刃物の切れ味検証法 | 北欧ナイフでお気軽アウトドア

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前回、「少しYouTubeの動画を見ている」なんて書きました。

 

 

やはりナイフや、研ぎの動画が多くなってしまうんですが、「上手く研いでいるなぁ」というものもあるのですが、個人的に「ん?」と気になるものも少なからずあったりします。

 

 

それは「研ぎ」のやり方そのものであったり、あるいは「研いだものに対する切れ味の検証法」について、だったりします。

 

 

ただ……。

使用者が「問題なく使える」ということであれば、それはそれでいいわけですし、外野が口を挟む筋合いはありません。なので、特定の動画ややり方を明示して、「こうしたほうがいいよ」というのは避け、おおよそ30年に及ぶ、私の経験から「こういうほうがいいんじゃない?」という提案を一度まとめておこうと思って筆を執っています。

 

 

研ぎ方に関しては、かなり以前からたくさん書いてきましたので、今回は「切れ味の検証法」についてちょっと書いてみようかな、というわけです。

 

 

世の中にはいろんな切れ味の検証法がありますよね。

パッと思いつくものを挙げながら、それぞれのメリットやデメリットを考えてみた上で、私のやっているやり方もご紹介したいと思います。

 

 

 

コピー用紙を切ってみる

 

これはめちゃくちゃポピュラーな方法です。

みなさん、きっとPCのそばにプリンターなりがあると思います。そうしたプリンターを使う際に、ホームセンターやらなにやらで、A4500枚入りのコピー用紙を購入されているのではないかと。

 

 

その意味で一番手近にあって、試しやすいもの、と言えそう。

研ぎあがったナイフなりを、コピー用紙に当てて、スーッと切り下してみる。

 

 

これは各種動画でもおなじみの光景ですよね。

抵抗感なくスッと切り下せるものの切れ味がよい、というわけですが、これも少し考えてみる必要がありそうです。

 

 

コピー用紙を切って切れ味を検証するメリットはいくつかあります。

最初に述べたように、「入手性がよく、すぐに検証が出来る」というもの。

また、刃を目いっぱいつかって、切り下すことも多いわけで、その際、ひっかかりがあれば、「ちょっとした欠け」や「研げていない部分」に気づくことも出来ます。

 

 

私も、コピー用紙の試し切りはやっぱりたまにやりますね。

決して悪い方法ではないと思いますが、いくつか注意点もありそうです。

 

 

というのも、「刃はその人の好みや用途に合わせて、作るもの」という前提があるからです。

コピー用紙を切り下したいということであれば、研ぎの際の番手を細かくすれば、コピー用紙をスーッと切りやすくなります。

一方で、「ちょっとゾリッとした感じの切れ味が欲しいよ」という人や、シーンもありましょう。

 

 

そういう状態の刃を作ってコピー用紙で試し切りをすれば、切り下していく際、「スーッ」ではなく「ズズズズッ」って感じの抵抗感と、音で切れていくはず。

で、果たして後者の状態の刃が悪いものなのか? といったらそれは違いますよね。

 

 

また、例外的ではありますが、ナイフの種類によっては、コピー用紙切りがあまり意味を持たない、ということもあり得ます。

私は、チタンにタングステンカーバイドを溶着させたナイフを持っているのですが、これなんかはコピー用紙では、その切れ味をあまり正確に測ることが出来そうにありません。

コピー用紙はあまり綺麗に切れないけれども、鶏肉の皮なんかはスッと切れ込む。そういうナイフですからね。

 

 

一方、「切れ味を追求したい!」という時、コピー用紙などを使って切れ味を試す際、ちょっと面白いやり方をご紹介しておきましょう。

これは、片刃の和式のナイフなどに向いている方法です。

 

 

それは、ただ単にコピー用紙を切り下すのではなく、なるべく細く削いでみる、というもの。

大体、和式の刃物で#2000~くらいで丁寧に仕上げれば、かなーり細い糸くずのような感じになり、その細さ故にクルクルッと丸まったものが出来るはず。

それが出来れば、基本的に切れ味的に不満を覚えるようなことはないでしょう。

 

 

刃を爪に立ててみる

 

これまた定番のやり方で、動画などでもよく目にするのではないでしょうか?

