前回の唯言266 子供じみた正義の結果~芸人闇営業問題その後~を書いた時点で、この問題に進展があったので記事にしておきたい。

吉本興業が「専属エージェント契約」なるものを導入することにしたそうだ。
その時にはきちんと契約書を作成することになるらしい。

簡単に言うと、タレントが自身で仕事を取ってくることができるそうだ。

参考記事「吉本の「エージェント契約」とは

なるほど、これまでいい加減だった「契約書」と言うところを明確にし、さらに今回問題となった「闇営業」問題も解決できる。
この解決を得たことで、加藤浩次も残留を決定。この問題は見事に丸く収まった。すごいぞ吉本興業!

……なのだろうか?

俺としては、湧き出る違和感を抑えきれない。

まず、この問題の根本はタレントとの営業形態ではなく「反社会的組織とのつながり」だったはずだ。

これがあるとタレントが反社と取引をしなくなるとでもいうのだろうか?
吉本興業のイベントにスポンサーとして付かなくなるのだろうか?

まるで無関係にしか見えない。

そもそも、闇営業自体は法的に問題ではない。タレントは、法的には自営業者と同じ「個人事業主」であって雇われている労働者ではない。

そこをまるで「今まではダメだったけど今後は自由にできます!」と言われたところで、はっきり言って何も変わっていない。
世間が、所属芸人が問題にしていた「契約書がない」と言う点において、その解決策として提示されたのは「希望者にだけ契約書を作ります」と言うだけではないか。

すべきだったのは「タレント全員と契約書を交わす」ことだったのではないか?

前の記事で触れたが、今回の騒動の理想的着地点は

・スポンサーとなる会社が反社会的組織ではないか厳密にチェックする体制を整える
・タレントとの契約内容を明白にする。そのために契約書を交わす。
・マネージャーを増やし(あるいはタレントを増減らし)管理体制を強化する


ではなかっただろうか。
俺はこれに「現在、労働者なのか個人事業主なのかあいまいになっている現状を修正する」と言うのも付け加えたい。

エージェント契約は2つ目の解決にしかなっていない。しかも一部だけだ。

俺が思うに、これは吉本興業の責任放棄、あるいは転嫁ではないか?

つまり、「今の体制に不満がある人は自己責任でやってね」と言うだけであって、とてもじゃないが「改善」とはいいがたい。

もちろん、今後さらなる動きと俺の勉強不足があるかもしれないが、現状では

・反社チェックの強化をしない
・契約書を交わすのも希望者だけ
・マネージャーの増員もしない
となっている。

つまり、

・うっかり芸人が反社と取引しても芸人のせい
・契約書が欲しかったらエージェント契約にして自分で仕事を取ってこい


と言っているだけだ。

この結果で、加藤浩次は残留を決め、松本人志や明石家さんまといった、宮迫他後輩芸人のためにいろいろと働きかけをした芸人たちも一応の解決としたようだ。

だが、俺には、これは吉本興業の思う壺と言う気がする。

吉本興業側は、自身がほとんど負担を負わない形でこの問題を乗り切った。

そして、エージェント契約を結んだ芸人は、自身が責任を持って反社チェックを行いつつ仕事を取ってこなければならない。「吉本興業制作の番組だから」と優先的に仕事がもらえることもなくなる。

正直言って、この結果を見る限り、加藤浩次、松本人志が動いたのは失敗だったと思わざるを得ない。

いったい彼らは何のために動いたのだろうか?

最も重要な「反社会的組織とのつながりを絶つ」という点を忘れ、「後輩芸人たちは不安よな」と言った割には、芸人にとっては今以上に不利になりかねない契約が誕生した。
「経営陣が退任しなければ自分が退社する」と言った割には、今回エージェント契約第1号になっただけ。

吉本興業にいいようにやられてしまっただけではないだろうか?

現在の会長である大崎洋会長は、吉本興業をここまで大きくした大功労者だという。島田紳助は彼がいなくなったら吉本がつぶれるとまで言っていた。

このプランが大崎会長の思惑通りなら、なるほど、確かにやり手である。加藤浩次も松本人志も二人まとめて丸め込んだ。

俺としては、このような表向きいい顔をした、その実自身の責任を転嫁しただけの手法には憎たらしさしか感じない。だが、この手腕には素直に感心してしまう。

今後彼らはどうなるか?

俺の想像だが、すでにエージェント契約を結んだとされる加藤浩次と、彼に同調して見せた芸人たちは、やはりうまく丸め込まれてエージェント契約を結ばされるだろう。

その後は、彼らの排除だ。吉本興業制作の番組から排除されるだろう。そのための言い訳ならどうとでも用意できる。仕事が取れなくても自己責任だ。さらに、彼らが今回と同様の反社組織との営業を行ったとしてもやはり自己責任だ。会社としては何のダメージもない。

松本人志はおそらく何も変わりないだろう。大崎会長を「兄貴」とまで言った人だ。おそらくかわいがられると思う。

松本人志はこれまでに「松本vs加藤のような対立構造はない」と言っていたが、会社側としては「従順な松本と生意気な加藤」という二極構造があったようだ。

松本派をそのまま残し加藤派を切り捨てる。そんな展開を望んでいるようだ。

俺としては残念の一言だ。無念のため息が後を絶たない。

同じ悲劇が起こらないよう吉本の改革を望んだが、それには何の役にも立たない落としどころになってしまった。これからは、すべて芸人のせいにされて切り捨てられるだけだ。

結局、タレントは労働者で弱い存在で、企業が大きな力を持ちいいように搾取するという現実を見せつけられたに過ぎなかった。

なんというか、日本の未来と言うものを信じられなくなるような、そんな結末であった。

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