元F1ドライバー、F1で導入予定eフューエルに疑問「ナンセンス。電力をそのまま使った方が効率的」 | 北海熊の独り言

元F1ドライバー、F1で導入予定eフューエルに疑問「ナンセンス。電力をそのまま使った方が効率的」

元F1ドライバーであり、フォーミュラEではチャンピオンにも輝いたルーカス・ディ・グラッシが、次世代のエネルギー源として注目を集めるeフューエルについて、持論を綴った。ディ・グラッシ曰く、このeフューエルが将来自動車で一般的に使われるということに関しては、大いに疑問に思っているという。

 

「eフューエルに関する話題は、2026年から100%持続可能燃料を使うというF1の取り組みによって、大きく注目され始めている。他にも、2022年からWRC(世界ラリー選手権)では合成燃料とバイオ燃料を混合させた燃料を用い、インディカーでも、サトウキビ由来の第2世代エタノールを今シーズンから使っている」

 

 「内燃エンジン(ICE)を生き残らせるため、eフューエルに巨額の投資が行なわれている。EUでは、2035年以降ICEを使う自動車の販売が禁止されることになっているが、合成燃料を使う場合には禁止措置から除外されることになった。これにより、化石由来の燃料使用を制限することになるわけで、この取り組みは歓迎されている。しかしこのeフューエルは、モータースポーツの今後を担う、最善の方法なのだろうか?」

 

「eフューエルを作るには、膨大なエネルギーを要する。空気中から二酸化炭素を抜き取り、水から抽出した水素と結合させる必要がある。それは、魔法でもなんでもない」

 

「しかし、最初にエネルギーを使って燃料に変換し、それを燃焼サイクルで取り出す……ということになる。つまりこの大量のエネルギーを持つ燃料を作るためには、まず最初に多量のエネルギーを生み出す必要がある。次のこの燃料を製造工場から給油所まで輸送し、ポンプで自動車に注入する必要がある。そしてようやくエンジンを稼働させることができるのだ」

 

「2026年からのF1のエンジンは、このeフューエルを燃焼させることになる。この燃料を作る際に空気中から取り込んだ炭素を、燃焼して再び大気中に戻すというサイクルになるため、確かにカーボンニュートラルであると言える。しかし、製造も含めた全ての工程を考えると、本当に再生可能なモノであるのか? さらに費用対効果が伴っているのかという疑問は、依然として残る」

 

「eフューエルを作るために、二酸化炭素を排出してしまっては元も子もない。水から水素を分解する際には大量の電力を必要とするが、完全なカーボンニュートラルを実現するためには、この時に使う電力は、火力発電で賄われたモノではなく、再生可能電力……つまり太陽光や風力、さらには水力発電で生み出されたモノでなくてはならないということを意味する。アメリカやヨーロッパの電力は、基本的には炭素に依存する割合が大きい。再生可能電力は非常に高価であり、供給量も豊富であるとは言えない。そのためeフューエルは、商業的なことを考えれば現実的な選択肢ではない」

 

「F1がeフューエルを使うようになるとはいっても、それを作るためのエネルギーは非常に高価で限定的であるため、一般車の市場もそれに追随できるわけではない。エンジン音を奏でなければ意味がない、しかしカーボンニュートラルを追求したい……そんなクラシックなレーシングカーで使う以外には、現実的な使い道はないだろう」

 

「空気中から二酸化炭素を抽出する、ダイレクト・エア・キャプチャという技術は、まだ開発の初期段階。そのため、将来的にはより価格が下がる可能性がある。ただそれも、まだまだ先の話だ。ボッシュが2020年に算出したところによれば、eフューエルの価格は、2030年まではリッターあたり1.20ユーロ(約180円)を下回ることはないだろうという。ただこれもあくまで予測であり、国際クリーン交通評議会は、楽観的すぎる予測だと見做している」

 

「しかも、化石燃料由来のガソリンを全てeフューエルに置き換えるのは、まず不可能だ。それだけの量のeフューエルを生産するのに十分な再生可能エネルギーは、現時点で地球上には存在しない。もしeフューエルの普及が進んだとしても、2035年にeフューエルで走ることができる自動車は、世界合計2億8700万台のうち、わずか500万台だけだろうという見積もりもある。この500万台という数字は、EC圏内で走る自動車のわずか2%にすぎない」

 

「安価な再生可能エネルギーが生み出されたとしても、それをeフューエルに変換するのは、実に非効率である。eフューエルの製造、輸送、燃料におけるエネルギー損失は、バッテリー式電気自動車よりもはるかに大きい。電気自動車での効率が77%であるのに対し、eフューエルではわずか16%の効率になってしまうという試算もある」

 

「航空業界の電動化は、まだまだ先の話だ。しかし市販車やサーキットなど、EVというオプションが存在するならば、eフューエルでは電動モーターと同じエネルギー量から、同じだけの運動量を生み出すことは不可能だと言える。過程のプロセスを改善し、その差を縮めることはできるだろうが、物理の法則には限界もある。私としては、eフューエルを作るプロセスを全てスキップして、電気をバッテリーに直接充電して使う方が合理的だと考える」

 

「eフューエルは、モータースポーツの未来を救うことができるのか? その主な目的がマーケティングやイメージであるならば、それには一定の効果があると主張することができる。スポンサーを満足させる良い手法だと言えよう」

 

「しかし一般の人々が自分たちが乗る車に使う、その技術をF1が追求すると言うのは、私からすれば全くナンセンスな話だと思う」