以前の記事「唯言263 最近子供じみてきた正義について~芸人闇営業問題~」 参考記事「宮迫&亮緊急会見【全文(1)】「全責任は僕にあります。僕のせいです」(宮迫)」 「吉本興業・岡本社長会見【全文(1)】「二人に対して深くお詫び申し上げます」」 元(を付けた方がいいのだろうか?)雨上がり決死隊の宮迫が吉本興業と契約解除をした。 個人的には不本意だ。 以前の記事でも書いたように、俺はこの件はそこまで悪いとは考えていない。 世間があまりにも大騒ぎしすぎた結果に見える。 しかし、宮迫とロンドンブーツ田村亮の2人の会見によれば、不祥事に対する責任だけでなく、吉本興業の対応に関しての不信感などもあってのことで、その意味では、二人にとって悪すぎない結果だったのかもしれない。本人の意図もあってのことなら、他人の俺がこれ以上とやかく言うこともない。まあいいだろう。 さて、二人の会見の後、この騒動はますます混乱を極めたという感がある。 「松本、動きます」と言う、流行語大賞になりそうなほど流行ったツイートをした後、ダウンタウン松本人志が吉本興業の岡本社長と会談した後、その岡本社長が会見をし、その準備不足、不明瞭さ、とらえどころのない回答を繰り返し、ヒンシュクと失笑を買い、それに対して極楽とんぼの加藤浩次が彼が司会を務める番組「スッキリ!」内で現経営陣の退陣を自分の退社をかけて要求し、そのほか売れっ子の中堅芸人でさえ、社長、会社に対する反感をSNSや番組内で表明した。 さらには、その反発を示した芸人に対する批判も巻き起こり、もはや何が何だかわからない。 もはや何が悪かったのか、濃い靄の中に隠れてしまっている気がするので、ここで俺なりに、その靄を晴らしてみようと思う。 そもそもの問題は、反社会的組織とつながっていたことだ。 この点について、俺は過去の記事で認識が誤っていた。 俺は「反社会的組織から金を受け取っていたところで問題はない」と言っていたのだが、いろいろな記事を見るうちに、今は、暴力団等に対する規制が厳しくなり、それと同時に、企業などにもそういった組織との取引を極力行わないように政府は要請しているらしい。 その意味で言えば、確かに、今回の宮迫たちの行動はまずかった。そこで法的に罰せられるということはないようだが、いい行動ではなかった。 今回の騒動で、公にとって重要なのはその点であって、はっきり言ってしまえば、加藤が辞めるの松本が辞めるのと言うのは吉本興業内部の事情であって、我々一般や社会にとっては大きな問題ではない。 また、事務所を通さない”闇営業”も、いいことではないかもしれないが法的には問題がない。 最初に嘘をついた、と言う点も、ミスではあったが犯罪ではないのでそこまでの非難には値しない。 では、その「反社会的組織とつながっていたこととその罰」と言う点において、現状はどうなっているか。その点については上に書いたように、宮迫、亮ともに吉本興業によって契約解除された。 ならば、この点については終了しているとみていいのではないだろうか? 今回の騒動では、そもそもの問題のほか、宮迫、田村亮二人の会見によって、吉本興業のパワハラが蔓延する体質が明らかとなり、それに対しておそらく反論したかったのであろう社長の会見があまりにもお粗末だったため、さらに(面白半分で)大きくなった。 だが、「岡本社長の会見がまるで話にならなかった」などと言うのは、これまた会社、もしくは岡本社長個人の問題であって、公に問題にするようなことでもない。(「よい質疑応答、あるいは演説の仕方」という論点では悪い見本として教材にできるかもしれないが) ネットの意見を見ていると、「そもそも宮迫が嘘をついたのが悪い」と言う意見が所々見られる。 だが、本当にそうだろうか? 「宮迫悪者説」を唱える人は、彼を厳しく糾弾したがる。それによって、彼が、ひいてはそれを見ている人が同じ過ちを繰り返さないようにと願ってのことだろうが、残念ながらそれはかなうとは限らない。 これまでに何度も紹介している書籍失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織に書かれていたエピソードを紹介しよう。 ある病院のある二人の看護師長には対照的な特徴があった。一人は、部下のミスを厳しく糾弾していた。もう一人は、そうではなかった。この二人の師長のグループのうち、どちらにミスが多いか検証された。 当初は、厳しい師長のグループがミスが少なかった。だが、さらに深く調査してみると、厳しい師長のグループには厳しくない師長のグループより多くのミスが発生していた。 少なく見えたのは、糾弾を恐れて報告をしていないだけだった。 「ミスを厳しく糾弾すれば、それを恐れてミスをしないようになる」その理屈は正しい側面もあるだろうが、それと同時に「ミスを隠そう」という誘惑も同時に強くなる。 「ミスして怒られるのが怖ければミスをしないようになる」と言うのは机上の空論だ。 「ミスと嘘は違う!」と言う人もいるかもしれないが、だが、そこに働く心理には何の違いもない。 