映画「近松物語」
1954年 日本(大映)102分
<監督>
溝口健二
<音楽>
早坂文雄
<撮影>
宮川和夫
<キャスト>
長谷川一夫、
香川京子、
南田洋子、
進藤英太郎、
小沢栄太郎、
浪花千栄子、
<内容>
京烏丸四条の大経師内匠は、宮中の経巻表装を職とし、町人ながら名字帯刀も許され、御所の役人と同じ格式を持っていた。傍ら毎年の暦の刊行権を持ちその収入も大きかった。当代の以春はその地位格式財力を鼻にかけて傲岸不遜の振舞が多かった。
その二度目の若い妻おさんは(香川京子)、外見幸福そうだったが何とか物足らぬ気持で日を送っていた。おさんの兄道喜は借金の利子の支払いに困って、遂にその始末をおさんに泣きついた。
金銭に関してはきびしい以春には冷く断わられ、止むなくおさんは手代茂兵衛(長谷川一夫)に相談した。
彼の目当ては内証で主人の印判を用い、取引先から暫く借りておこうというのであった。だがそれが主手代の助右衛門に見つかった。彼はいさぎよく以春にわびたが、以春の厳しい追及にもおさんのことは口に出さなかった。
ところがかねがね茂兵衛に思いを寄せていた女中のお玉(南田洋子)が心中立に罪を買って出た。だが以前からお玉を口説いていた以春の怒りは倍加して、茂兵衛を空屋に檻禁した。お玉はおさんに以春が夜になると屋根伝いに寝所へ通ってくることを打明けた。憤慨したおさんは、一策を案じて、その夜お玉と寝所をとりかえてねた。ところが意外にもその夜その部屋にやって来たのは茂兵衛であった。
彼はお玉へ一言礼を云いにきたのだが、思いも寄らずそこにおさんを見出し、しかも運悪く助右衛門に見つけられて不義よ密通よと騒がれた。
遂に二人はそこを逃げ出した。琵琶湖畔で茂兵衛はおさんに激しい思慕を打明けここに二人は強く結ばれ、以後役人の手を逃れつつも愛情を深めて行った。
以春は大経師の家を傷つけることを恐れて懸命におさんを求めた。だがおさんにはもう決して彼の家へ戻る気持はなかった。
大経師の家は、こうして不義者を出したかどで取りつぶしになった。だが一方、罪に問われて刑場へと
連れられるおさんと茂兵衛、しかしその表情の何と幸福そうなこと--。(MovieWalker)
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簡単に説明すると、奉公人とその店のご主人の奥さんが、ちょっとした間違いから坂を転がるように事態が悪くなり、不義密通(不倫)と駆け落ちまでに発展する話ですw
またまた、溝口作品です。
雨月物語といい、この作品といい素晴らしい作品であるのはいうまでもないのですが、どうも個人的には五感を刺激され感動の渦に巻き込まれるような感覚には至らないのです。
なんでしょうかね?
日本の重鎮と言われている黒澤作品そして小津作品にはあった感覚がないのです。
まるで無駄のない舞台劇を見ているような高尚な作品が溝口作品なのか?よくわかりませんが・・。
まぁ、その辺はさておき・・・w
しかし江戸時代など昔はいかに女性の地位が低かったというか不平等だったのですね。
不貞行為で死刑とは、今の日本の自由恋愛バリバリ、はたまた援助交際などはびこる現実をみたらどうなんでしょう。
ほとんどが死刑になってしまうw
香川京子さん演じるおさん、可愛らしくもあり途中から恋する女を見事に演じていました。
そこをうまく指導しながら撮ったのも溝口監督ならではなのでしょう。
香川京子さんは、そうとう撮影で溝口監督からのダメ出しで苦労したようですが、基本を叩き込まれたと感謝もしています。
また南田洋子さんもういういしくて可愛らしい。
とにかくお二人とも品格ある女性から、色香を感じる女性に変貌していく演技は素晴らしかったです。
そして印象に残っていたシーンですが。
大経師は女中(南田洋子)に手を出そうとする、エロ全開おやじ。
そのシーンで女中の胸元から手を入れるではなく、袖口から手を入れまさぐる。
エロさ倍増ですw
こういうカットは、溝口監督ならではなのかと思ったりしました。
そのほか、おさん(香川京子)がふくらはぎを痛める。
茂兵衛(長谷川一夫)がその痛めたふくらはぎを吸ってあげる。
いやぁ~~なんともエロチックな場面でした。
これまた溝口マジック。
このシーンで二人の関係がいかに深くなっているかを感じさせてくれます。
ラスト市中引き回しの刑のシーン、上から下からのロングショットもなかなかみせてくれました。
なんと死刑場に向かうのに希望に満ちた満足げな、香川京子と長谷川一夫の表情はお見事でした。
しかし長谷川一夫という役者の演技は、なにかねっとりとした湿度を感じますねw
音楽も太鼓、三味線など和楽器を使い、この作品も歌舞伎のような演劇?舞台劇を観ているような感覚を覚えさせてくれます。
溝口健二監督の、和の魂が注入された情熱的な愛の物語でした。
5点満点中3.9