覆面は加害者の心理による。
仮面は被害者の心理による。
現代における比較的街中で装着しやすいマスクの性質はどうか。
装着を見咎められることのない季節において、その存在が希薄になる一方で象徴的意味は顕在化する。
一方的に「見られる」のではなく、一方的に「見る」存在となり、
自らの表情を覆い隠すことで得られるなんとも言えぬ優越感を手に得る。
(例えば、人前ではできないような表情をしてみたい衝動に駆られる。)
さすれば、マスクは覆面であり、加害者の心理に属するのであろう。
顔の通路の一部制限による、道幅の増設。
はて、顔という通路は狭くなったのか広くなったのか。
答えは残念ながらどちらともいえない。
一方通行の道は無限に増殖する一方で相互通行の道は無限に遮断されるからだ。
ただし、現代に関しては、とりわけ一方通行の無限増殖が日の目を見る。
これはネットの匿名性が現実社会にも適用されていることを意味する。
「見る」側に立つ人間のみの社会とはすなわち対象が存在しない社会。
まさに唯脳論者あるいは唯識論者が語る世界。
現実社会と「感じている」社会が仮想現実に飲み込まれる日はそう遠くはないかもしれない。
さらに、その日の到来を知るものは決して現れない。
誰も「その」人が生きている「その」社会を現実社会と認識する方法を持ってはいないのである。