ヘレのナイフから見る北欧ナイフの研ぎ | 北欧ナイフでお気軽アウトドア

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こんばんは。
今日は、またしても「北欧ナイフの研ぎ」に関して。


拙著『北欧ナイフ入門』でも、このブログでも継続的に取り上げてきているテーマです。


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しかし、今回は、最近人気がある「ヘレ」のナイフに付属している、説明書を手掛かりにして、北欧ナイフの研ぎを考えてみたいと思います。


今回の記事を書くに当たり、本当につい最近、ヘレのナイフを入手された「しげさん」からの、貴重な情報提供がありました。本当にありがとうございます!


今回、その説明書の画像を使いながら、ちょっとその内容を検討していきましょう。
文字も読みやすいように、サイズもいつもより大きくして画像を貼りたいと思います。









この二種類が「研ぎ」に関しての説明です。二枚目はあまり関係ないですが、参考のために。
多分、クリックして頂くと、はっきりと文字も読めるはずです。


左側が英語、右側が現地の言葉(ノルウェイ語)かな?


さて、当然ながら「Maintenance」(メンテナンス)の大見出しの中に「Sharpening」(シャープニング)という項目があり、そこに研ぎ方が記載されています。


記載は割と簡潔かな。


ダイヤモンドや、ウェットストーン(※水砥石や油砥石を指すと思われる)を使用し、研ぐこと。
砥石に対してフラットにナイフのベベルを置き、ブレード全体を研いでいく。

もし、ブレードが非常に鈍くなっていたり、ダメージを受けていた場合、目の細かい砥石を用意し、たっぷりの水や、冷却効果のある液体を使うこと(※ここ、不審アリ)。

絶対に、乾いた砥石で研いではいけない。
熱を持ったエッジは熱処理を失わせ、ブレードをダメにする。これをやった場合、保証の対象外となる。

完全なナイフの研ぎ方の説明は、私達のウェブサイトの「/sharpening」に載っている。



と、まぁ、意訳しつつザッと訳してみるとこんな感じです。
それはさておき、不審な箇所が一ヵ所ありました。


「もし、ブレードが~」の部分ですね。
説明書では「fin-grained grindstone」となっていたのですが、まず「fin-grained」が不審だったので、これは「fine-grained」の誤植だと解釈して、「目の細かい」としたのです。

grindstoneも「砥石」と意訳してしまったのですが、これはもう少し幅広い概念を指していそうではあります。
たとえば、「回転水砥石」とか、そういう「削り」のために使う砥石という感じなのでしょうか。


けど、非常に鈍い刃先は、ダメ―ジを負ったナイフに対して、「目の細かい砥石」でどうこうするというのは、やはり不審です。


というのも、「まずは目の粗い砥石で削り直してから、細かい目で刃をつける」というのが、一般的な手順だと思うからです。細かい砥石で、ダメージや刃のつぶれを何とかしようとすると、かなりの労力がかかりますからね……。


ですので、私はここは、


もし、ブレードが非常に鈍くなっていたり、ダメージを受けていた場合、目の粗い砥石を用意し、たっぷりの水や、冷却効果のある液体を使うこと


と、言いたかったものと推測しています。
そうでないと、なんだか変な文章ですから。
一応、イラストも載っていますね。「若干角度をつけ、砥石の上にブレードを載せている」イラストです。ご丁寧に「↑」までついていて、「角度をつけろ」と指示しているはずなんですが、そこには文章は、一切触れていませんでした。



とりあえず、誤植らしきものを確認した上で、「詳しくは、ウェブで!」と書いてあるわけですから、ヘレのサイトに行ってみましょう


んで、sharpeningのディレクトリを探すも……見つからない……。
そもそも、helle.comに行こうとすると、helle.noに遷移してしまうようです。


色々見てみると、「シャープニング」という独立したページは今はなく、書くナイフの説明の最後に研ぎ方が載っているようです。


仮に、Didi Galgaluというナイフのページを見てみましょう。
このページの下のほうに「sharpening」という項目があり、ちゃんと研ぎ方の解説がなされていました!

Sharpening

 

Use a diamond tool or a wet stone for sharpening. Place the knife bevel flat to the sharpening tool and work the entire blade. Work one side until you can feel a slight burr on the opposite side. Switch side and repeat the procedure until you feel the burr on the first side. You have now established an edge.

