無痛分娩に関するアンケートでは、「出産の痛みが大切である」といった内容の言葉に触れた経験があると答えた人が、全体の半数を超えました。
この結果にはどのような背景があるのでしょうか。
実際に出産の痛みを体験することのない男性の立場から、「産みの苦しみ」について考察します。
(※2025年9月14日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)  


父としての自覚はどう育つのか?ある男性が語る実体験


出産という体験を経ることのない男性にとって、「父性」はどのように育まれていくのでしょうか。
父親の子育て参加を支援するNPO法人「ファザーリング・ジャパン」に所属する古関謙さん(34)は、現在4歳と1歳の子どもを育てながら、父性と母性の違いに向き合い、その意味について考え続けてきたと語ります。


父になるということ・・・「父性」のかたち


――パートナーの方は無痛分娩を選ばれたそうですね。
「当初は妻も『一度くらいは出産の痛みを体験してみたい』と話していて、自然分娩も視野に入れていました。ただ、妊娠中に絨毛膜下血腫が見つかり、安静が必要な状態となりました。産後の回復が比較的早いと説明を受け、赤ちゃんのお世話にしっかり取り組むために無痛分娩を選びました。
とはいえ、“無痛”といってもまったく痛くないわけではなく、かなりつらそうな様子でした。」
――「出産の痛みが母性につながる」という考え方について、どう思われますか。
「母親は妊娠中から赤ちゃんの動きを感じ、無事に産まれてくれるか常に不安を抱えています。食事に気をつけたり、安静が必要なときには寝たきりになったり。そうした日々の積み重ねの先に、大きな痛みを乗り越えて母親になることが当然かのように思われているのではないでしょうか。」
「『痛みを経験しないのはズルい』というような無痛分娩への否定的な意見もありますが、私はむしろ、産後に赤ちゃんのために力を注ぐための準備だと考えれば、無痛分娩も立派な選択肢だと思います。」
――「父性」はどのようにして芽生えるとお考えですか。
「長女の妊娠中や出産直後は、正直なところ実感がわきづらく、自分が父親になったという意識も薄かったです。コロナ禍で立ち会い出産もできず、父親としての覚悟はあとから少しずつ育っていったという感覚でした。」
「2人目を流産したときに、それを痛感しました。妻は深く落ち込みましたが、私は現実味が持てず、そこに大きな温度差が生まれてしまいました。そのとき、赤ちゃんを実際にお腹で育ててきた人との違いを身をもって知りました。」
「その後、次女を授かった際には、ほぼすべての妊婦健診に付き添いました。超音波をあてる先生の表情に一喜一憂し、『順調ですよ』の一言に安心する。そうした時間を共に過ごす中で、やっと父としての実感が芽生えていったのです。」
――妊娠期からの関わりが、父親としての自覚につながったのですね。
「もう一つ、大きなきっかけとなったのが『ワンオペ育児』の経験です。私はテレワーク中心の働き方をしていたため、1人で子どもを見る時間が多くありました。さらに次女の妊娠中に妻が切迫早産で半年ほど入院し、完全に1人で育児を担う時期もありました。大変ではありましたが、その中で“この子は自分が守らなければならない”という強い思いが生まれました。これは、母性なのか父性なのか、自分でも言い表せない深い愛情だったと思います。」
「女性には妊娠が判明してから出産まで約9カ月間という準備期間がありますが、男性はある日突然“父になる”わけで、その差に劣等感を覚えることもありました。仕事に例えるなら、自分だけ9カ月遅れて同期と同じ部署に配属されたようなものです。」
「でも、育児って1年もすればスタートの差なんて気にならなくなりますよね。がむしゃらにやっていれば、いつの間にか追いつける。父親になるということも、きっとそういうことなんだと思います。」


無痛分娩の助成制度に感じた葛藤、別の男性の思い


東京都では今年10月から、都民を対象に無痛分娩の費用を最大で10万円まで助成する制度がスタートします。
「もう少し妻の出産予定日が遅ければ、対象になったのに……」。
そうした複雑な思いをアンケートに記入したのが、都内に住む大学職員の山下港さん(37)です。
今回、その胸の内についてお話を伺いました。


「痛みは必要なのか」無痛分娩をめぐる葛藤と向き合う男性の本音


――現在、無痛分娩を検討されているのですか。
「はい。妻は9月末に第1子を出産予定なのですが、費用面を考えて、無痛分娩にするかどうかを話し合っているところです。おなかの赤ちゃんに少し健康上の懸念があり、新生児集中治療室(NICU)が整備された病院で出産することになりました。ただ、そこで無痛分娩を選択すると、費用が総額で100万円を超えてしまうのです。出産予定日が9月30日なので、あと1日遅ければ東京都の助成制度の対象になったのに…と、正直やるせない気持ちがあります。」
「本音を言えば、金額そのものよりも、支援制度があるなかで自分たちがそこから外れてしまったという“取り残された感覚”のほうが強くて、モヤモヤした気持ちを抱えています。」
――出産をしない立場から、どのようにお考えですか。
「実は、自分の中にも『出産の痛みには意味があるのでは』という気持ちがあるのは事実です。子どもは2人以上欲しいと思っているので、『1人目は自然分娩でもいいのでは』と考えたりもします。ただ、その考えが“男目線”の思い込みではないかと感じていて、そこにもモヤモヤを抱えています。」
――そう考えるようになった背景には何かありますか。
「小さいころから、母によく『あなたを産むのは本当に大変だった』と聞かされて育ちました。妊娠がわかった1カ月後に母に無痛分娩のことを話した際も、はっきり反対はされませんでしたが、『痛みを経験することで母性が育つ』といったことを言われました。知らず知らずのうちに、そうした考え方が自分の中にも染みついていたのかもしれません。」
――もしご自身が出産する立場だったら、どうされますか。
「正直、私自身には“痛みを経験してみたい”という好奇心はあります。でも、例えば盲腸の手術を受けるとなれば、『麻酔なしでやってみよう』なんて絶対に思いませんよね。でも出産になると、『痛くて当たり前』という空気がなぜか残っていることに疑問を感じています。」
「最終的には、妻がどうしたいかが一番大事だと思っています。母になる人が、安心して出産できる方法を選べること。それが一番望ましい形ではないでしょうか。」