 

 

研ぎあげた刃物を親指の爪なんかに角度をつけて当ててみて、滑らないかどうかで研ぎあがったかどうかを確認する、という方法。

これは昔から言われている、ある意味で伝統的な切れ味確認法みたいなところがありますね。

 

 

私自身はこれは、ちょっと思うところがあったりします。

というのも、しっかりとした刃が立った状態であれば当然爪の上に刃を立てた時、滑らず食い込むはずです。

しかし、一方、刃が例えばノコギリのように「荒れた状態」であっても、同様に刃に食い込むはずです。

 

 

また、食い込む/食い込まないは、「刃がついているか否か」という部分に拠ることが多く、その「刃の鋭さ」まで判定してくれるわけではありません。爪に食い込む以上、一定以上の刃がついているのは間違いないのですが、「じゃあ、どの程度の切れ味が実現できているのか」というのは分からないわけです。

 

 

私は、割と研ぐのが好きで、ちょっと使っては刃を研いでしまったりすることが多いんですが(最近、その頻度は減ってますが)、かなり細かい番手で研ぎあげる時、爪に刃を立ててみる、ということも、やはりやったりします。

すると、角度やその刃物の薄さなどにもよるんですが、爪に食い込むというより、爪を削ってしまう、ということもあります。爪があまり抵抗感なくシュルシュルッと削れてしまうならば、結構いい刃がついている、と言えそうです。

が、これはちょっと危ない方法でもありますね。

 

 

指で刃先を触ってみる

 

これまた有名なやり方でしょう。

研ぎあげた刃を、ちょんちょんっと、指でさわってしっかりと刃がついているのかどうか確認していく方法です。

 

 

これ、有名なやり方で実施者も多いとは思うのですが、案外人気のない方法かもしれません。

というのも、私はこのやり方が好きでよくやるのですが、刃物の製作者の方(カスタムナイフメーカーさんや鍛冶屋さん)から、「それで何か分かるの?」というようなことを言われたことがしばしばあるから、です。

 

 

とはいえ、私のやり方は若干のアレンジがあって、研ぎあげた刃に対して指(親指や人差し指)を軽く当てて、ちょっと薄皮一枚を切るように、指を刃の上で滑らす(か、そういう方向に力を入れる)やり方だからです。

 

 

すると、刃の粗さが分かります。

粗めに研げば、少しゾリッとした感覚が指先でわかりますし、そうした抵抗感なしにスッと一枚、指の皮一枚切れるようであれば、シャープな刃先になっているわけです。

また慣れてくると、指の皮一枚を切った時の抵抗感や切りこみの感じで、結構正確に、仕上げの細かさなんかもわかるようになります。なので、均一に研げていない部分が分かったりというメリットもあります。

 

 

そういえば、たまに「ヌルッとした刃」とか、そういう表現を聞いたことはありますでしょうか?

例えば、ハイス鋼のナイフなどを丁寧に研ぎあげると、指先に当てて薄皮一枚切ろうとした時、まさに「ヌルリ」とした感触があったりします。

ハイス鋼や、RWL-34なんかもそういう感触ですね。

 

 

このやり方の欠点は、「誤って指先を切ってしまう可能性」がつきまとうこと。

また、「指先では感じられなくても、想定する目標物を切れる刃がついている可能性」がある、ということの2点でしょうか。

 

 

私は、刃の「かかり」に割とこだわってしまう傾向があるので、この指先で確かめる方法が好きなんですが、あくまで、「想定している対象物を切った時にどうなのか」ということを考えると、指先の感触は絶対的な指標にならない可能性がある、とは言えそうです。

 

 

また、斧のような刃物であれば、指先で確かめるのが若干難しかったり、また、指にかかるほどの刃がついていなくても用が足せるということもあるわけで、常にこの方法が満点というわけではない、ということは付記しておきます。

 

 

積み上げた新聞紙を切る

 

これは私がたまにやる方法で、あまり有名でないものかと思います。

よく、古紙回収などに新聞紙を出す際、新聞を積み上げておきますでしょう?

