち悪ガキ仲間と友達になり一緒に遊ぶようになる。
その中には父親の勤め先重役岩崎の子供もいる。
ある日、みんなで「うちの父ちゃんが一番えらい」と自慢する話が出る。
兄弟も自分の父親が一番えらいと信じて疑わなかったが、ある日、岩崎の家へ行って見せてもらった16ミリ映画の中で、父は岩崎の前でお世辞を言い、動物のまねまでしてご機嫌伺いをしていた。
怒った2人は食事も取らず、またしても学校をサボって抗議する。
しかし、その抗議も長続きせず母(吉川満子)のとりなしで兄弟は夕食を食べて寝る。
父も子供の寝顔を見ながら、家族のためとは言いながら子供を絶望させたことを後悔する。
翌朝、いつものように父と兄弟は一緒に家を出る。
(ウィッキペディア、一部修正)
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1932年(昭和7年)
第9回キネマ旬報第一位
この作品は小津安二郎のサイレント映画時代の名作として、題名だけは知ってはおりましたが、今回、ギャオにて初鑑賞。
そしてその活弁つきですが、なんとあの澤登翠さんのお師匠さん2代目松田春翠(マツダ シュンスイ)さんが語りをしていたのであります。
いやぁ~~流石の名調子でしたよ。
また俳優陣ですが、重役の家で映写機による上映会があるのですが、その時に映写機を回す部下の役が笠智衆さんのよう。
まったく気が付きませんでした(ノンクレジット)。
その重役の役演じる坂本武さんは、この作品の後に観た映画「出来ごころ」では今作品とまるっきり違った、寅さんのような演技をしております。
というように当時は飯田蝶子さんなど、小津作品の常連俳優さんがあちらこちらで出演しております。
それを見るのもまたお楽しみです。
さて話の内容ですが、小市民映画といわれるこの作品、本当に小津作品らしく一般家庭のなかでよくありうるであろう出来事を、上手く、小津監督の温かみのある視線で描かれています。
それは子どもの等身大の視線で生き生きと、また社会の中でそして家庭のしがらみの中で生きる大人の視線も見事に含ませているのです。
このような作品で、昭和初期の東京の風景や学校の様子などを映像の中で確認できるのもまたよし。
特に子供たちの関係性、
親の職業がどうのこうの、
家が貧乏だとか金持ちだとかも関係ない、
普遍的な子供同士のつきあい力関係、
そして大人を観る目線は現代に生きる子供たちにも通じることでしょう。
まだ社会の構造がわからない子供の頃は、身近にいる親の存在は大きく、映画の中でも出てきましたが、自分にとっては「親は偉大で一番」だと思うのは世の常であります。
ただそんな理想を描いた父親の異なってしまった現実の姿を見てしまう、その時の子供の心境は青天のへきれき!!
何かがガラガラと崩れ落ち虚無・・・そうそう虚無蔵さんになってしまうのです(Byカムカムエヴリバディw)、
この気持ちはわかりますね。
だんだん成長していき、社会の構図が理解できてくると納得できるのですが、そこまでに達していないとなんか裏切られてしまったような、ふつふつとした感情が湧き出てくるのはわかります。
兄弟の子分の自宅で観た、16ミリの映像鑑賞会。
いつもは厳しくせっしている父親が、自分たちの子分の親の前ではペコペコし、その会社の余興では百面相をしたりしている映像を見せられては、いてもたってもいられなかったでしょう。
映像鑑賞会の途中に、退出してしまうほどでした。
そのやるせない気持を突貫小僧はじめ主人公の兄弟は、なかなかいい演技していましたね。
子供は大人が思っている以上に、親を絶対的と思っているでしょう。
そして大人にも・・ですから、その子供たちを教育することは、ある意味危ういところもあることを大人は知っておかないといけないかもしれません。
この映画、子供の視点から当時の不景気の中で、なんとか家族のために頑張っているサラリーマンの卑屈さ辛辣を描いた作品でした。
所々で見せる小津監督独特のアングルも健在!
小津監督のサイレント時代の名作との事も納得の内容でした。
そうそう映画の中でガキ大将が栄養をつけるといって、雀の卵を巣からとって飲むのですが、そんなこと本当にあったのでしょうかね?
当時の子供の世界は腕っぷしと、雀の卵がモノ言う世界であったのでしたw
この作品は面白かったですが、ただやっぱり弁士の力が大きいですね!!
今回観たこの作品は、活動弁士界の重鎮、澤登翠さんのお師匠さんでもあり、マツダ映画社(サイレント映画専門の映画会社)の設立者、2代目松田春翠(マツダ シュンスイ)が弁士をしております。
松田春翠さんの語りは初めて聞きました。
この方、職業は活動弁士で肩書はマツダ映画社長でございます。
大正2年生まれ本名:松田美知雄。
戦後弁士の傍ら無声映画フィルムの集めと保存に尽力し、会社を設立したようです。
その語りは、名人の落語を聞いているような感じで、一人で何役もこなしてアドリブもとっても面白い。
流石師匠~~~でした!
サイレント映画はもう弁士なしでは見れませんw
大人の序列と子供の序列・・・本来は人間としての立場で考えてみないといけません。
生まれてはみたけれど、この世の中はあまりすみよいところではなさそうです。
5点満点中4.0
(画像すべてお借りしました)
澤登翠さんによるダイジェスト