メルセデス元技術責任者、古巣の”復活”は簡単ではないと推測 | 北海熊の独り言

メルセデス元技術責任者、古巣の”復活”は簡単ではないと推測

メルセデスF1の現在の苦戦について、同チームで以前技術責任者を務めていたパディ・ロウは、現在のレギュレーションが導入された当初、開発の方向性を見誤り、そこから修正するのに苦労していることが原因だろうと推察した。

 

メルセデスは2014年に現行の”パワーユニット”レギュレーションが導入されると無類の強さを見せ、同年から2020年までダブルタイトルを7年連続で独占した。まさに敵なしという状況だった。

 

 ただ2021年にメルセデスはコンストラクターズタイトルこそ手にしたものの、ドライバーズタイトルはレッドブルのマックス・フェルスタッペンに奪われ、そして2022年を迎えた。この2022年からはF1マシンの空力に関するレギュレーションが大きく変更。するとメルセデスは勢いを失い、一気に低迷。以後今季マイアミGPまでの間に挙げた勝利は、2022年のサンパウロGPただ1勝のみである。

 

2024年にメルセデスは低迷からの脱却を目指し、マシンのコンセプトを変更。しかしその効果はなく、ランキングは4番手。首位レッドブルはおろか、フェラーリやマクラーレンにも差をつけられてしまっている。マイアミGP終了後にジョージ・ラッセルは、現時点では4番目のパフォーマンスであることを受け入れる必要があると語った。

 

 2013年から2017年まで、メルセデスの技術責任者を務めたロウは、チームが現行のレギュレーションを解釈する際に、空力の観点から誤った判断を下した影響がまだ尾を引いていると考えている。

 

「とても同情する。しかし公平に考えると、うまくいっているチームと話をすると、『良いマシンを手にしている時には、F1では幸運に恵まれたと思うべきだ。それが常に自分たちの力だと思ってはいけない』と言うものなんだ」

 

ロウはそう語った。

 

「それは、長年にわたって我々のほとんどが学んだメッセージなんだ」

 

「メルセデスは空力的に、いくつか間違った方向転換をした。我々が使っているツールは、風洞やCFDなど、信じられないほど洗練されている。それでも大きな欠陥があるものだ。それは、全てのチームが認めるだろう」

 

「つまり、うまくいかない方向性に進んでしまうリスクが常にあって、そうなった場合には回復しなきゃいけない。メルセデスも同様だったことが分かる」

 

「時間が解決してくれるわけじゃないんだ」

 

「チームにはものすごい数のスタッフがいて、アイデアをテストしたり評価したりするための全ての機械を通して、毎日ラップタイムを削り取っていかなければいけない。しかしライバルも同じことをしているのに、何らかの理由で3ヵ月とか4ヵ月、あるいは半年遅れをとってしまった場合には、それを埋めるのは非常に困難だ。追いつくまでの間、この遅れが長期間維持されてしまうことになる」

 

「メルセデスを見ていると、それが現在の彼らが置かれている状況だと思う」

 

 

 メルセデスが復活する可能性はあると思うかと尋ねられたロウは、率直に次のように語った。

 

「到達できるかもしれないし、無理かもしれない。もしくは、さらに悪化してしまう場合もある。でもそれがF1の本質だ。チャンピオンになり、それが没落していく……このスポーツがとても魅力的な理由はそこにある」

 

 そうロウは語った。

 

「帝国は栄枯盛衰を繰り返す。私はいつも、F1は古代のローマやギリシャに似たところがあると思っていたんだ。そうなるのには多くの要素があるが、そのひとつは慢心だと思う。ローマにもそういうのが見られた」

 

「1992年にウイリアムズで、マクラーレンに勝つことができて嬉しかった。 彼らは何年もの間無敵だったが、彼らを打ち負かした。最初は信じられないかもしれないが、何かが変わり、それが多くのことが寄与している可能性があるものだ」

 

 ロウは2026年に導入が予定されている新しいレギュレーションが、メルセデスがかつての栄光を取り戻す貴重な機会になる可能性があると考えている。

 

「2026年からのレギュレーションは、混乱を引き起こす要因となるだろう。メルセデスがそれにより、現状を打破できるのかを楽しみにしている」

 

そうロウは語った。

 

「しかし残念なことに、今のF1は、それまでに選択したり、コピーしたり、進化させたりしてきたいくつかの基本的な構造の上に、非常に細かいレベルで最適化させていくことが重要なんだ。その中で、大きな変化を起こすのは非常に難しい」