こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
5月も最終週になっていますね。
昨夜から降り続いていた雨も今は止み(やみ)まして、鳥の鳴き声が聞こえています。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
前回のブログでは・・・「老化細胞」は「テロメア」が短くなるばかりではなく、DNAのメチル化が低下している・・・というお話をさせていただきましたね。
これは、多くの論文の中でも指摘されています。
「老化細胞」では、DNAの広範(こうはん)な「低メチル化」が観察され、特に遺伝子が少ない領域や遅く複製される領域で顕著です。これにより、ゲノムの安定性が損なわれやすくなります(参考1)
DNAの低メチル化により、ゲノムの安定性がなくなると、どのようなことが生じる可能性があるのでしょうか?
これは、以下のようなことが生じる可能性があります。
例えば、通常は抑制されている遺伝子が活性化されます。これには以下のような影響があります。
例えば・・・「老化関連分泌表現型(SASP)」の因子の産生が増加し、炎症性サイトカイン(IL-6、IL-8、TNF-αなど)、マトリックス分解酵素、成長因子などが過剰に分泌されます。
これにより周囲の組織に炎症を引き起こし、組織の機能低下を招きます。
また、「レトロトランスポゾン」などの反復配列が活性化され、ゲノムの不安定性が増大します。これらの配列は通常メチル化により抑制されていますが、低メチル化により転移活性を持つようになり、DNA損傷を引き起こす可能性があります。
老化細胞のDNAの低メチル化は細胞の基本的な機能にも影響を与えます。
例えば、ミトコンドリア機能が低下し、エネルギー産生効率が悪化します。これは細胞全体の代謝機能の低下につながります。
また、DNA修復機構の効率が低下し、DNA損傷の蓄積が加速されます。これにより細胞の老化がさらに促進される悪循環が生じます。
さらにがん化のリスクが増大します。がん抑制遺伝子のプロモーター領域は高メチル化される一方で、ゲノム全体の低メチル化により染色体不安定性が増し、がん化を促進する可能性があります。
慢性炎症性疾患、心血管疾患、神経変性疾患などの発症リスクも上昇します。これは主にSASP因子の過剰分泌による慢性炎症が原因となります。
このように、老化細胞における低メチル化は、細胞の機能不全から組織・臓器レベルの病態まで、幅広い影響を及ぼす重要な現象です。
では、なぜ、「老化細胞」は分裂を停止してしまうのでしょうか?
それは、次のような理由からということいなります。
1)DNA損傷応答の活性化
DNAの低メチル化により、「レトロトランスポゾン」などの反復配列が活性化されます。これらの要素が転移活性を持つようになると、DNA二重鎖切断などの損傷を引き起こします。
この損傷はATM/ATRキナーゼを活性化し、「p53-p21経路」を介して細胞周期をG1/S期で停止させます。
2)クロマチン構造の不安定化
「ペリセントロメリック領域」の低メチル化は、染色体の構造的不安定性を引き起こします。
「ペリセントロメリック領域」とは、下の図に示すように染色体のセントロメア(動原体)の近傍に存在する領域です。
これにより有糸分裂時のチェックポイントが活性化され、細胞周期の進行が阻害されます。特に、異常な染色体分離を防ぐため、細胞はG2/M期での停止を余儀なくされます。
3)細胞周期制御遺伝子の発現異常
低メチル化により、通常は抑制されているp16~INK4aなどのサイクリン依存性キナーゼ阻害因子の発現が上昇することがあります。これらの因子はRb経路を介して細胞周期の進行を直接的に阻害します。
上記のようなメカニズムから、細胞分裂のための「細胞周期」の回転がストップしていくために「老化細胞」の分裂は停止してしまうというわけですね。
では、このような「老化細胞」の発生に関与している遺伝子とは、どのようなものである可能性が考えられているのでしょうか?
