こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

9月最初の日曜日は、あいにく雨模様のお天気となっています。

 

今朝はベッドの中で暫く(しばらく)の間、雨の音を聞いていました。小鳥の泣き声などではなく、雨の音で起きるのも悪くはない・・・などと考えていました。

 

近代歌人のひとりである与謝野晶子(よさのあきこ)の和歌

 

「地の上のものの総てを斬りきざむ白刃の如く秋雨ぞ降る」

 

を思い出しました(うろ覚えでしたが・・・)。

 

なんと大袈裟(おおげさ)なと思ったりもすたわけですが、ニュース

の記事を見ますと、「秋雨前線(あきさめぜんせん)」だ活発化しており、明日の午前中には関東に「線状降水帯」ができる可能性もあるのだとか。

 

明日は細心の注意が必要なのかもしれませんね。

 

皆さまの体調はいかがでしょうか?

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

さて、今回は「早期癌」の発見にもつながるようなお話をしてみたいと思います。最近では30歳代で癌を発症することが多くなっていますので、皆さまに無関係であるとばかりは言えないかもしれませんね。

 

私たちのヒトの血液には、体のさまざまな細胞から漏れ出した、ごく微量の「DNAの断片」が常に漂って(ただよって)いることが分かっています。

 

この「DNAの断片」「セルフリーDNA(cell-free DNA:cfDNA)」と呼ばれています。

 

この意味は、細胞の外を自由に循環しているDNAという意味)にになります。

 

癌を発症していない健康な人の体でも、細胞は日々生まれ変わっており、その入れ替わりの副産物として、少しずつ「DNAの断片」が血中へこぼれ出ているわけです。

近年、この血中DNAを採血だけで解析し、癌の有無やその性質を推定する「リキッドバイオプシー(liquid biopsy:液体生検」と呼ばれています。

ちょっと聞きなれない言葉かもしれませんが、組織を切り取る従来の生検に対して、血液という"液体"を調べる検査)」が急速に発展してきました。

 

体に針を刺して組織を採る負担がなく、繰り返し行えるこの検査は、がんの早期発見や治療効果の判定に大きな期待が寄せられています。

この「リキッドバイオプシー(liquid biopsy」その研究の過程で、2つの興味深い事実が明らかになっています。

 

それは、標題にも書きしたが・・・

 

癌のあるヒトの血液を調べてみますと、「DNAの断片」が、健常者よりも (A)短くなり(参考1,2,3)、その(B)総量も増える(参考4,5)という現象が起きていることが分かっています。

 

血液の中に細胞の外を漂う(ただよう)「DNAの断片」が存在すること自体は、実は今から70〜80年以上前、1940年代にはすでに報告されていました。

 

しかし、その量があまりに微量で、しかも短い断片だったため、長らく「なぜそこにあるのか」「どんな意味を持つのか」はよく分かっていなかったのですね。

 

DNAを大量かつ精密に読み解く技術(次世代シークエンサー)が普及したこの十数年で、ようやくその正体と臨床的な価値が、急速に明らかになってきたと言えます。

 
ここで「DNAの断片」、つまり「セルフリーDNA(cell-free DNA:cfDNA)」が、どのような意味を持つものであるかの説明をしておきたいと思います。

 

「セルフリーDNAcfDNA)」の大部分は、体のどこかで日々起きている「細胞の死」により生じます。

 

細胞が寿命を終えて計画的に自死する「アポトーシス(apoptosis:あらかじめ組み込まれた、秩序だった細胞死)」や、傷害を受けて破裂するように死ぬ「ネクローシス(necrosis:壊死)」が起きると・・・細胞内のDNAが断片化して血流へ放出されることが分かっています(参考6)。

 

放出された「DNAの断片(CfDNA)は数十分から数時間という短い時間で分解・排泄されるため、血中のcfDNAは「今まさに起きている細胞の入れ替わり」を映す、うつろいやすい指標であるとも言えますね。

 

 

さらに言えば・・・健常者では、この血中「DNAの断片」の主な供給源は、骨髄でつくられる血球(白血球など)です。そのため、血中のcfDNA濃度はごくわずか(おおむね血漿1mLあたり10ナノグラム未満)に保たれています。

 

日々死んでいく血球の量と、それを片づける体の処理能力とが釣り合い、低い水準で安定しているからという理由になります。

一方、癌のある方では、この血中DNAの一部が「癌細胞」に由来します。これを特に「循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)」と呼ばれており、癌の特異的変異エピジェネティック変化を保持することが報告されています(参考7,8)

