自作ナイフ作り体験記録vol.1(於長野県坂城町) | 北欧ナイフでお気軽アウトドア

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今日から、自作ナイフ作り体験を、より詳細に書いていきたいと思います。
書きたいことが、本当にたくさんあるので、複数回に分け、少しづつお話しできれば、と。


6/26日の正午。
私は長野県坂城町にある「鉄の展示館 」にいました。


その日行われる、「切り出し小刀作り体験」に参加するためです。
集合は12:30だったのですが、すでに正午には、参加者と思しき人たちが続々と集まってきていました。


参加者の一人が、鉄の展示館のスタッフの方たちと、去年の「切り出し小刀作り体験」のお話しをしていたので、私も、ちょっと割り込んで話を聞いてみることにしました。
なにしろ、去年、どんな様子だったのか、を知りたかったのです。


その方は、去年の体験を大切になさっていて、押し型というのは少し大げさかもしれませんが、完成した切り出し小刀を方眼紙に写し取り、メモをそこに書きこんでいらっしゃいました。


その方のお話し、およびメモから分かったことは、


  ・どうやら、全鋼(ハガネと軟鉄を組み合わせるのではなく、一枚の鋼材を使う)
   だということ


  ・ものすごく集中力が必要だということ


  ・講師をつとめてくださる先生方が物凄く親身にお手伝いしてくださるということ



でした。


私は、人間国宝を生んだ「宮入鍛刀道場」でその体験が行われることから、そして、作るものが「切り出し小刀」ですから、「合わせ」の形で制作するものだとばかり思っていましたが、どうやら違うようです。


ですので、


「全鋼の無垢を鍛造し、形を整えて作るんだな」


と、またしても早合点してしまっていました。
そうこうしているうちに、体験の時間がきて、参加者は「鉄の展示館」のスタッフのかたが同行し、宮入鍛刀道場へと移動することに。


鍛刀道場は、清々しさと活気に満ちていました。
焼き入れを行う建物、削りや火造りを行うであろう場所(研ぎの部屋と隣接している)に大きく分かれているようです。


私たちは、建物と建物の間――十分なスペースがあり、万力(バイス)、ヤスリなどが用意されていました――に集められ、刀匠自らによる、今回の体験の説明を受けました。


鋼材はあらかじめ細長い長方形にカットされており、先端部が斜めに落とされています。







完成品の見本も置いてありますね。
ここで、マジックで書いた線に従って、ヤスリで削って形を整え、焼き入れ・焼き戻しをし、研いで完成、というプロセスが説明されました。


ここにきて、私はやはり自分が誤認していたことに気づくこととなりました。
つまり、今回の体験は「鍛造」ではなく、近代ナイフ作りのポピュラーな方法「ストック&リム―バル」によって作る、ということが分かったのです。


そして、若干混乱してしまいました。
なにしろ、このブログでも「鍛造体験をする」と意気揚々と書いていましたし、それに従ってデザインを頭のなかでぼんやりとですが、考えていたからです。


しかし、その混乱も即座におさまることとなります。
というのも、「実際の削り方」の見本を見せてくださった先生に、見覚えがあったからなのです。
しかも、刀匠とも親しげに談笑し、参加者の私たちにも本当に親身に指導してくださるのです。


「どこかでお見掛けした方だ……けど、お会いしたことはないし……」


と、考えていると、目の端に、刀匠の鍛刀場にはあまり似つかわしくない「ベルトサンダー」が映りました。
しかも、どう見てもカスタムナイフ用のそれです。


「削りの指導……そしてベルトサンダー……もしや、この先生は、カスタムナイフメーカーの方なのでは?」


そう考えた時、やっと、その先生――中村啓一郎さん――をどこでお見掛けしたかが分かったのです。
お名前を出したことで合点がいった方も多くいらっしゃるでしょう。
そう、『ナイフマガジン』誌にも何度も出ていらっしゃる、超ベテランのカスタムナイフメーカー、中村先生だったのです!


中村先生は、JKG(ジャパンナイフギルド)のイベントでも、削りの指導を行ったりと、その腕は折り紙付き。
人間国宝の鍛刀場で、日本が世界に誇る日本刀の刀匠、そして日本のカスタムナイフのトップメーカーのお2人が私たちに指導してくださるのです。


こんな異色の、そして最高のコラボレーションはちょっと他では考えられませんよね。
そして、私の混乱もあっという間におさまってしまいました。


「どのみち、ストック&リム―バルもやらないといけないと思っていたんだ。なら、このチャンスでいままで、頭のなかで温めていたアレを作るしかない!」


と、ポジティブに考えることが出来たのです。
その「アレ」とは、前回完成品をお見せしたアレです。


私は、『北欧ナイフ入門』という、電子書籍をリリースしています。


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幸い、多くの方に受け入れていただき、ブッシュクラフトブームと相まって(『ブッシュクラフト入門』 という本も出しています!)、「北欧ナイフに関する定番の一冊」となることが出来ました。


