あの発禁の書が映画化
少年のおかれた過酷な状況に、
ベネチア国際映画祭で途中退出者続出、
ただ最後まで観た者からは
10分間にもおける
スタンディングオベーションを受けた屈指の話題作。
映画「異端の鳥」
(原題:The Painted Bird)
2019年 チェコ、スロバキア、ウクライナ 169分
<監督>
ヴァーツラフ・マルホウル
<原作>
イェジー・コジンスキー
<キャスト>
少年(ヨスカ):ペトル・コトラール、
ハンス:ステラン・スカルスガルド、
司祭:ハーヴェイ・カイテル、
ガルポス:ジュリアン・サンズ、
ミートカ:バリー・ペッパー、
レッフ:レフ・ディブリク、
ミレル:ウッド・キア、
ルドミラ:イトゥカ・ツバンツァロバー、
ガヴリラ:アレクセイ・クラフチェンコ
<内容>
東欧のどこか。
ホロコーストを逃れて疎開した少年は、預かり先である老婆が病死した上に火事で家が消失したことで、身寄りなく一人で旅に出ることになってしまう。行く先で彼を異物とみなす周囲の人間たちの醜い仕打ちに遭いながらも、彼は何とか生き延びようと必死でもがき続けるーー。
(公式HPより抜粋)
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とにかくこの映画のポスターを見た時から強烈な欲望が沸き上がって、だいぶ前から楽しみにしていた作品でした。
ベネチア国際映画祭で途中退出者が続出、そして最後まで観たものは、10分間のスタンディングオベーションした作品とはどのようなものかと、ワクワクして上映される日を指折り数えて待ち焦がれていましたw
10月10日台風が接近している中、横浜みなとみらいキノシネマにて鑑賞。
おぉ~~とにかくすごい、すごすぎる・・・・・・
あっという間の、緊張感ある2時間49分でした。
感想の前に少々前説致します。
いわくつきの原作
原作は、ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した「ペインティッド・バード」。
ただこの書籍はポーランドでは発禁書となり、作家イェジー・コシンスキ自身も後に謎の自殺を遂げた“いわくつきの傑作”。
そのいわくつきの小説をヴァーツラフ・マルホウル監督が、実に11年もの歳月をかけて映像化しました。
執念ですね。
本作品は、舞台となる国や場所が特定されないように、インタースラーヴィックという特定の言語が使われています。
それはスラヴ諸語を基に作成された特定地域型の国際補助言語だとか。
映画では今作品が史上初めて使われたようです。
このイエジー・コシンスキーという作家はポーランド出身でアメリカで活躍したユダヤ系の作家。
彼自身、ホロコーストを逃れている。
また20代でワルシャワのポーランド化学アカデミーで助教授を務めています。
ただ共産主義体制を嫌ってポーランドを脱出。その当時は捕まれば、12~15年の刑を受けるような情勢でした。
アルゼンチン、ブラジルを転々として、アメリカに渡り猛勉強をしたよう(当時は英語も全く話せなかったよう)。
そして自分の半自伝ともいわれる「異端の鳥」などを作品を書き上げていくのですが、ここにまた色々な謎めいたことがあるよう。
ゴーストライター説など・・。
そして最後は自宅でバルブタール(睡眠薬)服用の上、ビニール袋をかぶって窒息死していたよう、一応は自殺になっている。
これだけのいわくつきの内容でどのような映画なんだろうと、興味出てきませんか?
