第3話 琵琶 | 邦楽ジャーナル 邦楽ことはじめ

第3話 琵琶

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琵琶

琵琶と聞いてなにを想像しますか? 耳なし芳一? 平家物語? 古い物語をソロで弾き語るイメージがおありでしょう。そうです。箏や尺八と違って(基本的に)合奏をしません。ですが、鶴田錦史が登場し、1967年、武満徹作曲『ノヴェンバー・ステップス』を尺八の横山勝也とともにニューヨークフィル(小沢征爾指揮)と共演して以来、器楽としての琵琶にも注目が集まりました。あのサワリ(ビビリ音)のついた音、バチで思い切り板面を叩く音、絃をこする音など、洋の東西を問わずあまり聞けるものではありません。
 しかし、琵琶の起源をたどれば、遠く中東に行き着きます。イラクやトルコの楽器ウードの前身が西に渡ってリュートやギターとなり、東に渡って中国でピパとなり、日本には中国から7、8世紀にもたらされたと言われています。当時の美しい琵琶が2009年秋、奈良国立博物館で紫檀木画槽琵琶(したんもくがそうのびわ)、東京国立博物館で螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)(円形の胴)で展示されました。ともに正倉院宝物で、来場者の一番人気の展示となっていました。優雅な琵琶を見ながら古人(いにしえびと)に思いを馳せてみるのもいいものです。
 琵琶には雅楽の琵琶、盲僧琵琶、平家琵琶、薩摩琵琶、筑前琵琶などがありますが、現在一般に使われているのは男性的な薩摩琵琶と女性的な筑前琵琶です。構え方や絃の数、フレットの数が4つあるいは5つとそれぞれで違っていて、どれが正しいというものではありません。鶴田錦史は薩摩琵琶を大胆に改良しています。琵琶の表面には分からないように孔が3つあいています。機会があれば見つけてみてください。
 日本を代表する楽器は三味線ですが、実は琵琶法師が16世紀に大阪の堺に入って来た三線(さんしん)を改良したものと言われています。だから、三味線はバチで弾き、サワリという、音をビリつかせる工夫も施されました。
 戦前にはまだ、特に西日本では一般家庭に浸透していた琵琶ですが、軍記物のレパートリーが合わなかったせいか戦後は急速にすたれていきました。琵琶専門店は全国に1軒しかありません。それでもどんどん新しい弾き手が生まれてきて、その幽玄の音色を聞かせてくれます。一度琵琶を構えて、バシッっと音を出してみてください。その振動が身体に伝わり、なんとも心地よいものですよ。(写真・文=田中隆文)