こんにちは、内科医 ひとちゃんです
曇りがちのお天気ではありますが、窓からは心地のよい(ここちのよい)風が入ってきます。
暦の七十二候を見ますと「蚯蚓出(みみずいづる)」となっていることに気がつきました。
冬眠していたミミズが地上に現れ始める頃という意味ですね。
ミミズというと顔をしかめる方もいらっしゃるかもしれませんが・・・ミミズが掘ったトンネルは、植物の成長に大切な空気や水の通り道となるそうです。
そして、落ち葉などの有機物を食べて、土の中に窒素やリンを含む栄養豊富のフンをしますが、これは、畑に肥料を撒くのと同じ意味を持つそうです。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
さて、今回は「睡眠(すいみん)」を話題にしてみたいと思います。
「睡眠」には、脳や体を休養させて疲労を回復する働きや、傷ついた細胞を修復したり、免疫物質をつくったりする体のメンテナンス、日中に見たことや学習したことを脳に定着させるなどの効果があるとされていますね。
何時間ぐらい眠ればよいのか?・・・ということは話題になるのですが・・・
米国の大規模調査では、睡眠時間が「7時間」の人が最も死亡率が低く長寿であったというデータがあるようです。
ただし、実際には、40歳代を中心に、十分に眠っていない人が多いと言われています。
この十分な睡眠をとれていないことが、心身の健康に影響し、日中の活動に支障をきたすような場合は、「睡眠障害」と考えてよさそうですね。
今回は、「サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)」が、上記のような「睡眠障害」では、どのような傾向を示すのか?・・・という切り口から検証してみたいと思います。
まず、「睡眠障害」は、「サーチュイン遺伝子」の活性化にどのような影響を与えるのでしょうか?
「サーチュイン遺伝子」からできる「サーチュイン 蛋白(たんぱく)」は、細胞の代謝やストレス応答、老化プロセスなどに関与する重要な蛋白質群であると言えます。
十分な睡眠を取ることで、「サーチュイン活性」が適切に維持されると考えられています。
一方、睡眠障害がある場合には、以下のようなメカニズムで「サーチュイン活性」に影響を与えると推測されています。
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1)睡眠不足により、酸化ストレスが増加し、サーチュイン活性が低下する
2) 生体リズムの乱れによりサーチュインの発現リズムが変化する
3)炎症が亢進し、サーチュイン活性が抑制される
4)エネルギー代謝の変化に伴い、NAD+などのサーチュイン活性化因子のレベルが変動する
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1)の睡眠不足から「酸化ストレス」が増加するのか?・・・と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが・・・
睡眠が不足すると・・・ イライラ感などが生じるかもしれません。
これにより血管が収縮して血行障害がおきると、酸素の循環が滞り(とどこおり)、フリーラジカル・活性酸素の発生を招くということになりますね。
2)の生活リズムの乱れとは・・・「サーカディアンリズム」の乱れと
考えてもよいですよね。
3)の炎症とは、大きな臓器の炎症というわけでなく、炎症性サイ トカインなの増加など、低レベルの炎症を示すと考えてよさそうです。
ただ「睡眠時間」が少ないだけなのに・・・「活性酸素」などの産生が高まり、「サーチュイン遺伝子」の活性を低下させるというのは・・・
まるで、自分自身の「老化」のスピードをアップさせているようなものではないか・・・と思う方がいらっしゃるかもしれませんね。
実は、そのとおりなのです。
十分な睡眠を取れない状態が続くと、「サーチュイン活性」の低下を引き起こし、細胞の恒常性維持や抗老化機能に悪影響を及ぼす可能性があると考えられています。
もちろん、適切な睡眠と並行して、運動や食事など生活習慣の改善もサーチュイン活性の維持に重要と言えますよね。
素敵な1週間をお過ごしください
それでは、また
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< ブログ後記 >5月14日
今回は、「睡眠」を話題にさせていただきました。
あらためて言うまでもなく、「睡眠」は健康を維持するうえで重要である・・・と言われるわけです。
たしかにヒトの睡眠中は、「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」からなる睡眠サイクルを何度か繰り返すのがよいとされますし、
もし、8時間程度の睡眠時間を確保することができれば、この「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」からなるサイクルを4〜5回程度は繰り返すことができるとされています。
このような睡眠の性質から、「理想の睡眠」とは、どのようなものか?・・・という問いの答えは、次のようなものになると思います。
入眠から1時間以内に最も深い眠りにつき、ノンレム睡眠(60~80分)とレム睡眠(10~20分)のセットを4~5回繰り返すことです。ノンレム睡眠とレム睡眠は90分周期で交互に現れ、ノンレム睡眠が80%、レム睡眠が20%が理想的である・・・という答えになると思います。
これが、最も理想的な睡眠リズムである・・・ということになりますね。
しかしながら、なかなか7〜8時間も眠ることはできない・・・という方も多いのではないでしょうか。
一方で、眠りたくても眠れない・・・という方も多いかもしれませんね。
詳細は、またの機会にさせていただきますが、このような状態を「不眠症」と呼びます。
「不眠症」は、次のようにいくつかのタイプに細分化されます。
例えば・・・寝つきが悪い「入眠障害(にゅうみんしょうがい)」、
眠りが浅く途中で何度も目が覚める「中途覚醒(ちゅうとかくせい)
そして、早朝に目覚めて二度寝ができない「早朝覚醒(そうちょうかくせい)」
などの睡眠問題があり、そのために日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現する疾患をまとめて「不眠症」と呼ぶわけです。