 

image

(AIを用いて画像を作成) 

 

では、がん患者の血液を流れる「DNAの断片(CfDNA)」は、なぜ「短く」なるのか?・・・についてみていきないと思うのですが・・・

その前に健常者の「DNAの断片(cfDNA)についてをみてみたいと思います。

 

細胞の核の中では、全長にすれば約2メートルにもなる長大なDNAが、そのまま裸で存在しているわけではありません。

 

DNAは「ヒストン」というタンパク質の芯(八量体)に約1.7回巻きついて、糸巻きのような単位を無数につくり、コンパクトに折り畳まれています。

この糸巻き一つがヌクレオソームで、芯に巻きついたDNAは約147塩基(bp:DNAの長さの単位)、隣の糸巻きどうしをつなぐ"ひも"の部分(リンカーDNA)が約20bpです。

 

健常者血漿中の「DNAの断片(cfDNA)はヌクレオソーム1回折り分(約147 bp)とリンカーDNA(約20 bp)の合計に相当する約166–167 bpを主要ピークとするが、長さは一定ではなく多様な断片群が共存することが報告されています(参考9,10)


                               (図はお借りしました)

 

細胞が「アポトーシス」で死ぬとき、DNAを切る酵素(ヌクレアーゼ)が働きます。このとき、「ヒストン」に巻きついた部分は芯に守られて切られにくく、露出したリンカー部分が優先的に切断されます。その結果、ヒストンに保護された147bpに前後のリンカーを加えた約167bp(研究によっては166bpとも記載されます)を最頻値(もっとも多い長さ)とする、特徴的なそろい方が生まれます。

 

 

 
上記が健常者の「DNAの断片(CfDNA)」の長さがほぼ、同じ長さになるメカニズムです。
 
がん患者の血液中の「DNAの断片(CfDNA)」は、なぜ「短く」なってしまうのでしょうか?
 
お話の続きは・・・後日の話題にしたいと思います。
 
素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ
 
それでは、またバイバイ
 
参考)

1)Genome Res. 2022 Feb;32(2):215-227.

Characteristics, origin, and potential for cancer diagnostics of ultrashort plasma cell-free DNA

 Irena Hudecoveら

 

2)Clin Chem. 2022 Sep 1;68(9):1151-1163. 

Single-Molecule Sequencing Enables Long Cell-Free DNA Detection and Direct Methylation Analysis for Cancer Patients

L Y Lois Choyら

 

3)Nat Commun. 2026 May 8;17(1):6226. 

Cell-free DNA size deconvolution resolves nucleosomal origins and reveals tumor-associated fragmentomic alterations

Ze Zhouら

 

4)Cancer Discov. 2023 Oct 5;13(10):2166-2179.

The Origin of Highly Elevated Cell-Free DNA in Healthy Individuals and Patients with Pancreatic, Colorectal, Lung, or Ovarian Cancer

Austin K Mattoxら

 

5)Sci Rep. 2019 Mar 26;9(1):5220. 

Quantifying circulating cell-free DNA in humans

Romain Meddebら

 

6)Cancer Res. 2001 Feb 15;61(4):1659-65.

DNA fragments in the blood plasma of cancer patients: quantitations and evidence for their origin from apoptotic and necrotic cells

 S Jahrら

 

7)Cancer Res Treat. 2023 Apr;55(2):351-366. 

Clinical Circulating Tumor DNA Testing for Precision Oncology

Hyunji Kimら

 

8)Lab Chip. 2018 Apr 17;18(8):1174-1196. 

Circulating tumor DNA and liquid biopsy: opportunities, challenges, and recent advances in detection technologies

Lena Gorgannezhadら

 

9)Theranostics. 2020 Mar 26;10(11):4737-4748. 

Size profile of cell-free DNA: A beacon guiding the practice and innovation of clinical testing

Jiping Shiら

 

10)Int J Med Sci. 2023 Jan 12;24(2):1503. 

Cell-Free DNA Fragmentomics: The Novel Promising Biomarker

Ting Qiら

 

(夜の東京駅舎)

(筆者撮影)

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小笠原  均  (Hitoshi Ogasawara)   

医学博士, 内科医

(総合内科、リウマチ専門医)

(新潟大学医学部卒)

    

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