せっかくの体験なのですから、「北欧様式」を取り入れたものを、この最高の環境で作ってみたい! 
しかも、ストック&リム―バルのよい点は、一般的に鍛造のものよりも、細かなデザインを正確に再現できるところにもあるわけですから、それをやってみることにしました。


他の参加者の方たちは、みな普通の切り出し小刀を作っており、そのなかで、異色のものを作る、というのはある種の勇気が必要でしたが……。


そうと決まれば話は早い。
頂いた、鋼材に、ざっとマジックで線を書いていきます。そして、他の参加者がヤスリを使って少しづつ丁寧に削っていくなか、一人、ベルトサンダーへと向かいました。


「こういう形で作りたいのですが……」


と、中村先生に相談すると、


「うん、出来るよ。じゃあ、ちょっと削りの見本をみせるよ」


と、ブレードの曲線部分の削りを例に、指導してくださいました。





「左手でしっかりと抑えて、右手はあまり力を入れずに」


と、ポイントを説明してくださいました。
まさか、刀匠の鍛刀場で、ベルトグラインダーの使い方を教わることが出来るとは……。
ご指導のもと、削り終えたのが、こちらです。





マジックで書いた線に、迷いがあるのがわかりますね。
ともあれ、斜めに切り落とされた鋼材を、ベルトグラインダーで綺麗な曲線にもっていきます。
そして、その後、さらに削っていって(ディスクグラインダーを使いました)、最終的な形を決めていったというわけです。


ところで、ブレード部分の曲線を削った時に、中村先生から、


「このサイズだと、ハンドルが短くて握りにくいんじゃない?」


とのご指摘が。
私は、自分の考えを話しました。


「はい。これは、コンシールドタングにしてハンドルをつけようと思っています!」


「そうきたかぁ~」


と、中村先生は苦笑い。
そこに、宮入刀匠も、「どう? うまくいってる?」と、見にきてくださいました。
私の刃物の形を見るなり、


「これは……凝ったのを作るねぇ」


と、刀匠も苦笑い。
刀匠は、参加者全員の作業を見て回って、アドバイスをしてくれます。
また、刀匠のお弟子さんたち(お弟子さんも刀匠です!)も、参加者全員をしっかりとフォローして、道具などを出し、その使用方法などを丁寧に解説してくださいました。


ともあれ、ブレードの形状はこれでいいとして、なかご(タング)を含めた、全体の形を削り出さなければいけません。


しかし、それをベルトサンダーでやってしまうと、ベルトの目があっという間にダメになってしまいます(ベルト接触面が大きく、また削る量が多すぎる)。


ですので、お弟子さんがディスクグラインダーの使用を提案してくださいました。





これで、粗くタング部分を削り、細かなところはヤスリで仕上げる、という方法です。


確かに、ヤスリで少しづつ削っていくよりも、ディスクグラインダーを使えば遥かに効率的です。
しかし……ディスクグラインダーは重たい! 反対の手は、ブレードをしっかりと固定していますから、ディスクグラインダーは片手で使います。


最初はいいんですよ。


「おおお! よく削れる!」


なんて、のんきにやっていたのですが、


段々と、腕に力が入らなくなっていき……。
グラインダーを置くと、手がぶるぶると震えるように。


もしかすると、必要以上に力んでしまっていたのかもしれませんね。
ディスクグラインダーは、けっこう暴れるので、しっかりとナイフを保持し、グラインダーを持つ手もギュッと力を入れていたので、余計な力が入った可能性も高いのです。


「力みすぎない」


というのは、その後のヤスリの作業でも大事なポイントでした。
変に力を入れてしまったり、力みすぎるとかえって鋼材が削れないんです。

しっかりとヤスリを持ちながらも、やわらかく、しなやかにヤスリを当てていくと、気持ちよく鋼材を削っていけます。
つい、「早く削ろう」「大きく削ろう」と思ってしまうのですが、急がば回れで、そうしたときこそ、無駄な力を抜いてリズミカルに削っていくとよいようです。





削っている時の写真です。
左手が結構力んでしまっていて、パンパンになってます。
体験が終わったあとに気づいたのですが、ヤスリの先端部分を握っていた手に、いくつも水ぶくれが出来ていました。





大分、それらしくなってきました。
合間合間に、刀匠が「ここは、もう少し削ったほうがいい」といったアドバイスをくださいます。


他の参加者にも、





刀匠自ら、丁寧に指導してくださっていました。
これは「せん掛け」をしているところ。刃物に「裏スキ」をつくるために必要な工程です。


本当に、こんなに手厚くご指導くださるとは思いもよりませんでした。




というわけで、今日はこのくらいで。
削りが、おおよそ終わった、という段階ですね。


次回、焼き入れのお話しなどを中心に書いていこうと思います。
どうぞ、よろしくお願いします!!