こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

朝から気持ちの良い青空が広がっていますね。

暦を見ますと、その七十二候は「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」となっています。

 

「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」の意味は、温かい春の雨が凍てついた大地を潤し、土が柔らかく蘇る時期意味します。冷たい雪から雨に変わり、地中の草木が芽吹く準備を始めるというものだそうです。

 

フランスの詩人であり、作家でもあった「アナトール・フランス(Anatole France)」は、次のような言葉を残しています。


All changes, even the most longed for, have their melancholy; for what we leave behind us is a part of ourselves; we must die to one life before we can enter another.

 

「あらゆる変化には、たとえ最も待ち望んだものであっても、哀愁が伴う。なぜなら、私たちが置き去りにするものは、自分自身の一部だからだ。新たな人生へ踏み出す前に、まず一つの人生に別れを告げねばならないのだ。」

 

なるほど・・・そのとおりであると私は思います。

すべてを携えながら、長い道のりを歩いていくことはできませんからね。
 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIで画像を作成)

 

前回に続き、「痛みの増幅(ぞうふく)」のメカニズムの後半について、お話をしてみたいと思います。

 

前回のブログでは、風が吹くなどの些細な刺激で、ヒリヒリ・ピリピリとした激しい痛みを感じるという症状が、この「アロディニア(異痛症)」と呼ばれる状態について、お話をさせていただきました。

 

このような現象がなぜ起こるのか?・・・は、これまで謎(なぞ)であったわけですが、最近の世界各国の研究者の報告から、新しいこと

が分かってきたのですね。

 

その内容は、「末梢神経系」と「中枢神経系」における免疫反応とに分かれ、「アストロサイト」と「ミクログリア細胞」の異常な活性化が深く関わっていることが分かってきたというのです。

 

この2種類の細胞は単独で機能するだけでなく、互いに絶えず信号を送り合い、相手の活性化状態を制御するという密接な「クロストーク(相互対話)」を行っていることが知られています。

 

この「クロストーク(相互対話)」は、健康な脳では恒常性の維持に欠かせない一方、特定の疾患においては、「炎症」を増幅させる負の連鎖(れんさ)をもたらすことが知られています。

 

では、この2つの細胞「アストロサイト」と「ミクログリア細胞」とは、どのような細胞なのでしょうか?

 

A)ミクログリア

 

「ミクログリア」は、脳全体に分布する常在性免疫細胞で、脳内の変化を常時監視しています。中枢神経系(CNS)実質細胞の約5–12%を占める単核貪食細胞で、マクロファージのような働きをします(参考1)

 

病原体、細胞の破片、異常なタンパク質の蓄積などを感知すると速やかに活性化し、炎症性サイトカインの産生や食作用(異物の取り込み・排除)を通じて脳を守る「第一応答者」として機能します

(参考2)。

 

 

B)アストロサイト

 

「アストロサイト」は、シナプス・血管・免疫・代謝を結びつけて脳の環境を精密に制御するとされていますが、損傷後に「反応性アストロサイト」となり、増殖・形態変化して瘢痕形成と神経修復・再編成に関与するとされています。

 

「アストロサイト」は、損傷や炎症などで環境が変化すると「反応性アストロサイト(reactive astrocytes/astrogliosis)」へと変化し、形態・遺伝子発現・機能が大きく変わることが知られています。

 

(AIを用いて画像を作成)

 

では、これらの「アストロサイト」と「ミクログリア」のクロストークとは、どのようなものなのでしょうか?

 

「慢性神経障害」などの多くの病態では・・・「ミクログリア」が先に活性化し、IL-1α、TNF-α、C1qのサイトカインなどが放出されます。

そうしますと「A1型アストロサイト」を誘導し炎症を増幅するというわけです。

 

補足になりますが、「アストロサイト」が活性化した時に2つの機能表現型があります。先にお話をした「A1型アストロサイト」は、毒性型と呼ばれているものでして、炎症性サイトカイン(ITNF-α,など)により誘導されるものです。

 

この「A1型アストロサイト(毒性型)」は神経変性疾患(アルツハイマー病など)の病態を悪化させることが知られています。

 

それに対して、「A2型アストロサイト」というものがあり、虚血や脳損傷の急性期に反応して発現するもので(保護型)と呼ばれています。

この「A2型アストロサイト(保護型)」の機能としては、「神経栄養因子(TGF-βなど)」を放出し、神経の修復や保護、血液脳関門の強化に寄与するというわけです。

 

整理しますと・・・「ミクログリア」が活性化すると、TNF-α、IL-1α, C1qを放出し、静止期の「A2型アストロサイト」を神経傷害性の「A1型アストロサイト」へと誘導するのですね。

 

一方、反応性の活性化された「A1型アストロサイト」から放出される

小分子タンパク質(ケモカイン)cxcl10やCCL2は、「ミクログリア」の遊走およびさらなる活性化を促進するという悪循環を形成し、改善が難しくなってしまうというわけですね。

 

もちろん、このモデルは多くの神経疾患でのモデルであって、「繊維筋痛症」の疼痛の増悪にピタリと当てはまるものではありません

(参考3)。

 

現状では、「線維筋痛症」のある方の脳や脊髄で、「A1型アストロサイト」のマーカー(C3など)を直接評価した報告はなく、「A1アストロサイト」の存在は推測の域を出ていません。

 

しかしながら、これまでに「PET-CT」で、繊維筋痛症の方の脳組織において、「ミクログリア」優位の活性化があることは確認され、報告されています(参考4)

 