もちろん、「不眠」は誰でも経験するものですが、自然に改善して、再び眠れるようになることが大部分であると言われています。
ただし、いったん慢性的な「不眠症」に陥る(おちるいる)と適切な治療を受けないと・・・回復しにくいと考えられています。
このようなことから、医療者は「それなら、睡眠薬を処方しておきましょう」などと提案することが多くなります。
以前であれば・・・「眠れないからといって、命にかかわるようなことはない」・・・と笑い飛ばす風潮(ふうちょう)もあったかもしれませんね。
しかしながら・・・とくに高齢者の健康にとって、「睡眠」は「食事」や「運動」と同じくらい重要かもしれない・・・と考えられているのが、現状です。
なぜなら、世界の 多くの研究が、「睡眠時間」が長すぎても短すぎても、高齢者の死亡率と関連することを示しているからですね。
そして、十分な睡眠がとれないと、糖尿病、心血管疾患、肥満、うつ病など、いくつかの疾患や慢性疾患のリスクが高まる可能性があることを示す研究も増えているのです。。
私が見ることが多い米国の「PRB」にとても興味深い話題がありました。
この中の「Today's Research on Aging」(第38号)では、米国国立老化研究所(National Institute on Aging)が支援する睡眠と老化に関する研究を調査し、睡眠不足が不健康の兆候であると同時に、
病気や生物学的老化に関連するプロセスの引き金になる可能性を示す新たな証拠を検討していることが話題に取り挙げられていました。
内容の一部を抜粋(ばっすい)したものをご紹介してみたいと思います。
1)高齢者にとって睡眠はしばしば難しくなる傾向があるが、不眠症-入眠障害や睡眠維持障害-は高齢になると必ず起こるものではない。
2)睡眠不足のスクリーニングと高齢者の睡眠を改善する介入の重要性を強調している。
3)睡眠不足は、「生物学的老化」と関連している。
4)研究者たちは、慢性疾患や老化プロセスにおける「睡眠」の役割について、より深く研究している。
5)これらの研究は、睡眠時間と死亡率の間にU字型の関係があることを証明している:
この内容は、 睡眠時間が毎日5時間未満、または9時間を超えることが常態化していると、死亡リスクが上昇する。
この中で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームの報告が、興味深い結果を示しているのです。
同研究チームは、一晩の部分的な「睡眠不足」が、高齢者の生物学的老化に関連する遺伝子を活性化することを発見したというものです。
実験は、以下のような苛酷(かこく)な(?)ものであったようです。
参加者(高齢者)は、睡眠を妨げられない夜を2日過ごした後、午後11時から午前3時の間は眠ることが許されず、その後午前7時に起床させられたそうです。
参加者の血液には、細胞の成長と分裂のサイクルに悪化の兆候が見られたと報告しており
「睡眠不足」は「生物学的老化を促進する分子経路を活性化する」ことによって慢性疾患のリスクを高める可能性を示唆している。
また、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のMichael Irwin氏らの研究は、5万人の参加者を対象としており、睡眠障害(寝つきが悪い、不眠を訴える)のある方では「炎症の血中マーカー」の上昇していることを示唆するデータを報告しています。
特に「睡眠障害」の症状がある方では、炎症マーカーである「C反応性タンパク質(CRP)」と炎症性サイトカインのひとつである「インターロイキン-6(IL-6)」の上昇が認められたそうです。
これらのマーカーは、糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患に関連する傾向があるとも述べているそうです。
ちょっと、意外であったのは・・・「長時間睡眠」の状態でも炎症マーカーである「C反応性タンパク質(CRP)」と炎症性サイトカインのひとつである「インターロイキン-6(IL-6)」の上昇が認められた・・・ということです。
このことから、同大学の研究者らは、「睡眠障害」や「長時間の睡眠」は、高脂肪食や座りがちな生活習慣と同様に、「炎症」の新たな危険因子とみなすべきだと述べています。
さらに、次のような報告もあるようです。
カリフォルニア州、ペンシルバニア州、アラバマ州、メリーランド州、イリノイ州の研究者らは、「認知症」に関連した脳の変化は、規則的に睡眠時間が6時間未満であることと関連しており、中年期から始まっている可能性があることを明らかにした。
睡眠時間が短い人の脳は、睡眠時間が6時間から8時間の人と比較して、「脳卒中」や「血管性認知症」に関連する「脳動脈の硬化病変」を有する割合が高かった・・・というのですね。
たかが「睡眠」と軽く見られがちであった・・・「睡眠障害」なわけですが・・・最新の研究結果から考えますと・・・
「サーチュイン遺伝子」の活性を低下させるばかりでなく、糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患、そして、「脳動脈の硬化」までも生じる可能性があるなどが理解できます。
これらのことから考えますと・・・「睡眠障害」に対しては、積極的な治療を行っていくのが「正解」・・・いや、「当然なこと」ということになりますね。
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました
参考)
1. PRB’s Today’s Research on Aging (Issue 38)
2.Psychoneuroendocrinology.Vol.74 December 2016, 258-268.
Sleep restriction alters plasma endocannabinoids concentrations before but not after exercise in humans
Jonathan Cedernaes MD, PhDら
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理事長、院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
新潟大医学部卒
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