ホローグラインドを巡る問題 | 北欧ナイフでお気軽アウトドア

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というわけで、今日もナイフ関係の記事です。

 

 

ホローグラインド、というグラインド形状は皆さまきっとご存知でしょう。

ブレード側面が凹状にえぐれており、ナイフの重量を軽くしたり、あるいはバランスをとりやすくしたり出来るグラインドです。

 

 

最近、私が入手したものでは、

 

 

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このベレッタラブレスのセミスキナーやドロップポイント(ほんとーはドロップドポイントっていうみたいですよ)があります。

 

 

また、Buckの、

 

 

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アメリカらしさ全開の119スペシャル、あるいはその小型版(という位置づけみたい、公式サイトにはそう書いてありました)パスファインダーなんかもそうですよね。

 

 

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写真をご覧いただくだけでも、ホローグラインドによる凹面が分かるんじゃないかな、って思います。

 

 

さて、ホローグラインドに関して、多くのナイフ本ではフラットグラインドとの比較で、「研ぎ減るとフラットグラインドは鈍角になっていくが、ホローグラインドは研ぎ減りによる角度の変化が少なくいつまでもシャープな切れ味である」といった文言が必ず書かれています。

 

 

これは、果たして本当でしょうか?

実は、この問題、私が子供のころからずっと気になっていたんですよね。

 

 

実際に、そうしたホローグラインドとフラットグラインドの比較が書いてある本をご覧いただきましょう。

これは『ナイフユーザーズバイブル』という本からの引用です。

 

 

 

この本自体は、特定のメーカーの紹介に偏りがなく、ナイフの基本がわかる良書です。

悲しいかな、もう店頭では買えませんので、Amazonのマーケットプレイスなどを利用して入手してみてください。

 

 

さぁ、肝心のホローグラインドとフラットグラインドの説明ですが、

 

 

こんな感じで図がついて載っています。

大体、他のナイフ本にも、これと大同小異な図と記述があるわけです。これを見て「確か……〇〇にも載ってたなぁ」と思った方もいるのではないでしょうか?

つまり、少なくとも研ぎ減りに関しては、「ホローグラインド>フラットグラインド」という認識です。

 

 

さて、私の子供のころからの疑問なのですが、この写真をちょっと加工すると非常に分かりやすくなると思います。

では、ご覧いただきましょう。

 

 

研ぎ減りの線を、青色で強調してみたのですが……。

フラットグラインドの場合のみ、研ぎ減りにより普通にエッジ角度が変わっちゃってるんですよね。

一方、ホローグラインドのほうは、青線が平行になっていますから、最初のエッジ角度を維持して研ぎ減っていることが分かります。

 

 

ホローグラインドのように、正確にエッジベベルだけをベタッと砥石に当てて研ぐのであれば、こうなるはずです。

 

 

キッチリと角度を変えずに研げば、この赤線のような研ぎ減りになるのではないでしょうか?

ここが、子供のころからの私の疑問だったのです。

 

 

なので、「エッジ角が鈍角になっていく」云々というのは、私にはどうにもしっくりと来ない説明なのです。

もし、フラットグラインドは、研ぎ減ることでエッジ角が鈍角になっていくのであれば、研ぎ減ってきた段階で、少しづつ鋭角に刃を付け直してやれば問題ないことになってしまいますしね。

 

 

また、織本篤資の『ナイフ学入門』も、この問題には触れていまして、

 

 

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「そこまで研ぎ減りするまで熱心にナイフを使うユーザーであれば、ベベルを薄く削り出すくらいの知恵は働くはず。なので、巷間で言われているほどフラットグラインドはホローグラインドに劣っているわけではない」

 

 

というようなことが書いてありました。

これはかなり正しい認識に私には思えます。

 

 

一方で、じゃあ、私が赤線で示した「最初のエッジ角を変えない研ぎ」をしていった場合、本当に切れ味が変化しないのか? といった時、「どうもそれもちょっと違うなぁ」とも思うのです。

 

 

何が言いたいのかというと、ナイフの切れ味って、

 

  • ・切り刃の鋭さ
  • ・切り刃以降の切りこみの具合

 

などの複合的なものだからです。

エッジ部分がよく研ぎ込まれ、鋭利であれば、対象物を切る最初の「切りこみ」は良好でしょう。

しかし、更にナイフの刃を押し込み、ものを切って(割って、裂いて)いく場合、グラインドの形状、刃の厚みなどによる、「刃の抜け方・通り方」が、切れ味(切れ味感?)の要素となることも、また事実だと思います。

 

 

つまり、紙のような薄いものを、机の上において、ピーっと押し切っていく場合であれば、切り刃の鋭さだけが問題となりますが、紙を手に持って、ナイフでシャーっと切りおろしていく場合なら、切り刃以降の刃の厚みや形状によって、切り口が綺麗に切れるもの、そうでないものが分かれる、ということです。

 

 

当然、薄い刃のほうが、刃の通りがよいはずで、そう考えると、研ぎ減りをして、なおかつ同じエッジ角度を保持したフラットグラインドであれば、切り刃以降、急激に刃の厚みが増すため、切れ味はいま一つになる(こともある)、ということであれば、話は大いに頷けるのです。

 

 

まぁ、オピネルのように、元々薄いフラットグラインドであれば、そこまでの差はないとは思いますけれども、スパイン部分で5ミリ、6ミリなどの厚いフラットグラインドであれば、うんと研ぎ減りをすると、確かに切れ味に差を感じるんじゃないかと思います。

 

 

というわけで、刃の抜け方・通り方という切れ味の要素を考えれば、ホローグラインドが優れている(かなり研ぎ減りをしても、刃の抜けが維持される)というのは分かります。

 

 

けど、逆に考えれば、刃の厚みが確保されるフラットグラインドっていうのも、頑丈さの面ではなかなか優れたものもあるわけですし、実は優劣の議論は無意味なのかもしれません。

 

 

今回、問題にしたかったのは、多くのナイフ本がやっている、「研ぎ減りをするとエッジ角が鈍角になる。よって切れ味が悪くなる」という解説を、より詳細に検討したかった、ということなのです。

 

 

私の結論としては、ご覧いただいた通り、

 

  • ・研ぎ減りしてもエッジ角は変わらない
  • ・ただし、刃の抜けが悪くなるから、切れ味が悪くなるというのは理解できる

 

というものです。

自分自身、今回問題を整理していくなかで、子供の頃に感じた違和感が解消された感はあるのですが……皆様はいかがでしょうか?

 

 

というわけで、今日はこのへんで。

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