他の慢性疼痛・神経変性で確立した「ミクログリア活性化」→

「A1型アストロサイト」の誘導→「神経毒性・シナプス異常」という

モデルを併せて考えますと・・・

必ず「ミクログリア」の活性化が、最初の段階であるという大原則がありますので、「線維筋痛症」でも「ミクログリア」の活性化から

「A1型アストロサイト」がある可能性は高いとされております。

 

「アストロサイト」と「ミクログリア」のクロストークによる中枢性

感作維持のメカニズムが、十分にあり得るストーリーであると考えられているそうです。

 

ならば・・・「新しい治療法」が考えられるかも・・・となるわけで

すが・・・続きは、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>2月24日

 

今回は、「アストロサイト」と「ミクログリア」がともに活性化して、「痛み」の増幅が生じる可能性について、お話をさせていただきなした。

この問題が解決できれば、「線維筋痛症」が完全に治りますということではないかもしれません、

なぜなら、「線維筋痛症」には、2つの側面があるからということになります。ひとつの側面は「疼痛」であり、風が吹いても痛いなどといった外部の刺激の異常な増幅というこよになります。

 

もうひとつは「うつ傾向」になります。もちろん、いつも「痛み」などの不調がありますので、それは無理もない・・・ということになるわけですが・・・ね。

 

「線維筋痛症」は、脳神経関連の疾患なのではないか?・・・という説があるのも理解できなくもありませんし、そうなのかもしれません。

しかしながら、近年、適応免疫系、特に「T細胞」が慢性痛に関わることが注目されています。

 

神経損傷後、脊髄後角や後根神経節にT細胞が入り込むことが観察されます。「CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)とCD8陽性T細胞(細胞障害性T細胞)の両方が、痛覚過敏の維持に関与していることが動物実験で示されています(参考5)。

 

「T細胞」が、IFN-γ(インターフェロン ガンマ)などのサイトカインを産生し、これが「ミクログリア」や「アストロサイト」の活性化を促すというのですね。

 

また、「T細胞」由来の「サイトカイン」は直接的に神経細胞の興奮性を調節することも報告されています。このように、自然免疫と適応免疫の両方が協力して、痛みを慢性化させる複雑なネットワークを形成します。

 

もちろん、さらなる検証は必要であるわけですが・•・自分自身の

T細胞が反応するとすれば、「自己免疫」のメカニズムが働いているということになりますよね。

 

さらに興味深いことには、「痛み」の病態には性差が存在することが明らかになっています。特に、「ミクログリア」と「アストロサイト」の関与には性差があり、雄のマウスでは「ミクログリア」が、雌のマウスでは「T細胞」と「アストロサイト」がより重要な役割を果たすことが報告されています(参考6)。

 

では、どのような薬剤が「ミクログリア」と「アストロサイト」の

活性化による「痛み」の増幅を改善させる可能性があると報告されているのでしょうか?

以下に薬剤と、その作用機序をご紹介しておきたいと思います。

 


プレガバリン(Pregabalin)神経の興奮を抑える


• 作用点: 神経細胞(シナプス前終末)にある「電位依存性カルシウムチャネル(α2δサブユニット)」に結合します。


• 効果: カルシウムイオン(Ca²⁺)が神経細胞内に入るのをブロックし、興奮の伝達物質である「グルタミン酸」の過剰な放出を抑制します。これにより、「痛み」の信号が次の神経に伝わりにくくなります。


デュロキセチン(Duloxetine)痛みを抑えるブレーキを強める


• 作用点: 「セロトニン」や「ノルアドレナリン」といった神経伝達物質を回収する「再取り込みトランスポーター(SNRI)」の働きを阻害します。


• 効果: シナプス間隙(神経と神経の隙間)に、痛みを抑える働きを持つセロトニンやノルアドレナリンが長く留まるようになります。これにより、体が本来持っている「痛みを抑えるシステム(下行性疼痛抑制系)」の働きが強まります。


ミノサイクリン(Minocycline):免疫細胞の暴走を止める


• 作用点: 活性化した「ミクログリア」に直接作用します。
• 効果: ミクログリアの活動を抑制し、痛みを増強する「炎症性サイトカイン」の放出を抑えます。

 

これにより、神経の興奮バランスが崩れる(抑制の脱抑制)のを防ぎ、痛みの慢性化を根本から食い止めようとします。


参考論文は省略しますが・・・このように、それぞれの薬剤は異なるターゲットに作用し、多角的に痛みの増幅システムを鎮静化させようと働くと考えられています。

 

道半ばではありますが、現時点での海外の論文で報告されている「痛み」の増幅のメカニズムをお話させていただきました。

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Front Immunol. 2022 Oct 19:13:997786. 

Microglia morphophysiological diversity and its implications for the CNS   Andres Vidal-Itariagoら

Vidal-Itriago Aら

 

2)Annu Rev Immunol. 2014:32:367-402.

Microglia development and function 

Debasis Nayakら

 

3)Acta Neuropathol Commn. 2023 Mar 13;11(1):42. 

Roles of neuropathology-associated reactive astrocytes: a systematic review   

Jill M Lawrenceら

 

4)Brain Behav Immun. 2019 Jan:75:72-83. 

Brain glial activation in fibromyalgia - A multi-site positron emission tomography investigation  

Daniel S Albrechtら

 

5)J Neurosci. 2009 Nov 18;29(46):14415-22. 

T-cell infiltration and signaling in the adult dorsal spinal cord is a major contributor to neuropathic pain-like hypersensitivity   

Michael Costigennら

 

6)Nat Neurosci. 2015 Aug;18(8):1081-3. 

Different immune cells mediate mechanical pain hypersensitivity in male and female mice 

Robert E Sorgeら

 

(麻布台ヒルズ: 河津桜から始まる春の風景)

(筆者撮影)

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