有名な話、QCD(品質、コスト、納期)で日本が世界を凌駕した昭和50年(1975年)頃、事務屋経営者は「品質向上はコスト」だっていったのだ。

 戦後這い上がって来た多くの企業は、技術屋経営者が牽引してきたのだが、技術が向上し経営が軌道に乗って規模が拡大するにしたがって、事務屋経営者がのさばる様になってきた。

 その結果「教育もコスト」にされ、「学ぶ、極める、軽薄短小」という独特の向上力を持った、育成に時間のかかる日本人の職人的技術者の育成には投資せず、「ルール通り、マニュアル通り、いわれた通り」を徹底し、結局何の問題解決もできない木偶の坊の山を築き、とどのつまり「止める、切る、捨てる」を横行させてしまったのだ。

 そして、真面な採用試験をやる企業もどんどん少なくなっていった。

 バブル崩壊の本質を掴んだ経営コンサルタントが、真面な人材育成投資を真面目にやらない企業は何れ衰退すると、経営シミュレーションを通じて教育していたのは、1990年代前半だったろうか。

 その頃からだったろうか、大学によってはMOT(技術経営)なるものを取り入れたが、数学が苦手な事務屋が多かったせいなのか、新入社員でそれを駆使する、駆使できる人材には当たらなかった。

 そしてその新入社員たちの能力レベルが、昭和50年(1975年)頃に流行っていたQC的問題解決手法を駆使していた、中・高卒の技工さんよりも低レベルだったことは衝撃だった。

 新聞紙に掲載された、ある会社が2007年に、図面を読めない若者が増えたため、基礎学力を検証しようと、技術系の新人と50代(当時退職間際の)社員にテストを試みた話。

 結果はショッキングだったという。

 小6~中3程度の問題で、大学院卒が多い新人の平均点は、高卒が多い50代よりも30点も低い55点だったといい、幹部が「コンピューターがいくら発達しても、簡単な計算もできないのではミスを起こす」と憂いたという。

 同じころ、若手技術者が設計した発電所の発電機が、初めての稼働で焼き付く事故を起こし、原因が回転子(ローター)の熱膨張を考慮しなかったことだと報じていた。

 それがずっと続いている、それが今の日本の実力なのだ。

 事務屋系経営者と教育者の結束は固く、真面な人材育成への回帰は遠退き、失われた10年、20年、30年と続き、きっと40年、50年と続くのだろう。