【WRC】難しいラリー1のハイブリッド運用。スウェーデンでは「使い切れない」と勝田貴元 | 北海熊の独り言

【WRC】難しいラリー1のハイブリッド運用。スウェーデンでは「使い切れない」と勝田貴元

1月下旬に伝統のモンテカルロで開幕したWRC世界ラリー選手権は、2月24~27日に第2戦スウェーデンが行われ、TOYOTA GAZOO Racing WRTのカッレ・ロバンペラ(トヨタGRヤリス・ラリー1)が今季初勝利を収めた。日本人WRCドライバーの勝田貴元は同イベントで総合4位に入り

 

、トヨタのワン・スリー・フォー・フィニッシュの一翼を担ってみせた。そんな勝田がラリー後のオンライン・グループインタビューに登場し、ラリー・スウェーデンでの戦いを振り返った。

 

 改めて2022年シーズンのWRCを簡単に紹介すると、今季は最高峰カテゴリーの車両規定が一新され、競技車両が四半世紀にわたって活躍してきたWRカーから“ラリー1カー”と呼ばれるプラグイン・ハイブリッド車に置き換えられている。

 

 今シーズン登場した『トヨタGRヤリス・ラリー1』、『ヒュンダイi20 Nラリー1』、『フォード・プーマ・ラリー1』という各チームの新型モデルには、最大100kW(約134PS)のブーストが得られる共通仕様のハイブリッドシステムが搭載され、競技中に電気モーターによるブーストを使用したり、ブレーキング時の回生、リエゾン(移動区間)の一部やサービスパーク内でのEV走行などが可能に。一部は規則により義務化されている。

新しいラリー・スウェーデンの印象

そんな“新時代”のWRCの第2ラウンドの舞台となったのは、北欧スウェーデンが誇るシーズン唯一のフルスノーラリー『ラリー・スウェーデン』だ。スタッドと呼ばれる金属製のスパイクが埋め込まれた雪道専用タイヤを使用して争われる同イベントは、今年2年ぶりの開催となり、同時に新たな開催地での実施となった。

 

「たしかに、直線が長い部分とそれらがジャンクションでつながっているセクションが多かったですが、ライブ中継に映っていない部分でテクニカルなセクションとか、かなり狭くツイスティのセクションも意外とあり、そういったところのコンビネーションという意味では、今までのラリー・スウェーデンよりもどちらかと言えばラップランド(・ラリー/フィンランド)寄りかな、という感じはしました」と新生ラリー・スウェーデンの印象を語った勝田。彼は続けて、雪を求めて北部のウメオに移動した新しいイベントに太鼓判を押した。

 

「雪の量やコンディションに関してはラップランドと遜色ないくらいで、以前ラリーが行われていたトルシュビーと比べると間違いなく、今後も雪やアイスを心配することなく(フルスノーラリーが)開催できる場所なんじゃないかと思います」

 

「走ってても非常に楽しいステージでしたし、かなり高速ではありましたがその中でどれだけミスなく踏んでいけるかという部分と、試される部分がたくさんあって、そこはまた新たなラリー・スウェーデンかな、という感覚でした」

 

駆動系のセッティングを変更してペースアップ

 

【シリーズ屈指のハイスピードラリーは開催地が北部のウメオに移っても健在。多くのSSがが全壊率の高いステージで実施された】

【勝田貴元はシェイクダウンの1走目と、デイ1午後のステージでスノーバンクに突っ込んでいしまう】

 

今回のラリーで、勝田は初日午後のループでスノーバンク(雪の壁)にヒットしその場でスタックしてしまうシーンがあり、これによって30秒ほどタイムを失ってしまう。その日の夜のサービスで大きくセッティングを変更。これが奏功しデイ2ではペースアップに成功する。

 

 また、デイ2以降はクルマのフィーリングに自信を持てるようになり、最終日のパワーステージでは4番手タイムを記録して、総合4位完走の選手権ポイントに加えてボーナスの2ポイントをトヨタのサテライトチームに持ち帰っている。

 

 デイ1とデイ2の間に行われたGRヤリス・ラリー1の改善について、彼は次のように説明した。

 

「細かく言える部分や言えない部分があるのですけど、基本的にはメカニカルな駆動系の部分と足回り、ダンパー関連を結構変更してクルマのバランスを大きく変えました」

 

「その中でもやはりメインは駆動系ですね。デフ関連の変更を大きく施し、そこの影響が非常に強く出た印象です」

 

「(新規定のラリー1カーでは)センターデフがない分、そのあたりの影響が顕著に表れると感じているので、そうしたところを今後もテストも含めて気をつけてやっていかなければならないかなと思います」

ハイブリッドブーストが“速さに直結しない”場合がある

ラリー・スウェーデンでは共通ハイブリッドシステムのトラブルによるリタイアが2件発生。優勝したロバンペラも、最終日はブーストが効かない状態での走行を強いられた。それでも21歳のフライング・フィンは日曜日のオープニングステージでベストタイムを記録。最終パワーステージでも2番手タイムをマークしてみせた。

 

 このことについて勝田に尋ねると、彼は今回のラリーのハイスピードなステージ特性が、タイムにおけるハイブリッドブーストの比重を下げたとの見解を示した。

「この件については他のドライバーやロバンペラ選手とも話しているのですけど、やはり難しいのは(ハイブリッド)ブーストがあっても、“使いきれない”というのが実際のところなんです」

 

「というのも(タイヤが)空転しすぎてしまう分トラクションがしっかりかからず、ブーストがあったとしても『速さにつながっていないのではないか』というセクションが非常に多くあったんですね」

 

「とくに最終日と、2日目のたとえば2本目に関しては非常に高速コーナーが多いステージだったので、(制動直後の加速時にブーストを得るために必要となる)3秒以上のブレーキをかける時間がないことがほとんどでした」

 

「実際、たとえば僕が最終日の早朝1本目のかなりハイスピードなステージを走っても、ほぼバッテリーを使っていない状況でした。(他のSSを含めて)ブースト自体を使えていないステージが多かったのです」

 

「ハイスピードな分、少しだけのブレーキだったり、アクセルを踏みながら左足でちょんちょんと当てるだけのブレーキだけのコーナーが非常に多く、そこで(ブーストを作動させるための有効な)回生が効かず、結果ブーストも効かずという感じで……要するにブーストでタイムを稼げたセクションが、モンテカルロのようなターマックのツイスティなラリーに比べると非常に少なかったと感じています」

 

「なので、そういったところは逆に言うと、どこでタイムを稼いでいくべきか、どこでブーストをうまく使っていくべきかというところが今後の課題になっていくように思ので、良いテストというか比較になったんじゃないかと思います」

 

 今回トヨタは、レギュレーションで認められている3つのブースト出力マップのうち、もっとも出力が小さいマップを使用していたという。勝田によれば、それでも「ギアが3速、4速に行くまで空転しかしないような感覚」であったといい、ブーストをうまく使えなかったことを今戦の大きな課題のひとつに挙げた。

 

 同様のケースは、同じく高速ラリーのフィンランドでも発生する可能性が考えられるが、一方で勝田の言葉にもあったようにツイスティなターマックラリーの場合は、反対にハイブリッドブーストがタイム向上に大きく寄与することが予測できる。そうしたことから2022年シーズンからの“WRC新時代”はハイブリッドの運用面も勝負を分ける重要なカギのひとつとなりそうだ。

 

【WRC第2戦ラリー・スウェーデンで総合4位となった勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1) 2022年WRC第2戦スウェーデン】