【SF】Juju、決勝好走の裏にあった“土曜夜の方針転換” | 北海熊の独り言

【SF】Juju、決勝好走の裏にあった“土曜夜の方針転換”

「クルマと友達になれた感じはします」

 17位でスーパーフォーミュラ初レースを終えたJuju(TGM Grand Prix)は、多くのメディアに囲まれたミックスゾーンで、そう口にした。

 史上最年少の18歳とひと月あまり、そして日本人女性初の日本のトップフォーミュラ参戦とあり、デビュー前から多くのファン、そしてメディアから注目が集まったJuju。しかしながら、これまでJujuが経験してきたマシンとはダウンフォース、パワーが飛躍的に大きくなるスーパーフォーミュラのマシン、そして経験の少ない日本のサーキットということもあり、ラップタイムの面では上位勢から差をつけられる状態となっていた。

 2023年12月のテストでは首位から2秒あまり、2024年2月のテストではそれが約4秒と広がり、第1戦の予選ではトップタイムから約4.8秒とギャップがさらに拡大する傾向に、決勝レースに向けてはそのポテンシャルを疑問視する向きもあった(予選については、2回目のアタックに入れなかったことも影響していたが)。

 ところが、“ロケットスタート”を決めた決勝では状況が一転。比較的コンスタントに1分42秒台のラップを刻んだJujuは、15周目にタイヤ交換を済ませると、17周目には自己ベストとなる1分40秒895を記録した。山本尚貴(PONOS NAKAJIMA RACING)のファステストラップからは、1.608秒の遅れにとどまっている。

 もちろん、たとえば優勝を飾った野尻智紀(TEAM MUGEN)は1分40~41秒台前半をコンスタントに刻んでおり、上位勢とは依然として差があるの事実だ。しかし、予選までと比べて、Jujuが決勝で一気にパフォーマンスを上げたことは間違いない。

 2回/計5日間のテスト、そして第1戦の舞台はいずれも鈴鹿サーキットであり、走り込みはしてきたコースだ。決勝前半の十数周のうちにJuju本人のコース(とマシンへの)習熟が急速に進んだことが「クルマと友達になれた」要因とは考えにくい。他に、何か根本的なものがあるのではないだろうか。

 この、大きく改善されたタイム差の秘密を探るべく、撤収が進む決勝後のピットで、Jujuを担当する平野亮エンジニアに話を聞いた。

エンジニア陣が“チビってしまっていた”領域

 Jujuが目標としていた完走に加え、急遽レースウイークに参戦が決まった松下信治が8位入賞を果たしたこともあって、レース後のTGMのガレージ内には明るい雰囲気が漂っていた。

 平野エンジニアは「決勝に関しては、結構戦えたかなと思います。ちょっとウォームアップには課題があり、アウトラップで少しタイムを落としてしまったというのはありますが、速いラップを刻んで、前半は笹原(右京)選手を、ピットに入る直前には大湯(都史樹)選手を追い詰めることができたのは、すごい成長かなと思います」とJujuの初レースを振り返った。

 19番グリッドからのスタート自体は良く、1コーナーまでに数台のマシンを追い抜くことができたものの、右フロントタイヤをロックさせながらコースオフ。ポジションを落としてしまったが、「いままでは、そこまで攻めたブレーキングができていませんでした。冷えたタイヤであれだけ攻めたブレーキングができたこと、そしてあそこまでいくとロックするという経験もできたので、次からは(スタートが)いい武器になるのではないでしょうか」と平野エンジニアはポジティブに捉えている。

 戦略面では、レース中にJuju本人が重要なインフォメーションをピットに伝えていた。

 寒いコンディションとなったことで、「(ピットインできるミニマム周回数の)10周目までにタイヤを温められない可能性も少し考えて」、当初はしっかりと温まったタイヤで第1スティントを伸ばすことを想定していたと平野エンジニアは明かしたが、「大湯選手に引っかかりそうになり、『どうしようかな?』と考えているタイミングで、Juju選手の方から『タイヤがちょっと落ちてきたかな』というコメントがあったので、引っかかるくらいならピットに入れてアンダーカットを狙ってみよう、という作戦になりました」と、ほぼ中間点となる15周でのタイヤ交換を決断した。

「レースペースが良くて、僕らの方がソワソワしてしまったほどで、Juju選手の方が落ち着いていたかな」と平野エンジニアは笑う。

 その良好なレースペースは、想定よりもトップとのタイム差がついてしまった予選後、Jujuとその父親でもある野田英樹ドライビングアドバイザー、そしてエンジニア陣でのミーティングから導き出された、ある種の方針転換が発端となっていた。

「本来、Juju選手はもっと行ける実力を持っていたのに、我々エンジニア陣がチビってしまっていて、僕らがブレーキをかけていた領域がありました。でもそれを払拭して、攻めの方向性で決勝に行ってみたら、バチっと来たな、という感じです」と平野エンジニアは説明する。

 エンジニア陣が不安に感じていた部分とは、タイヤのウォームアップに関連するものだった。冬のテストではタイヤのウォームアップに苦しみ、その結果マシンのバランスをつかみづらい状況に陥っていたことから、『ウォームアップさせやすいセット』そして、『スピンにつながるオーバーステア傾向ではなく、より安全なアンダーステア傾向のセット』になっていたという。

「タイヤをウォームアップさせるためには、その方向がいいのかなという判断でした。タイムを出すような、攻めのセットアップになっていませんでした」と平野エンジニアは予選日までの車両コンセプトを明かす。

「一般的に、アンダーステアは怖くないですが、オーバーステアは怖い。でも、タイムを求めて旋回性能を高めていくと、オーバー傾向になる。それに耐えられるのかな、と考えてしまい、僕ら(エンジニア)が攻めきれていないセットアップで走った結果、予選ではああいう形になってしまいました」

「でも予選日の夜、しっかりと長い時間をかけて一緒に話し合って方針を決めて、その結果のセットアップで朝のフリー走行を走ってみたら『いいね』『いけるね』と。そこで自信が持て、『攻めたセットアップで決勝は行ってみよう』と決断できたことが、成功のカギだったかなと思います」

 予選日夜の話し合いを、チームとしても「大きなステップだった」と振り返る平野エンジニア。今後はJujuにとって初走行のサーキットが続いていくが、「我々がこれまで蓄積したデータから、走り出しのセットアップを決めていきます。『ルーキーだから、初めてだから、乗りやすい方がいいかな』と考えることはないでしょう」と、第2戦以降の方向性を決めるうえでも大きな糧となる、デビュー戦となった。