 

 

実際はバラバラにならないように、縛っておいたりするわけですが、縛る前の状態、つまり「ただ単に新聞紙が積み上げられた状態」で、研いだ刃物で、その新聞紙を軽く斬りつけてみる(撫でるような感じ?)。

これは、「キンキンに研ぎあげた時の確認」という意味合いが強いです。

 

それで、新聞紙の山がドサッと崩れたりせず、しっかりと新聞紙が切れていれば結構いい切れ味が出ているはず。

実際のところ、そこまでの切れ味を必要とすることってあまりないですけれどもね……。

 

 

少しゾリッとした刃でこれをやると、当然新聞紙に刃が引っかかりますから、新聞紙がドサッと崩れてきたりします。

「なるべく切れ味を出したい」なんて時に試してみると、ちょっと面白い方法かと思いましたので、紹介させて頂きました。

 

 

切りたいものを切ってみる

 

究極的には、このやり方に落ち着くとは思うんです。

例えば、「フェザースティックを野外で作りたいんだ!」なんて目的がはっきりしている場合、紙を切ったりするのではなく、実際に木を削ってみてどうなのか? を「ちゃんと研げているのか」「切れ味が出ているのか」の指針にすればよい、ということです。

 

 

拙著 『北欧ナイフ入門』や『ブッシュクラフト入門』でも言及しましたが、「自分にとってやりたい作業を、なるべくリアリティをもって練習しておく」というのはお勧めです。

 

 

紙は切れるけれども、野外に落ちている木を削ったら、刃がまくれた。

野外に落ちている木にバトニングしてみたら、刃が潰れた・かけた。

 

 

こんな声はずいぶん以前からあり、それ故に拙著でも提案させてもらったものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、野外でフェザースティックを作りたいのであれば、野外にいって、切れ味確認用の木を拾ってくればいいというわけです。

ホームセンターで手に入る角材は柔らかいものですし、フシなんかも少な目。

 

 

実際に自分がやりたい作業に限りなく近い、モノを用意してそれで試してみる、というのが一番目的志向となる研ぎ方や切れ味確認になりましょう。

 

 

バトニングなんかでもそうですよね。

最初の食い込みの部分では切れ味はある程度重要なファクターになりますが、一度刃が食いこんでしまえば、刃先が木に当たることはない(か、少ない)ので、バトニングだけしたいという場合は、実はそこまでキンキンに研ぐ必要はなかったり……(私はナイフでのバトニングはそもそもあまりお勧めはしていなくて、動画なんかを見ると、「必要なのはナイフではなく斧やくさびなのでは?」と思ったりすることもしばしばあったりします。これは余談ですけれどもね)。

 

 

この方法は実践的、目的志向ではありますが、ちょっと野外にいって木や枝を拾ってくるというひと手間が掛かる部分はありますね。

けど、逆にいえばそれだけ野外に出ていく機会も増えるというわけで、こういうやり方をやってみるというのもいいんじゃないかしら。

まぁ、夜遅くに刃物を研いでいる時、「おっと、野外で木を拾ってこなきゃ」というわけにはいかない、という点は一応指摘しておきましょうか。

 

 

 

 

というわけで、ポピュラーな切れ味確認法のご紹介と、私のオリジナル(?)のやり方も紹介してみました。

いかがでしたでしょうか?

 

 

私は、普段だったら「指先」での確認で終えてしまいます。

言われているほど悪い方法ではなく、結構いい線いっている方法だと思っています。上述の通り、実行される際には、怪我には気を付けてやってみてください。

 

 

多分、「これ一つで完璧に切れ味が確認できる」という方法はないと思うのです。

自分の求めているもの、やりたいこと、研いだ刃物に合わせて、複数の確認法を上手く組み合わせると、少し煩雑かもしれませんが、一番いいのかもしれません。

 

 

何か少しでも参考になる部分があれば幸いです。

というわけで、今日はこのへんで。