こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
いよいよ8月も終盤になっていますね。
熊本の地震、千葉の豪雨、世界で起こっている戦争と、世界の終末が
近いような気もするわけですが・・・たぶん、そうはならずに
あと1~2年もすれば、落ち着いた世の中になるような気がしています。
今、現在がどのような時代であるかを誰も正確に述べることはできませんね。
ドイツの哲学者であったヘーゲル(ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル)は、次のような言葉を残しています。
Wenn die Philosophie ihr Grau in Grau malt, dann ist eine Gestalt des Lebens alt geworden, und mit Grau in Grau läßt sie sich nicht verjüngen, sondern nur erkennen; die Eule der Minerva beginnt erst mit der einbrechenden Dämmerung ihren Flug.
「哲学がその灰色を灰色で描くとき、生の一つの姿はすでに老いてしまっている。灰色を灰色で塗り重ねても、その姿を若返らせることはできず、ただ 認識する ことができるだけである。ミネルヴァの梟(ふくろう)は、たそがれが訪れてはじめて、その翼を広げて飛び立つのだ。」
ミネルヴァ(=ギリシアのアテナ)は、知恵の女神で、その従える梟は「知」の象徴です。梟が夕闇にならねば飛び立たぬように、(哲学的)認識もまた、ある時代が成熟し老いを迎えたあとにようやく訪れるというという比喩(ひゆ)ということになります
つまり人間は、自分がその只中に生きている現実や歴史を、リアルタイムで把握し導くことはできない。理解できるのは、その時代が終わった時である・・・ということになりますね。
こんな時代だから頑張ってもしょうがない・・・と言う方も多いわけですが、「いつまでも同じ時間は流れないのになあ〜」と私は思ったりもしますね。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
さて、今回は「NK細胞」と「老化細胞(senescent cell)」についてのお話をしてみたいと思います。
「NK細胞」は、生まれた時から備わっている自然免疫の細胞のひとつでしたよね。この「NK細胞」は、「癌細胞」、「ウイルス感染細胞」、そして「老化細胞」を破壊することができることが分かっています。
「老化細胞」がどのようにできるのか?・・・を復習してみますと次のようになります。
細胞が分裂すると短くなっていく「テロメア」が限界まで短くなり、それ以上の分裂はできない「ヘイフリックの限界」点に達してしまい、それ以上は細胞分裂ができなくなってしまった細胞でしたね(複製老化)。
また、細胞のDNAなどが障害されたことで分裂することをストップし
「老化細胞」となるパターンもありました(DNA損傷誘導性老化)。
いずれにしても、私たち体内では、加齢や様々なストレスによって生じた「老化細胞」が徐々に蓄積(ちくせき)していきます。
「老化細胞」の特徴は、細胞周期が不可逆的に停止(複製機能の喪失)していながらもアポトーシス(細胞死)に陥らず(おちいらず)、組織内に長期間生存し続けることでしたね。
これらの「老化細胞」は、炎症性サイトカインやケモカイン、マトリックス分解酵素などを分泌し続けます。
この分泌されるものがを「SASP(senescence-associated secretory phenotype:老化関連分泌形質)」と呼ばれます。
「SASP」は周囲の組織に微小な慢性炎症を引き起こし、動脈硬化、組織の線維化、発がんといった加齢関連疾患の温床となります。
本来であれば、生体内に生じた「老化細胞」は免疫監視機構、とりわけ「NK細胞」などの自然免疫系によって認識され、排除されます。
しかし、蓄積した「老化細胞」は自ら「免疫監視から逃避する」メカニズムを獲得しています。
その中心的な役割を担うのが、非古典的MHCクラスI分子である「HLA-E(Class-E抗原)」であることが分かってきていると言うわけです。
そこで、この新たな難題に対して、どのように対処すればよいのか?
・・・について、以下の1)~3)の項目について、深掘りをしてみたいと思います。
(1) NK細胞が老化細胞を排除するメカニズム
(2) HLA-Eの基本特性
(3) HLA-EによるNK細胞の抑制(免疫回避)機序
(4) 治療戦略としてのiPS細胞由来エクソソームの妥当性について
「NK細胞」による標的細胞の認識は、細胞表面にある「活性化受容体(アクセル)」と「抑制性受容体(ブレーキ)」からのシグナル入力の総和(バランス)によって決定されることが分かっています・
正常な細胞は表面に「MHCクラスI分子」を十分に発現しており、これが「NK細胞」の「抑制性受容体(ブレーキ)」に結合することで攻撃を免れます(自己寛容)。
一方、DNA損傷やがん化などのストレスを受けた細胞では、活性化受容体を刺激する「ストレス誘導性リガンド」の発現が上昇します。
「老化細胞」においては、NK細胞の主要な「活性化受容体(アクセル)」であるNKG2Dのリガンド(MICA、MICB、ULBP1〜6など)の発現が顕著に増加します。
これは先にあげた「複製老化」、「DNA損傷誘導性老化」のいずれのモデルでも一貫して観察されます。
実験的に老化線維芽細胞のNKG2Dのリガンド(MICAやULBP2)の遺伝子が発現しないように遺伝子をノックダウンすると・・・
「NK細胞」による細胞傷害活性が著しく低下することから、これらのリガンドが老化細胞の排除に必須の標的分子(目印)であることが証明されています(参考1)。
1)Aging(Albaby NY). 2016 Feb;8(2):328-44.
NKG2D ligands mediate immunosurveillance of senescent cells
Adi Sagivら
標的を認識した「NK細胞」は、パーフォリンとグランザイムを含む細胞傷害性顆粒を放出します。
パーフォリンが標的細胞の細胞膜に孔を形成し、そこからセリンプロテアーゼであるグランザイムが細胞内に侵入してアポトーシスを誘導します(パーフォリンとグランザイムを含む顆粒の開口分泌)。
実は「NK細胞」が標的とする細胞を破壊する(アポトーシスを誘導する)経路には、もうひとつ存在します。
それは、デスレセプター経路(TRAIL-R、Fasリガンドによる活性化)というものが存在するのですが、「老化細胞」の場合は、そのほとんどがパーフォリンとグランザイムを含む顆粒分泌によるものであることが分かっています。
では、次に「Class-E抗原」とは、ヒトにおけるMHCクラスI分子(MHCクラスIb)に分類される「HLA-E」を指します。
ヒトの「MHCクラスI分子」には、高度な遺伝的多型を持ちCD8陽性T細胞にペプチド抗原を提示する古典的分子(HLA-A, B, C)と
多型に乏しく、免疫調節など特殊な役割を担う非古典的分子(HLA-E, F, G)が存在します。
「HLA-E」の発現は「その細胞が正常に古典的MHCクラスI分子を合成できている」ことを免疫系に知らせる、いわば"自己の健全性を示すセンサー"として機能することが分かっています。
なぜ、「HLA-E」の発現が「NK細胞」が「老化細胞」を破壊することを妨害(ぼうがい)することになってしまうのでしょうか?
お話の続きは、後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
(筆者撮影)
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理事長・ 院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
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(新潟大医学部卒)
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