老化細胞(細胞老化)では、DNAの低メチル化(hypomethylation)が特徴的に見られ、いくつかの遺伝子やゲノム領域が関与しています。
(1) ZMAT3遺伝子
・脂肪前駆細胞(APC)で低メチル化され、発現が上昇し、p53/p21経路を活性化して早期老化を促進します。
・ZMAT3の低メチル化は老化表現型や脂肪形成障害と関連します(参考2)
(2)CPEB1遺伝子
・グリオーマ細胞で低メチル化・過剰発現し、p53の発現や分布を調節して老化に関与します(参考3)。
(3)COX1(ミトコンドリア遺伝子)
・ヒト胎児心臓間葉系幹細胞で、ミトコンドリアDNAの特定CpGアイランドが低メチル化され、COX1発現が上昇し老化が誘導されます。
・DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT1, DNMT3a, DNMT3B)のノックダウンでもCOX1発現と老化が促進されます。
(4)トランスポゾン(LINE-1, Aluなど)
・老化した内皮細胞や線維芽細胞でLINE-1やAlu配列の低メチル化と発現上昇が見られます。
・これらのトランスポゾンの活性化は老化細胞の特徴の一つです
(参考4)。
(5)DNMT1(DNAメチルトランスフェラーゼ1)遺伝子
・老化に伴いDNMT1のミスローカリゼーションが起こり、広範な低メチル化が生じます(参考5)。
遺伝子のミスローカリゼーション(mislocalization)とは、タンパク質が本来存在すべき細胞内の場所とは異なる場所に配置されてしまう現象のことです。
まとめてみますと・・・以下のようになります。
ZMAT3 発現上昇→p53/p21経路活性化→老化促進
CPEB1 発現上昇→p53調節→老化
COX1(ミトコンドリア) 発現上昇→老化誘導
LINE-1, Alu 発現上昇→老化細胞の特徴
DNMT1 ミスローカリゼーション→全体的低メチル化
まとめますと・・・老化細胞では、ZMAT3、CPEB1、COX1、トランスポゾン(LINE-1やAlu)などの遺伝子や領域で低メチル化が起こり、これが老化細胞の表現型や細胞機能の変化に深く関与しているわけですね。
ワケが分からん・・・という印象を誰でも持つと思います。私もそのひとりです。
しかし、ずいぶんと「老化細胞」が産生されるメカニズムが研究されてきているんだなあ〜と思った次第です。
それと同時に「老化細胞」のかなり多くのものが、テロメアが短くなり、それ以上は分裂できないとされる「ヘイフリック限界」を迎えたものではなく、何らかの遺伝子異常が生じて、やむを得す「老化細胞」になっている細胞も案外(あんがい)多いのかもしれない・・・
なんて、思ったりもしますね。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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<ブログ後記>5月27日
今回は「老化細胞」のDNAが「低メチル化」状態になっているというお話をさせていただきました。
この原因としては、本文内でご紹介した複数の遺伝子が関与している可能性があるかもしれないわけですが、詳細は、はっきりとしていない状態です。
実は、前回のブログ内でもお話をしたのですが・・・私自身は「全身性エリテマトーデス(SLE)」の、主にT細胞のDNAが「低メチル化」状態になることについて、基礎研究を行なっていたことがあります。
もちろん、最初から「DNAの低メチル化」に気がついたわけでなく、この疾患の病態(びょうたい)の形成に
「ヒト内在性レトロウイルス(human endogenous retrovirus:HERV)」が要因となっているのではないか・・・という仮説を持っていらっしゃった直属の上司であるH先生というがいらっしゃいまして、そのお手伝いで、研究をするようになったわけですね。
正直にお話をしますと・•・最初は、あまり乗り気ではありませんでしたし、通常の病棟業務(びょうとうぎょうむ)が終割ってから。実験室に入るのは、本当に苦痛(くつう)なことであったのを覚えています・・・
とまあ、思い出話をしていてもキリがありませんね。
話を進めたいと思います。
疾患活動性の高い「全身性エリテマトーデス(SLE)」のリンパ球において、ある種の「ヒト内在性レトロウイルス(human endogenous retrovirus:HERV)」のmRNAレベルが増加していることが、リアルタイムPCRを用いた結果がわかりました、
その後、この原因が、リンパ球の「DNAメチル化」の低下があるという可能性を示すデータにたどり着いたのですが・・・
その時には、実験を始めてから約7~8年が経過していました。
