こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

5月最後の休日になっています。

よく晴れていて、気持ちはよいのですが

若干、蒸し暑さも感じたりもしますね。

 

最近は、人工知能(AI)を用いて、お仕事をされる方が増えているそうですね。

 

だんだんと・・・ヒトの仕事が減ってしまうと危惧(きぐ)する声もありますが・・・そんな時代は、まだまだ先の話だろうと私は思っておりました。

 

ある日、興味本意(きょうみほんい)で画像を作らせてみました。それが下の1枚目のものになります。

ちょっと、驚きましたね。想像以上に時代は進んでいるようです。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

 

 

今回は、前回の続きの話題にしたいと思います
「ヒト内在性レトロウイルス(HERV)」や「レトロトランスポゾン」
が、どうやらDNAの中で、複製を繰り返しているかもしれない・・・
というお話をさせていただきました。
 
これらの遺伝子は、ある遺伝子の中に挿入されることで、本来の遺伝子の持つ配列を変えてしまったり、ある遺伝子の発現を増強させたり、抑制したりする可能性もあるわけです。
 
場合によっては、新たに疾患を引き起こす可能性もあります。
 
なぜ、このような現象が起こるのかを説明してみたいと思います。
下の図は、細胞の核の中にある「染色体」が、どのような構造から構成されるのか・・・を示したものです。
 
もちろん、染色体は2本鎖のDNAが折りたたまれた形で存在するわけですが・・・「ヒストン」というボールのようなものに巻きついた状態で存在することが知られています。この「ヒストン」には「ヒストンテール」よいう尻尾(しっぽ)のようなものが伸びています。
 
 
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           (図はお借りしました)
 
この「ヒストン」への巻きとられ方が重要でして、きつく巻きとられた形であれば、遺伝子の「転写(てんしゃ)」はなくなり、DNAは安定した状態となります。
 
「転写」とは、DNAをコピーして、1本鎖のRNAなどが作られることですね。
このRNAから不必要な部分がなくなって(スプライシング)、mRNAが作られるわけですね。
 
このような変化を「クロマチンの構造変化」と呼ぶのですね。
 
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一方で、「ヒストン」への「DNA」の巻き取られ方が緩くなると・・
・遺伝子の「転写(てんしゃ)」が開始されるということになります。
 
もう少しだけ詳しくお話すると、次のようになります「。
 
「ヒストン」の「ヒストンテール」に「アセチル基」がくっつきますと、ヒストン-DNA間の静電的結合が弱くなり,クロマチン構造が弛緩することで転写因子などがDNAへ結合しやすくなり,遺伝子の発現が誘導されます(ヒストンアセチル化)。
 
このヒストンのアセチル化は,アセチル基をヒストンに付加するヒストンアセチル化酵素(histone acetyltransferase:HAT)で制御をされています。
 
一方,「ヒストンテール」の「アセチル基」が除去されるとクロマチン構造が凝縮し,遺伝子の発現が抑制されるのですね(ヒストン脱アセチル化)。
 
このヒストンからアセチル基を取り除くヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)によって制御されていることが知られています。
 
このような遺伝子の発言のOn・Offの仕組みを「エピジェネティック・スイッチ」と呼びます。
 
上記のような仕組みは・・・本来であれば、あるタンパク質が必要な時にそれをコードする遺伝子の転写を開始するためのメカニズムであったはずです。
 
「コードする」・・・というのは、その遺伝子がコピーされて、RNAが作られ、それがスプライシングをされて、mRNAになり、さらにこれが翻訳されて「タンパク質」になるということですね。
 
ところが何らかの要因で、「ヒストンアセチル化」の状態が保てなくなると・・・,常にクロマチン構造が弛緩した状態になり、
その結果、転写因子などがDNAへ結合しやすくなり,簡単に遺伝子の発現が起こりやすくなってしまうのですね。
 
このメカニズムがうまく働かないことが、「老化」や「癌」の発生にも大きな影響を与えている・・・という報告もあります。
 
しかしながら、この「「ヒストンアセチル化」の状態が保てなくなるなどの「エピジェネティック・スイッチ」のトラブルを改善させる可能性を持つものがあります。
 
これが、「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」から誘導される「サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)」ということになるのですね。
 
