元F1王者「マックスとランドとのバトルは、何年にも渡って語り継がれるものになると思う」 | 北海熊の独り言

元F1王者「マックスとランドとのバトルは、何年にも渡って語り継がれるものになると思う」

優勝を争う2人が残り8周という最終盤で衝突し、一方がリタイヤに終わっただけに当然とも言えるが、それにしてもマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とランド・ノリス(マクラーレン)のオーストリアGPでのインシデントを巡る議論は少々、過熱気味だ。

 

マクラーレンとレッドブルはメディアを介して対立姿勢を打ち出したが、ドライバースチュワードを務めたジョニー・ハーバートが指摘したように、当事者が相手方を非難するのは「F1におけるゲームの一部」であり、そこから有益な何かを得ることは当然、不可能でないにせよ、中々に難しい。

 

 

インシデントそれ自体に関しては、横転したわけでも、高速でクラッシュしたわけでも、一方が病院に搬送される事態に至ったわけでもなく、僅かに接触したのみで、結果的に当たりどころが悪かったがために、2台が揃ってパンクに見舞われたに過ぎない事故だったとも言える。

 

実際、例えばそれがアメリカ人ドライバーのローガン・サージェント(ウィリアムズ)と中国人ドライバーの周冠宇(ザウバー)との間で発生したものであった場合、これほどの論争に至ることはなかっただろう。

 

スチュワードはフェルスタッペンにペナルティを科した。事故の責任を負うべきはノリスではないと判断した。そしてペナルティが科されたこと自体には反論したものの、レッドブル・モータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコですら、フェルスタッペンの責任がゼロだと主張したりはしなかった。

 

ノリスに一切の過失がないかと言えばそうではない。フェルスタッペンについてスチュワードは「主な責任」があると指摘した。同じレース中にフェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)が周冠宇に衝突した件は、2度のF1王者に「全責任」があるとの判断が下された。

 

メルセデスのトト・ウォルフ代表はしばしば好んで「タンゴは2人で踊るものだ」というフレーズを口にする。インシデントは複数の要因やドライバー同士の相互作用によって成り立つものであり、どちらか一方が完全に責任を負わなければならないようなケースはそもそも少ない。

 

Sky Sportsで解説を務める元F1ドライバーのカルン・チャンドックは「タイトルを争う者として、リスクとリターンを天秤にかけなければならない。 最終的にランドはマックスよりも多くのものを失った」と指摘した。

 

たとえ相手に非があるとしても、自分は間違っていないとして、一歩引いてリスクを避けないスタンスでは世界の頂点に立つことは難しい。ましてや、そのリスクの結果を引き受けるのは自身だけでない。ドライバーの後ろには、3桁もの従業員を抱えるチーム、チームに多額を提供するスポンサー、そして数え切れない数のファンがいる。

 

 

結局のところ、それは世界トップ水準のドライバー2人が、ルールとコース、クルマを限界ギリギリまで使って繰り広げた84分間に渡る頂上決戦の中で、一瞬のみ生じた些細な行き違い、あるいは僅かなミスによって生まれた1コマだったと捉えることもできるが、見方は様々だ。

 

権威とされるものを含めてノリスの母国、イギリスの幾つかの主要メディアは意見記事の中で、2021年のルイス・ハミルトン(メルセデス)とのタイトル争いにおけるドライビングなど、過去の事例を引き合いに出すなどしてフェルスタッペンに対する非難を声高に主張した。今回の事故そのものではなく、周辺文脈にフォーカスしている点が印象的だった。

 

 

一方で2009年のF1ワールドチャンピオン、ジェンソン・バトンは、事故そのものに焦点を当てて一件をジャッジした。

 

自身とノリスの母国、英Sky Sportsに対して44歳のイギリス人ドライバーは「レースを観ていて本当に楽しかった。現実離れしたアクション、マックスとランドとのバトルは観ていて凄く楽しめた。このレースは今後、何年にも渡って語り継がれるものになると思う」と語った。

 

「ブレーキングゾーンでのマックスの動きや、もっと重いペナルティが科されるべきだという議論が交わされているけど、僕はそうは思わない。賛否両論あるかもしれないけどね」

 

「彼はブレーキングで僅かに左側に寄ってしまったわけだけど、(コーナーのエントリーである)右側を見ていて、少し左に動くことは時々あることだ。彼が左に寄ったのはランドがそこにいたからだと思う。それが問題視され、彼は10秒のペナルティを受けた」

 

「ランドの方も左側に動ける余地があった。スペースは十分にあったわけで、接触を避けることができたはずだ」

 

「2023年、つまり昨年のオーストリアGPでも、凄く似たようなことがあった。まったく同じコーナーでカルロス・サインツがイン側、マックスがアウト側にいた。カルロスは(今回の)マックスと全く同じように左側に動いたけど、マックスは彼と並んで少し左に動き、縁石の上に乗ったものの接触はしなかった」

 

「激しいレースにおいては、時に上手くいかないこともある。レースを終えて僕らはそれについて長々と話をすることもあるけど、この2人はこれから何年にも渡って戦い続けるだろうから、話題にできるのは素晴らしいことだと思う」

 

「以前のマックスは特にルイスに対して、少し攻撃的すぎるところがあったように思う。でも、今のランドに対しては、そういう印象はない。2人がさらに一歩踏み込めば、もちろんそうなるだろうけどね」

 

「ドライバー達が『アイツが僕を追い出した。アイツが妨害した。アイツがこんなことをした』って無線で訴えることは、これまでなかったわけだけど、それはスチュワードの耳に入って、上手くいけば何か対処してくれるだろうってことを知っているからこそ、そうしたんだ」

 

「アンドレス(ザイドル、マクラーレン代表)も同じだ。彼はそれが反響を呼び、結果を変える可能性があることを知っていたわけだからね」

 

長年のメディア対応で身につけたバトンのバランス感覚は絶妙だ。

 

回答に苦慮する質問を経て、今週末に控えるイギリスGPでは誰がシャンパンでシャワーをすると思うか?と尋ねられると、「誰がコーチビルド・ウイスキーでシャワーするかって?」とすっとぼけた後、「今回はランドだと思う。ランド・ノリスだよ!」と自国の後輩を挙げた。

 

バトンはF1引退後の2022年にウイスキーの専門家、ジョージ・コウサキスと共にスコッチ・ウイスキー「コーチビルド」を立ち上げた。イギリスGPのイベント初日には、ウィリアムズFW18を記念するコーチビルトの限定版ウィスキーが発売される。