こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
暦に目をやりますと二十四節気では「立秋」となっていますね。
いつの間にか、夏の季節が終わってしまったななどと寂しい気もしました。
いよいよ秋の季節か・・・と思うわけですが、西洋では秋の始まりを秋分(9月下旬)または9月1日とするのが一般的だそうです。
「去りゆく夏を惜しむ」のではなく、「ゆっくり過ぎる夏の終わりの時間そのものを味わい、楽しむ」と考えるのが良いのかもしれませんね。
アメリカの思想家ヘンリー・デイヴィッド・ソローの言葉にある次のような言葉を思い出しました。
"Live in each season as it passes; breathe the air, drink the drink, taste the fruit, and resign yourself to the influences of each."
過ぎゆくそれぞれの季節を、そのただ中で生きよ。その空気を吸い、その飲み物を飲み、その果実を味わい、季節ごとの力に身をゆだねよ
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
今回の話題は「グリア細胞」についてのお話をしてみたいと思います。
かつての脳神経系の研究は「ニューロン中心主義」であったといえます。
情報を電気信号として運び、シナプスで伝達する「ニューロン(神経細胞)」こそが脳の主役であり、「グリア細胞(神経膠細胞)」はそれを物理的に支える「糊(glia)」にすぎない、と考えられてきたわけですね、
しかしながら、最近といっての20年程度前程度になりますが・・・分子生物学・生体イメージング技術の進展により、「ニューロン(神経細胞)」ばかりでなく、「グリア細胞」も重要であることが分かってきたわけですね。
現在では「グリア細胞」は、シナプス伝達の調節、細胞外環境の恒常性維持、免疫監視、髄鞘形成、軸索への代謝供給、グリンパティック系による老廃物排出など、脳機能の根幹を担う能動的な細胞集団として理解されています。
以前は「グリア細胞」は「ニューロン(神経細胞)」の10倍程度存在するという記述が長く教科書に載っていましたが、これは間違いであったことが判明しています。
現時点の技術である「等方性分画法(isotropic fractionator)」を用いた定量では、ヒト成人脳全体の「ニューロン(神経細胞)」は約860億個、「グリア細胞」などの非ニューロン細胞は約850億個であり、比率はほぼ1対1であることが分かっています (参考1)。
中枢神経に存在する「グリア細胞」は、以下の3種類の細胞があることが分かっています、
(図はお借りしました)
中枢神経系のグリア細胞(神経膠細胞)は大きく4種類に分類されます。
1.アストロサイト(星状膠細胞)
最も数が多く、神経細胞への栄養供給、細胞外のイオン・神経伝達物質の恒常性維持、血液脳関門の形成・維持、シナプス機能の調節などを担います。
2.オリゴデンドロサイト(希突起膠細胞)
中枢神経系で軸索に髄鞘(ミエリン鞘)を形成し、跳躍伝導による神経伝達の高速化を支えます。1個のオリゴデンドロサイトが複数の軸索を巻きます。
3.ミクログリア(小膠細胞)
中枢神経系における免疫担当細胞(マクロファージ系)で、病原体や損傷細胞・老廃物の貪食、炎症応答、シナプスの刈り込みなどを行います。
4.上衣細胞(ependymal cells)
上衣細胞は脳室・脊髄中心管を裏打ちし、脳脊髄液の産生・循環に関与します。
(AIを用いて画像を作成)
では、このような「グリア細胞」の異常は、何らかの疾患を引き起こすのでしょうか?
「グリア細胞」の特異的遺伝子変異による疾患には、アレキサンダー病 、ペリツェウス・メルツバッハ病、EAST/SeSAME症候群などが知られています。
これらの疾患の詳細な内容は、ここでは触れませんが「グリア細胞」の遺伝子の変異で生じる疾患があるということになります。
また、「グリア細胞」の神経変性で生じる疾患には「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」や「アルツハイマー病(AD)」があるとされています。
「反応性アストロサイト」の毒性転換のメカニズムによるものでは
「パーキンソン病」の発症の誘因とされています。
このメカニズムは、炎症時に「活性化ミクログリア」が分泌する
IL-1α、TNF、C1qの3因子によって誘導される神経毒性アストロサイト(いわゆるA1アストロサイト)は、シナプス形成能を失い、ニューロンやオリゴデンドロサイト死を誘導するというもので、「パーキンソン病」がこれにあたる可能性が指摘sれています(参考2) 。
また、自己免疫が関与する疾患では「視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)」という疾患では、「アストロサイト」の足突起に局在するAQP4に対する自己抗体(抗AQP4抗体)が補体を活性化し、アストロサイト溶解を主徴とする「アストロサイト」の障害があると報告されています(参考3) 。
また、近年では、重篤でない呼吸器COVID-19の後にも白質「ミクログリア」の持続的活性化とOPC・オリゴデンドロサイトの減少、海馬新生の低下が生じることがマウスおよびヒト剖検組織で示され、いわゆる「brain fog」の細胞基盤としてグリアが注目されている(参考4)。
このように実に多彩な病態が「グリア細胞」の異常で発症する方も多いと思います。
これらの疾患に加えて、「線維筋痛症」も「グリア細胞」の異常に起因するのではないか・・・という海外の論文も多く散見されるようになっておるのですが、これは後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
参考)
1)J Comp Neurol. 2009 Apr 10;513(5):532-41.
Equal numbers of neuronal and nonneuronal cells make the human brain an isometrically scaled-up primate brain
Frederico A C Azevedoら
2)Nature. 2017 Jan 26;541(7638):481-487.
Neurotoxic reactive astrocytes are induced by activated microglia
Shane A Liddelowら
3)Lancet. 2004 Dec;364(9451):2106-12.
A serum autoantibody marker of neuromyelitis optica: distinction from multiple sclerosis
Vanda A Lennonら
4)Cell. 2022 Jul 7;185(14):2452-2468.
Mild respiratory COVID can cause multi-lineage neural cell and myelin dysregulation
Anthony Femandez-Castanedaら
(筆者撮影)
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小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
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