遺言は遺書ではない。これを勘違いしている人が多い。自分が死ぬことはかんがえたくない、そんなことにはふれたくもないと思って、遺言をつくることを避けてしまうのだ。遺書は、死を間近にかんじて、心情や希望、もしくは恨みつらみなどを書くものだろう。一方で遺言は、死がまだ遠い時期に、やがてやってくる死にそなえて、家族の今後をかんがえ、最良とおもわれる準備をすることなのである。夫や父親の責任を果たすための、事務的な作業なのだ。

 

司法書士事務所を訪ねてから2週間後に、公正証書遺言の文案ができたと連絡があった。内容の確認のためにまた来てほしいとのことなので、ふたたび司法書士事務所にでかけた。新しい文案を見てみると、9年のあいだに増えた資産や、新たに書き加えられた内容が赤字でしめされていて、前回の自筆遺言と比較できるようになっていた。

 

そして一番のポイントが、私は賃貸物件を弟と共有していて、その賃貸料が入金される銀行口座が私の名義になっていることだ。便宜上私の名義で管理しているが、残高の半分は弟の金なのである。これをどのように遺言に書くのか、司法書士の方から説明があった。この口座は私の名義で銀行に残高のあるものであり、また、弟に半分の債務をおうものでもある。それを解決するために、家内がこの口座を相続するが、弟に対する債務も引き継ぐものとすると明記してあった。こうしておくと、この弟の分の現金は相続財産ではない証拠にもなり、相続税の申告のときの役にもたつとのこと。さすがにプロは見事にまとめるものだと感心した。

 

 

私はこの文案でよいと納得した。司法書士の方は、この文案で公証人役場の担当者と打ち合わせをし、細部をつめるとのこと。文案がかたまったところでまた連絡をもらえることとなった。

 

数日後に公正証書遺言の最終文案がおくられてきた。公証人役場で文案をみてもらい、最終的な公正証書遺言としてかためたものだ。これに目をとおして間違いや希望に反することはないので、これで手続きをしてもらうこととした。

 

公証人役場での手続きは三週間後の予約となった。公証人役場は多忙なのである。