しかしながら、その間に「ヒト内在性レトロウイルス」遺伝子の一部しか発現していないことが分かり、そんなはずはないと何回も実験を繰り返したりもしました。
今の科学的常識から言えば、は「レトロトランスポゾン」と呼ばれる「ヒト内在性レトロウイルス」のある部分の領域なのだな・・・と理解できるのですが・・・ね。
DNAのメチル化に関与する遺伝子は、多くあるわけですが・・・私が選んだのは「DNMT1(「DNAメチルトランスフェラーゼ ワン)」遺伝子でした。
「全身性エリテマトーデス(SLE)」の疾患活動性が高くなった時には、「DNMT1」遺伝子のmRNAの発現が低下し、「レトロトランスポゾン」のmRNAの増加を示すデータが確認できたときはとても嬉しかったのを覚えています。
現在の科学的な常識(じょうしき)では、「DNAのメチル化には、新たにメチル基を導入する「新規メチル化」と、DNA複製に伴ってそれを維持する「維持メチル化」の2種類があることが分かっています。
哺乳類(ほにゅうるい)では、3つのメチル基転移酵素が知られ、「DNMT3a」および「DNMT3b」は新規メチル化に、「DNMT1」は、維持メチル化に機能することが分かっているので・・・
約20年前に「DNMT1遺伝子」を選んだことは、今、当時を振り返っても、それほど、矛盾(むじゅん)はなかったんじゃないかな〜と思えたりもします。
その後、この「DNMT1」遺伝子のmRNAを調節する因子を見つけ出そうとして、実験を重ねましたが・•・最後はドツボにハマっていったのですね。
具体的には、DNMT1遺伝子から、DNMT1mRNAの発現を調節する「プロモーター」という部分を解析して、そこに付着する「転写因子(てんしゃいんし)」のタンパク質を探し出すという内容でした。
遺伝子の勉強から、「タンパク質」の勉強をしつつの実験でしたので・・・それから、約2年後・・・ドツボにはまり、私は静かに
研究生活を終えたわけですね。
その後、「全身性エリテマトーデス(SLE)」の疾患活動性に「DNMT1遺伝子」の発現があることを確信しつつも・・・いつか、誰かが発見して、「全身性エリテマトーデス(SLE)」の根本的な原因を発見するかもなあ〜と思いながら、20年程度の時間が経った(たった)わけですね。
たまたま、「老化細胞」の論文を読んでいて、驚いたのは次のようなことが記載されていたからです。
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DNMT1 mRNAの発現低下がDNA低メチル化と関連する可能性を示唆していますが、SLEに特化した直接的な証拠は示していません・・・
としている論文が多いものの、
「SLE(全身性エリテマトーデス)」と「老化細胞」は、どちらもエピジェネティクスの変化、特にDNAのメチル化やアセチル化が関与することが知られています。
SLEでは主にDNAメチル化の異常が報告されており、老化細胞でも同様にエピジェネティックな制御異常が観察されます。
SLEにおける低メチル化と関連遺伝子
SLEはインターフェロン(IFN)経路の活性化が特徴であり、IFN調節遺伝子の発現増加が認められます。これには遺伝的素因が関与し、IFN産生を促進する遺伝子セットが存在します1910。
IFN-αやIFN-γのシグネチャーがSLE患者で顕著であり、これらの経路に関与する遺伝子(例:IFN調節因子群、JAK/STAT経路関連遺伝子)が注目されています。
老化細胞の低メチル化に関与する遺伝子
老化細胞では、エピジェネティック制御の破綻により、広範なDNA低メチル化が生じます。
代表的には、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)ファミリー(例:DNMT1, DNMT3A, DNMT3B)の発現低下や機能障害が老化細胞の低メチル化に関与します。
共通する可能性のある遺伝子・経路
共通の可能性がある遺伝子・経路 (SLEとの関連 老化細胞との関連)
DNMTファミリー IFN経路活性化により発現低下が報告されている
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一方、SLEでは
I型インターフェロン経路関連遺伝子
MX1, IFI44L, IFI44, IFIT1, RSAD2, PLSCR1, IRF7, PARP9, NLRC5 などが低メチル化し、発現が亢進しています134。
炎症性サイトカイン関連遺伝子
IL10, IL1R2 のプロモーター領域が低メチル化し、疾患活動性と関連します6。
T細胞活性化・自己免疫関連遺伝子
CD11a(ITGAL)、Perforin(PRF1)、CD70(TNFSF7)、CD40L(TNFSF5)、PP2Acα などがT細胞で低メチル化し、自己免疫反応を促進します