「サーチュイン遺伝子」は、ヒトでは他の哺乳類(ほにゅうるい)世同様に7つ存在するわけですが・・・その中でも「サーチュイン1遺伝子」と「サーチュイン6遺伝子」が注目されています。
 
とくに「サーチュイン1遺伝子」は、ヒストンを「脱アセチル化」することにより、組織の恒常性や多くの疾患のエピジェネティックな制御に重要な役割を担っているとされているのですね。
 

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ヒストンを「脱アセチル化」することができれば、異常な遺伝子の発現は停止し、この間にDNAの修復をすることも可能になるというわけです。

 

もちろん、「ヒト内在性レトロウイルス」や「レトロトランスポゾン」などは、異常な遺伝子ということになりますよね。

 
そして、前回のブログでもお話をしたように・・・ヒトにおいても
多くの研究者らは、「ヒト内在性レトロウイルス(HERV)」や「レトロトランスポゾン」が発現してしまうことが、細胞老化や組織老化を進行させると考えているわけです。
 
ならば・・・「NAD+」を体内で増加させ、ヒストンを「脱アセチル化」を助け、上の図のように遺伝子の「転写」を抑制すれば、
「ヒト内在性レトロウイルス(HERV)」や「レトロトランスポゾン」が発現が減少し、細胞老化や組織老化が進行するの抑制できますよね・・・ということになりますね。
 
「NAD+」の前駆体(ぜんくたい)が、「N M N(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」となりますね、
 
言うまでもありませんが・・・「N M N」はヒトの体内に入ると、補酵素NAD+に変換され、「サーチュイン遺伝子」を活性化すると考えられていますよね。
 
素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ
 
それでは、またバイバイ

 

 

参考)

1.Cell. 2023 Jan 19;186(2):287-304.

Resurrection of endogenous retroviruses during aging reinforces senescence

Xiaoqian Liuら

 

2.Int. J. Mol. Sci.2019, 20(13), 3153

The Role of SIRT1 on DNA Damage Response and Epigenetic Alterations in Cancer

Débora Kristina Alves-Fernandesaら

 

3.Int. J. Mol. Sci.2024, 25(1), 497

The Role of Sirtuin 6 in the Deacetylation of Histone Proteins as a Factor in the Progression of Neoplastic Disease 

Marzena Baranら

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<ブログ後記>5月28日

 

今宵は、雨と風が強まり、大荒れの天気となっているようです。

 

今回は、DNA「ヒストン」の「エピジェネティック・スイッチ」とその異常により、「ヒト内在性レトロウイルス」や「レトロトランスポゾン」の遺伝子が発現する可能性があるというお話をさせていただきました。

 

いったい、どのような状況になりますと・・・「ヒト内在性レトロウイルス」や「レトロトランスポゾン」の遺伝子が発現する可能性があるのか?・・・というお話をさせていただきました。

 

少し、切り口を変えて・・・「DNAのメチル化」についてもお話をしてみたいと思います。

 

 

遺伝子が発現するというのは、DNAをコピーするようにして、まずはRNAが作られ、この不要な部分が取り除かれて、m RNAが作られる「転写(てんしゃ)」のことを指します。

 

そして、次のような現象が起きるということは、よく知られていることであると思います。


ひとつの受精卵の「DNA」から、目や肝臓など多くの臓器が分化していくメカニズム・・・と言った方がわかりやすいかもしれません。

 

DNAを構成する「塩基」の配列は変わらないにも関わらず(かかわらず)、異なるmRNAが作られ、そこから異なるタンパク質ができるために多くの種類の違う臓器が作られていくわけです。
 

この理由は、DNA自体が様々な「修飾(しゅうしょく)」を受けており、この修飾のされ方が変化するから・・・という仕組みが存在するからということになります。


こうした仕組みは、「エピジェネティクス(epigenetics)」と呼ばれています。「epi」はギリシャ語で「後に」という意味を表す接頭語で、DNAの塩基配列変化を伴わない遺伝子発現調節機構のことを言います。