ただしやはりこの手の映画は、苦手な人は苦手かもしれません、映画祭で半分が退出したのもうなずけますね。
主人公の視点から描かれている作品
それは上映中ですので詳しくはお伝えしませんが、ほぼ全編主人公の少年の視点で描かれているこの映画ですが、けっこう残酷なシーンや児童ポルノにも抵触してしまうのではないかと思われるようなシーン、ユダヤの処刑や獣姦などの映像シーンが出てきます。
主人公の少年演じるペトル・コトラールは、映画初出演の新人だそうです。
彼の演技はなかなかの名演だったと思いますが、ただ個人的にはこの映画の撮影後、彼にとってこの映画に出演したことがトラウマにならなければと心配してしまうほどでした。
「マルタの章」
「オルガの章」
「ミレルの章」
「レッフとルドミラの章」
「ハンスの章」
「司祭とガルボスの章」
「ラビーナの章」
「ミートカの章」
「ニコデムとヨスカの章」
9つの章に分かれて、東欧の諸国を差別と迫害に遭いながら大自然の中で成長する一人の少年の物語。
時には善人に見えるものが冷酷な悪魔に変身する様は、人間の本性を垣間見る。
自然美の映像と人間の魔物性のコントラスト
会話らしきものがほとんど見られないモノクロ独特の自然美の映像に、風の音や雨の音、川のせせらぎなど自然のサウンドが各章ごとにゆったりと被さってメリハリある、心地よい展開。
余談ですが、映画を観ながら、あの映画「ニーチェの馬」を思い出しておりました。
しかし物語の内容は全くを持って違う、ある種人間の本質また動物としての欲望などがダイレクトに映像化されています。
この映画の中での残酷な出来事は、全て人間が行っているのです。
人間の恐ろしさと、モノクロならではの自然の美しさを対比させているのは、とても効果的な感じがしました。
モノクロの映像で大正解だったと思います!
主人公の少年が色々な場所を転々として生きていくのですが、途中で「鳥売りの男レッフ」と出会い生活します。
彼との生活の中で、この映画タイトルをより印象付けさせる場面が出てきます。
鳥売りの男が、空に羽ばたいている鳥たちと同じ種類の1羽の鳥に、白いペンキを塗って大空に放ちます。
その鳥は、数多くの羽ばたいている鳥の群れの中に呑み込まれていきます。
そしてその後、血まみれになって落ちてきます。
オリーブ色の肌、黒い瞳と黒髪の少年、その容貌が周りの者と明らかに違うというだけで、異端とみなされ村々の中で排除の対象になる。
劇中では、ユダヤ人かジプシーに見えるということで迫害されます。
何故、姿かたちそして周りの者と色が違うだけで、排除されないといけないのか??
タイトルを暗示させるシーンでした。
その後色々なことがあって、その鳥売りの男レッフが首吊りをしてしまいます。
少年は苦しむ彼を助けようとしますが、いかんせん非力で助けられない、次の瞬間彼に飛びつき、自分の体重を加算して早く楽にする方法をとります。
これまたショッキングなシーンでした。
そして鳥売りの男が死んだあと、籠の鳥たちを大空に放ちます。
ラストまで目が離せません。
物語の後半では少年は失語症になってしまいます。
それと同時に観客は、この少年は始めのほうからずっと自分の名前を名乗っていないことに気が付くかもしれません。
ここは大きなポイントかも!!
もしかしたら過酷な出来事の連続の中で、名前すら忘れてしまったのか・・・。
ある時、戦争孤児としての扱いの中でソ連軍兵士とともに生活をする。ここでも色々な出来事を経験する。
狙撃手の兵士との別れ際に、「目には目を、歯には歯を」の言葉と同時に拳銃を渡されます。
その拳銃を使った、とてつもない出来事がその後にまっています。
ラストシーンがとてつもなく素晴らしかった。
バスの中で、ある人物との出来事。
この眼をそむけたくなるような凄まじい物語の中で、まさか最後に私の涙腺が緩んでしまうとは不覚でした。
この映画は特に、ハラハラドキドキという展開ではないのですが、終始目が離せません。
そして物語の展開速度が、ゆったりとある意味心地良くも感じられるのです。
人間の負の部分、汚れた部分のみが前面に出ている過酷な現状の中で、迫害されながらも少年が成長していく。
そこで学ぶ事は、異端の者に対しての扱い。
人間の恐ろしい本能などを、ここまで描いて良いのだろうかと思ってしまうほど。
しかし、その先には崇高な何かを願い、また感動することができるのではないでしょうか。
カタルシスを感じるようなラスト。
この作品を観て何を感じ考えるかは、人それぞれかもしれません。
個人的には、時代を超越した普遍的な物語として捉えることができるような作品だったのではないかと思いました。!
5点満点中4.2
(写真全てお借りしました)