その意味で言うと、この問題の「そもそも」は宮迫の嘘よりもその一歩前、吉本興業が入江との契約解除を即座に行ったことだと思う。 それを見て「俺も契約解除になるかもしれない」と恐れた宮迫が、彼自身も認めたように「自分の保身」を優先し嘘をついたとしてもおかしくはない。 「不祥事を起こしたらそれぐらい当然の処分だろ!」と言う人もいるかもしれない。 なるほど、確かにそうかもしれない。だが、吉本興業と言うのは社長も社員も含めて全員が「ファミリー」だという。ほかならぬ、社長がそう言っている。 ならば、余計に入江との契約を解除すべきではなかった。「不祥事即クビ」と言う対応のどこが「ファミリー」だというのか。 タカアンドトシのタカが自身のインスタグラムで「5990人の芸人はファミリーと感じたことないと思うけどなぁ」とコメントするのも致し方ないところだ。 岡本社長は自身の言葉を証明するためにも(時系列は前後しているものの)、入江を契約解除すべきではなかった。 彼を残し、世間に対しては「うちの入り江がすんません!でも、悪気があったわけではないんです!反社に騙されてただけなんです!」とでも言って守るべきだった。 それなら、宮迫、亮も会社を信頼し、初めから本当のことを言ったかもしれない。 現実に、病院でのミスをなくすために行われた改革で、最も有効だったのは「ミスを糾弾しない」ということだった。ミスを責めないことで、多くの報告が届き、どんなミスが起こっているのか把握できるようになり、ミスに対する有効な対策を打ち出すことができたからだ。 それをしなかったのはなぜか?想像だが、「ミスに対する有効な対策」を打つのが嫌だったのではないだろうか? 吉本興業の問題は、あちこちで指摘されている。 契約書がない、ギャラの配分が会社に有利すぎる、マネージャーが少なすぎるなどなど…。 これらをすべて解決しようと思ったら、その財政的負担は極めて大きい。もしも俺が社長の立場だったらぞっとする。 そのため「全部芸人が悪い」ということにしたかったし、今もしているのではないだろうか? この予想が当たっているかいないかわからないが、現に吉本興業が上にあげた点を解消しようという気配はない。唯一、契約書の作成は始めるようだが。 個人的に考える改善案としては、マネージャーを増やす。そして、所属するタレントを減らす、つまり、契約を解除するということだが、その救済措置としては、吉本が持つ劇場に出演できる優先権を与えるというのはどうだろうか? メジャーデビュー前のミュージシャンは、いろいろなライブハウスで演奏させてもらえるよう自分で依頼して出演している。事務所には所属していない。つまり、そんなミュージシャンと同じ扱いで、ただし、交渉なしで優先的に出演させてもらえるようにする、と言う感じだ。 宮迫は確かに嘘をつき、それはいいことではなく、混乱を招いたのだが、その嘘を招いたのは会社の対応だ。 宮迫もまずかったが、会社もまずかった。持っている権限を考えれば、会社の方にこそより大きな責任があると言えるだろう(何せ、岡本社長自身が「全員首にできるだけの力がある」と言っているのだから) ただ、さらに「そもそも」を言うのなら、岡本社長には同情を禁じ得ない。 何となれば、暴力団との付き合いは、もともとは会社ぐるみで行われていたことだからだ。今回も、宮迫、亮の会見で発言があり、社長もまた否定しなかったように、ここで問題となっていた反社組織は吉本のイベントでスポンサーとなっていた。それが、宮迫たちが信頼して忘年会に出向いた理由となっていた。 ヤクザと吉本はつながりが深く、ヤクザの集まりなどに呼ばれるというのはよくあったことで、それはここまで特段問題にならなかった。そこには、ヤクザ側も「絶対に写真を撮るな」と言うお互いのための配慮もあったようだ。 それが、過去に島田紳助の引退の理由になるなど、ここ何年かで急に表ざたになるようになった。 この状況は、たとえて言うなら、戦時中に落ちてそのまま放置されてきた不発弾が、自分が社長になった時に爆発した、と言う感じだ。 しかも、その不発弾はこれまでずっと「どうせ爆発せーへんし、近づくやつもおらんからほっといてええで」と言われてきたものだった。 これで、岡本社長ばかり責めるのもなかなか酷である。 その意味で、今回の騒動は、時代の変化と一人一人の人間らしい弱さがまじりあって起こったものだとみることができそうだ。 これを、「嘘をついたのは宮迫が悪い。嘘をつかなきゃよかった」「岡本社長が変な会見をしたのが悪い。まともな会見できる人が社長ならよかった」「会社の体質が悪い。会社にコンプライアンスの意識があればよかった」と個別に対応しても解決しないのではないか? 芸能界全体の体質を見直し、これまでの「負の遺産」を整理する。それこそ今必要なことではないだろうか? この記事の続き→唯言267 芸人闇営業問題~違和感しかない最終到達点~ 下のバナーを1クリックお願いします。 にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村