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今回は、詳細な関連する論文は示しませんが、上記のことが論文として報告されているわけです。
その中で、「老化細胞」では、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)ファミリー(例:DNMT1, DNMT3A, DNMT3B)の発現低下や機能障害が老化細胞の低メチル化に関与するとされています。
「DNMT1遺伝子」は・・・若き日の私が「SLE(全身性エリテマトーデス)」の病態と関係があるのではないか・・・と時間を費やした(ついやした)遺伝子ですね。
もちろん、若い日の私は、エネルギーに満ち溢れて(みちあふれて)いましたので、DNAメチル化の制御(せいぎょ)のメカニズムが明らかになりましたら、
すぐに「SLE(全身性エリテマトーデス)」のヒストンのアセチル化・脱アセチル化のメカニ
ズムの研究をするつもりでした。
しかし、その時は、ヒストンのアセチル化・脱アセチル化のメカニズムは、どこから手をつけていいかが分からなかったのですね。
だから、「低メチル化」のメカニズムについて、深追い(ふかおい)
しすぎて、失敗したと言えますね、
今なら迷わず(まよわず)、「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」をとっかかりにして、ヒストンのアセチル化・脱アセチル化のメカニズムの研究に入っていくわけですが・・・ね。
このように考えてきますと・・・ステロイドや免疫抑制剤を使うことによって、「低メチル化DNA」のために免疫応答の異常をきたした「SLE(全身性エリテマトーデス)」のT細胞の機能は、正常状態に戻るわけですので・・・
なんらかの方法により、「低メチル化DNA」のために「老化細胞」になったものも、ある程度の割合で、正常細胞化する可能性があるのでは・・・なんて考えてしまいますね。
まあ・・・多少(たしょう)の根拠(こんきょ)のある仮説とは・・・なりますが・・・ね。
この多少の根拠については・・・少しまとめる時間をいただきまして、またの機会にお話をしたいと思います。
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました![]()
参考)
1.Nat Cell Biol. 2013 Dec;15(12):1495-506.
Senescent cells harbour features of the cancer epigenome
Hazei A Cruickshanksら
2)Aging Cell. 2022 Mar;21(3):e13557. Rosa spinelliら
ZMAT3 hypomethylation contributes to early senescence of preadipocytes from healthy first-degree relatives of type 2 diabetics
Rosa spinelliら
3)Cell Death Dis. 2013 Jun 20;4(6)
CPEB1, a histone-modified hypomethylated gene, is regulated by miR-101 and involved in cell senescence in glioma
L Xiaopingら
4)Cells. 2022 Nov 27;11(23):3799. Deborah Ramini
Replicative Senescence-Associated LINE1 Methylation and LINE1-Alu Expression Levels in Human Endothelial Cells
Deborah Raminiら
5)Nat Cell Biol. 2013 Dec;15(12):1495-506.
Senescent cells harbour features of the cancer epigenome
Hazel A Cruickshanks
(東京駅丸の内駅舎)
(筆者撮影)
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理事長・院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部)
(筆者作成)
<内科医ひとちゃんが選んだピアノJazzの曲>
<今週、なんとなく聞いてみたい曲>
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◯外来診療は予約制をとり、待ち時間が生じないようにしています。
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