実家の片づけをしていたときに、祖父母の公正証書遺言がでてきた。それぞれ一通ずつで二通だ。父と母が亡くなって、実家が空家になったために、家の中のものを処分していてみつけたのである。祖父母の公正証書遺言は、どちらかが先に死んだ場合は、たがいに相手に全財産を相続させる、という内容になっていた。祖父母には子供がふたりいたから、祖父は自分が先に死ぬだろうと考えて、財産は子にはわたさず、祖母にわたるようにしたのだとおもう。祖母が老後の資金にこまらないように。証人は近所の懇意にしていた方におねがいしていた。孫の私はもちろん遺言のことは知らなかった。しかし、証書をみていると、祖父のかんがえていたことがわかるような年になった。

 

公証人役場に予約をした当日。公証人役場で司法書士の方と司法書士事務所の事務員の方と待ち合わせをした。おふたりに証人になってもらうためだ。私と証人のふたりがそろったところで、公正証書遺言の作成の手続きにはいる。

 

まず公証人役場でつくられた公正証書遺言の電子データが、公証人役場の上部組織におくられて、保管されると説明があった。万が一公証人役場が火事にでもなり、公正証書の原本がうしなわれてしまっても、内容を保存するためとのことだ。またどこの公証人役場でもデータをだすことができるようになるとのこと。個人情報が保存されるため、かならずこの説明をしなければならないそうだ。

 

 

つづいて財産を相続するのは誰か、という質問があった。これは妻である。また、遺言の執行者はだれであるか、との質問もあり、これも妻であると答えた。これは決まりごとのようで、はじめにそのように質問されると、司法書士の方より事前にきかされていた。

 

つづいて公正証書遺言の全文を公証人の方が読み上げる。

 

 

全文を読み上げたところで間違いはないかと確認される。まちがいはない。そこで遺言者の私が原本にサインし実印をおす。つづいて証人のふたりもサインを書いて捺印した。この後で公証人は公正証書の最終的な仕上げにとりかかった。

 

数分後に公正証書遺言は完成した。原本は公証人役場に保管され、正本は私がうけとり、謄本は司法書士事務所が保管したいと希望するのでそうした。正本と謄本では正本のほうが格が高いとされているそうだ。いまはなくなったが、以前は銀行に謄本をもってゆくと、正本でなければだめだといわれたとのこと。

 

公証人の方が、昔は遺言者の話を公証人がきいて、文案をつくり、それを読んで聞かせて、まちがいがないなと確認して、公正証書をつくった。しかし今はそんなことをする人はいなくて、私のように司法書士の方をとおすのがほとんどとのこと。お金はかかるがそのほうがはやくて合理的だ。

 

以上で公正証書遺言の作成はおわった。かかった期間は2ヶ月ほど。費用は司法書士事務所が約9万円。公証人役場が約6万円であった。

 

祖父は自分が祖母よりも先に死ぬと考えて公正証書遺言をつくった。しかし現実には祖母が先に世をさった。先のことはどうなるのかだれにもわからない。だから何もしなくともよいわけではない。無駄になるかもしれないが、最善とおもえることをして準備をしておかねばならないと思う。