今日は、ちょっと力の入った記事です。
というのも、先日、山鉈を注文させて頂いた米田刃物鍛冶屋の米田さんと、ちょっとやり取りをしていて、「あっ、そういうことだったのか!!」と目からうろこが落ちたので、それをご紹介したいのです。
よく、秋田の鍛冶屋さんとか、そこで作られた刃物を取り扱うウェブページに行くと、大抵、「秋田特有の裏スキがあり、切れ味が抜群」なんて文言が書いてあります。
率直に言って、私は「なんか変だな……」と思っていたのです。
だって、和式の刃物で片刃のものには大抵「裏スキ」がついているからです。手元にある切り出し小刀だってそうですし、昔、田舎にあった鉈だってそう。
ですので、「秋田特有ってのは、なんかシックリこない」と思っていたんです。
んが。
米田さんとのやり取りで、その「秋田特有の裏スキ」なるものの正体が大体わかったんです。
そして、連鎖的に私がずっと問題意識をもっていた叉鬼山刀とも通じる話でもあったので、やや興奮しています。
本当は、米田さんが設計図を送って下さったんですが、それを無断で使うのはよくないので、私がまとめた図をお見せいたします。
分かりますでしょうか?
私達が、「裏スキ」というと、左側の「裏押しのある裏スキ」をイメージすると思います(ですよね?)。
けれども、「秋田特有の裏スキ」と言った場合、「裏押しがない裏スキ」を指すようなのです。
これで、色んなことがスッキリしませんか?
以前、叉鬼山刀に対して、「なんでベタで砥石が掛からないんだろう?」とずっと私がボヤいていたことを覚えていらっしゃる方もいるかと思います。
それはそうなんですよ、秋田の裏スキは「裏押し」を想定していなんですから。
そういう事情があるので、おろしたての叉鬼山刀に裏押しを作ろうとすると、
ここまで研ぎ込まないといけなかったんです。
すると、マルに「誠」の刻印まで削ってしまうハメにもなり、そこに当然違和感が出てきます。
結果、「じゃあ、叉鬼山刀ってどうやって研ぐんだよ!」というジレンマが生まれるわけです。
つまり、私は「裏スキのある和式の刃物」ということで、勝手に、上図の「左側」(裏押しが存在するもの)を想定してしまっていた、というわけ。
けど、秋田特有の裏スキ、とは「裏押し」がない和式の片刃を想定しているわけですから、「裏押し」があるものを前提にして研いでしまうと、齟齬が生じてしまった、というわけです。
「秋田特有の裏スキ」というのは「裏スキというのは、秋田の刃物特有のものなんだよ!」という意味ではなく、「秋田では、こういう特有の裏スキの刃物を作るんだ!」という意味だったのです。
実は私も過去にちゃんとそれを図にしていました。
「裏押し」がないことを私はわかっていたんですよね。
けど、「片刃で裏スキのある刃物には、裏押しがあるんだ(=だからベタで研がないといけないんだ)」という先入観でそれに気づかなかったのです。
さて、ここで1つ注意を入れておきます。
先ほどから「裏押しがない裏スキ」ということを繰り返していますが、実際はちょいと違います。
今示した「フクロナガサの裏」という図を見て頂いても分かるんですが、実際には、「裏」の刃先には角度が少しついていることが多いんです。
これは、裏のアール部分と表の刃の交差点が切り刃となってしまうと(最初の図、右側です)、切れ味はよいけれど、刃先がモロくなりやすいからです。
ですので、実際は裏の刃先に角度をつけ、刃先の強度を維持しているというわけです。
これは角度がついているだけですからベタで研ごうとすると砥石には当たるんですが、「裏押し」とは本質的に全く違うものです。
ですので、秋田特有の裏スキとは、「裏押しがない裏スキ」で「刃先は強度を確保するため、裏側から少し角度がついていることが多い」というのがその実態だったのです。
どうですか?
かなりスッキリしたのではないでしょうか?
つまり、叉鬼山刀だって、裏は角度をつけて刃先だけ研いでやればいいんです。
「片刃で裏スキのある刃物には、裏押しがある」→「だから裏はベタで研げる、というかベタにしないといけない」という、固定観念があると、簡単なことなのに、それに思い当たらないのでした。
皆さんも刃物が相当お好きなはずですから、「片刃の裏は角度をつけて研いではいけない」なんて言われたこと、ありますでしょう?
けど、そうでない片刃の作り方や研ぎ方がある、ということだったんです。
結論。
「秋田特有の裏スキとは、裏押しがない裏スキのこと。ただし、刃先は角度がついていることが多いので、そこだけ研いでやればよい」、ということになります!
これで私自身もかなりスッキリしました!
取り急ぎ、情報を共有させてくださいませ~。