 

Remove the burr by stroking the blade gently over the sharpening surface on both sides, as if cutting very thin slices. Keep the bevel flat towards the sharpener and move from side to side until the burr is gone.

 

If the blade is very dull or damaged, use a fine-grained grindstone and plenty of water and sharpen until you have a raw edge. Use much cooling liquid and never sharpen on a dry stone. A hot-ground edge looses its heat treatment and ruins the blade.




こんな記載です。
説明書のそれより、もうちょっと丁寧に書いてますね。


「フラットに砥石にあてて、ブレード全体を研ぐ」という所までは一緒ですが、


片面を研ぎ、反対側のエッジにバリが感じられたら、研ぐ面を逆にし、最初の研いでいた面にバリが出るまでまた研ぐ。その時こそ、刃がついた、という状態である。
バリは、ブレードの両方の研ぎ面を優しく立て、
まるで、非常に薄くスライスするようにストロークすることで落とす。ベベルを砥石に向けフラットを保ちながら、バリが消え去るまで交互に動かす。


ちょっと追加で訳しておきました。
意訳もしていますが、「バリの落とし方」の説明となります。両面をベタ研ぎでバリが出るまで研ぐ。
そのバリは、若干エッジを立ててストロークさせることで落とす、というわけです。


その時の説明こそが、説明書にあった「図」なのでしょう。
若干、エッジを立てて研いでいますものね。さて、肝心なのは、これをやるとみなさんが大嫌いな「マイクロベベル」がつくはずです。


そして、最後の段落は、さっき見たものと同じ。
あっ、やっぱり「fin-grained」じゃなくて「fine-grained」でしたね……。
にしても、「fine」(=目が細かい)という記述は気になります……。


さて、ここで私のヘレナイフに付属していた、説明書を見てみると、「How to grind the knife」という項目があり、その所がより詳しく書かれています。


それによると、やはり「fine-grained」な砥石を使うように書かれているのですが、粒度も併記されています! いわく「#100」だそうです。


fineというのは、「細かい」ってことじゃないのかなぁ……。
#100って荒いと思うんですけどねぇ……。ともあれ、少なくとも私の感覚では「とても荒い」と思われる#100を使って、削り直す、ということが書いてあるわけでして、それなら納得できますよね!



簡単にまとめてみましょう。


  ・ベベル全体を砥石に押し当てて、バリが出るまで研ぐ


  ・少し角度をつけて研ぎ、バリを取り去る


  ・乾いた砥石で研ぐと、刃先が熱を持ち、刃を台無しにする


  ・刃のつぶれや、欠けがある場合は、粗い砥石で削り直す



と、こんな感じでしょうか。
二番目のステップにより、マイクロベベルがつくわけですが、図らずも、それはエッジの強度向上につながります。


どうも、北欧のナイフはベタで研ぐと(つまりフルスカンジにすると)刃持ちが悪いものが多いのです。
したがって、糸刃を付けてやる必要があるわけで、ヘレの説明書は「バリを取るため」という解説をしていますが、実際的には、エッジの強度向上にもつながっている、と考えられます。


ベタで研ぐと瞬間的な切れ味は出ますが、継続して切っていくことが難しくなったりしますよね。
お肉とかなら、別にいいんですけれども、木を削る、なんて時にはフルスカンジの場合、すぐに刃がまくれたり、鈍ったりしてしまいますからねぇ。


というわけで、「fine」なグラインドストーンが「#100」という部分は納得できないのですが、一応、整合性の撮れた説明は出来たんじゃないかなって思います。


これは、そのまんま、モーラナイフや、普通のプーッコにも使える研ぎ方です。
マイクロベベルをつけても、なお刃保ちが悪いとか、もっと強度を、ということになれば、ガッツリ小刃をつけてしまってもいいわけですし、その場合、「フラットグラインド」のようになるわけですが、別にそうしたからといって、そこまで不自由があるわけでもないですからね。


今日は、ヘレのナイフの説明書(及び、ウェブサイト)の記述を辿って、北欧ナイフの研ぎ方を見てみました!


何かのお役に立てば幸いです。
それでは、また。