この「エピジェネティクス」は、個体発生や細胞分化の過程で必須のメカニズムとなっているわけですが・・・


その実態は、DNAを構成するシトシンのメチル化やヒストンの化学修飾(リジンメチル化・アセチル化・ユビキチン化)などがあることが知られています。

これらDNAの修飾は、遺伝子の発現を亢進(こうしん)したり、または「抑制」するなどのに調節することが知られているのですね。

私も実は「ヒト内在性レトロウイルス(HERV)」を研究していたことがあります。私は基礎医学の研究者ではなく、単なる臨床医であり、とても系統だった研究ができたわけではありません。


しかしながら、偶然にも「全身性エリテマトーデス(SLE)」の患者さんのmRNAを解析していた時に、疾患の活動性が上昇した時には「DNMT1遺伝子のmRNA遺伝子」の発現量が極端に低下し、そのときに「ヒト内在性レトロウイルス(HERV)」の内部構造タンパク質(gagタンパク質)をコードするmRNAの発現量が増加することを見出しました。
 

 

「DNMT1遺伝子」とは、DNAのメチル化を調節する遺伝子でしたので、この遺伝子が低下しているということは、DNAのメチル化の状態が低下していることが疑われたのですね。

ちょっとだけ、説明を加えますと・・・DNAの「メチル化」とは、「シトシン」の塩基にメチル基が付加される化学的修飾で、主にCpGサイト(シトシンとグアニンが連続する配列)に起こることが知られています。


DNAがメチル化されますと、mRNAなどが作られる遺伝子の転写がされなくなり、脱メチル化されると遺伝子の転写が開始される・・・ということになりますね。

なので・・・「全身性エリテマトーデス(SLE)」の疾患活動性の高い時には、DNAの「メチル化」の状態が低下し、その結果、通常は発現しない「ヒト内在性レトロウイルス(HERV)」の
遺伝子が発現するのではないか・・・と考えたのですね。

 

そこからは、DNMT1 mRNAの低下がなぜ、起きているのか?・・・と更に私の研究は深みにはまり、最終的には失敗することになるわけです。

 

実は、当初、「全身性エリテマトーデス(SLE)」の遺伝子研究は、DNAのアセチル化・脱アセチル化についても研究をする方針でいたのですが・・・当時は、「サーチュイン遺伝子」が何らかの形で関与しているのではないか・・・という説はあったのですが・・・

 

どうすれば、「サーチュイン遺伝子」の発現を実験に関連付けられるかが、当時の私には思いつきませんでした。

ちょうど、20年前の話ですね。

 

今であれば・・・「N M N」から「NAD+」を体内で作り出し、サーチュイン遺伝子を活性化することを簡単に思いつくわけですが・・・ね。

 

もちろん、現在でも「全身性エリテマトーデス(SLE)」の正確な発症原因は正確には分かっていません。

しかしながら・・・「DNA」のメチル化の低下も関与しているのではないかと思うのですね。そして、そのことにより、DNA上にある「ヒト内在性レトロウイルス(HERV)」の遺伝子の一部が発現していたのではないか・・・と思ったりもします。

 

そして、もし、20年前にDNAのアセチル化・脱アセチル化の研究を少しずつでも進めればよかったなあ〜などとも思います。

当初の予定どおりにですね。

 

その理由は、どうやらDNAの低メチル化状態があったとしても、ヒストンにDNAがしっかりと巻きついていれば・・・その影響が小さいのではないか・・・という説が多く出てきているからなのですね。

 

 

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つまり、DNAが低メチル化になり、異常な遺伝子をいつでも発現できるようになったとしても、上の図の下段の状態のように「脱アセチル化」の状態を作り出せれば、その異常な遺伝子の発現を抑制できる可能性が高い・・・ということになりますね。

 

 

ちょっと、長くなってしまいましたね。

この話は、何週間でも続けることができるのですが・・・

それは、またの機会にしたいと思います。

 

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

4. J Rheumatol. 2001 Mar;28(3):533-8.

Quantitative analyses of messenger RNA of human endogenous retrovirus in patients with systemic lupus erythematosus

H.Ogasawaraら

 

 

 (以前のphoto;筆者撮影)

 

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 理事長、院長  

小笠原  均  (Hitoshi Ogasawara)   

医学博士, 内科医

(総合内科、リウマチ専門医)

新潟大医学部卒

 

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