こんにちは、内科医 ひとちゃんです
ゴールデンウィークも始まり、間もなく5月になろうとしているわけですが・・・時間が経つ(たつ)のは早いものだ・・・としみじみと
考えたりします。
まさに・・・「「光陰矢の如し(こういんやのごとし)」という言葉が、ぴったりと当てはまる感じがします。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
今回は・・・動物の「象(ゾウ)」のお話をしたいと思います。
いきなり・・・「象(ゾウ)」って・・・どういうことと思う方もいらっしゃるかもしれませんね。
話を続けますと・・・「象(ゾウ)」は、何年程度の寿命を持っているのか?・・・をご存知(ごぞんじ)でしょうか?
正解は・・・「ゾウ」の寿命は種類によって少しずつ異なりますが、だいたい70年ほどと言われています。
これは、人間を除いた陸上の哺乳類の中で、最も長い寿命を持つのが
ゾウであるということになります。
実は、自然界の法則のひとつとして、次のようなものがあります。
興味深いのは・・・「ゾウ」は、あんなに体が大きくて、それを構成する細胞の数も多い。
そして・・・寿命も長いのに・・・ほとんど、癌を発症しないということです。
もちろん、言い方を換えれば、癌にならないから・・・長生きだとも言えるわけですがね。
ゾウががんにならない理由を調べた研究が、過去にあります。
結果として見つかったのは・・・「p53」の遺伝子の数が、とても多いことが分かったのだとか。
「p53」の遺伝子は、以前のブログ内でもご紹介したのですが・・・
「DNAの守護神(しゅごしん)」とも呼ばれる遺伝子でしたね。
ヒトの場合は「p53遺伝子」は、第17番染色体短腕上(17p13.1)のみに存在することが知られていますが・・・
「ゾウ」では、いくつかの染色体に位置する形で・・・・
「p53遺伝子」20個もあることが分かっています。
加えて、「リフシックス(LIF6)」という「p53の働きをさらに助ける遺伝子もゾウにだけ存在します。
さて・・・「p53遺伝子」の持つ主な機能とは、どのようなものであったでしょうか?
そうですね・・・「活性酸素」や「紫外線」などで、繰り返し傷害されるDNAの修復(しゅうふく)に関与していましたよね
お話の続きは、後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください
それでは、また
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< ブログ後記 > 4月30日
今朝は、透き通るような声で鳴く鳥の声で目が覚めて(さめて)、
少し幸せな朝だなあ〜と思いました。
4月も今宵で終わり、明日からは5月となりますね。
今回は、「象(ゾウ)」がなぜ、癌を発症しないのか?・・・というお話をさせていただきました。
その答えは、本文内でもご紹介したように・・・「象(ゾウ)」は、
「p53遺伝子」を多く持っているからということになります。
ヒトの場合、「p53遺伝子」は17番染色体短腕(17p13.1)に存在し、DNA上では「TP53遺伝子」として存在しています。もちろん、その数は、ひとつだけということになりますね。
そんなに「p53遺伝子」は重要なのか?・・・と疑問に思う方も多いtぽもいます。
これには、次のような背景(はいけい)があります。
膨大(ぼうだい)な「p53遺伝子」に関連する研究の成果を報告する
世界の論文は、 32,833論文以上があるそうで、多くある「癌抑制遺伝子(がんよくせいいでんし)」の中でも,ダントツに多いわけです。
それらの研究結果によりますと・・・「p53遺伝子」から作られる「p53」タンパク質の機能とがんの発生進展への関与が明らかにされているのですね。
余談ですが・・・最初に「p53遺伝子の変異」が報告されたのは、1989年だそうです。
では、「p53遺伝子」、そして、「p53遺伝子」作られる「p53タンパク」の機能とは、どのようなものと考えられているのでしょうか?
まず、「p53遺伝子」は、細胞のDNAが損傷を受けたときに活性化されるという特徴があり、その主な機能は以下の通りです。
1. DNA修復の促進
p53は、DNAが損傷した細胞において、修復プロセスを促進します。その際にDNA修復を担当するいくつかの酵素の発現を誘導することで、細胞が正常な遺伝情報を保持できるように支援します。
2. 細胞周期の停止
DNAに重大な損傷がある場合、p53は細胞周期を一時停止させることができます。これにより、細胞はDNA損傷を修復するための追加時間を得ることができます。
3. アポトーシスの誘導
修復不能なDNA損傷が発生した場合、p53は、損傷した細胞をプログラムされた細胞死(アポトーシス)へと誘導することにより、損傷した細胞が、癌細胞へと変化するのを防ぎます。
4. 老化の促進(そくしん)
p53は、細胞の老化を促進することがあります。これにより、細胞は分裂能力を失い、癌細胞への変化を防ぐことができます。
代表的なp 53遺伝子の働きは、上記のようになるのですが・・・
4.の「p53(タンパク)」は、細胞の老化を促進する」という言葉に違
和感を感じた方もいらっしゃるのではないのでしょうか?
癌を抑制する「p53遺伝子」や「p53(タンパク)」が、なぜ、
正常な細胞を「老化細胞」にするというマイナスの面を持つのか?
・・・とガッカリする方もいらっしゃることと思います。
実は・・・「老化細胞」になっていくのは、正常な細胞ではありません。あくまでもDNAの損傷を受けている細胞ということになります。
このDNAの損傷を受けている細胞を「老化」させることは、「p53遺伝子」から作られる「p53(タンパク)」の重要な役割とされているのですね。
それは、DNAの損傷が修復可能かどうかを判断し、修復が不可能な場合には細胞の「老化」を促進するか、
細胞死(アポトーシス)を引き起こすことで、損傷した細胞が癌細胞へと変化するのを防ぐ働きがあるのですね。
つまり、「p53遺伝子・タンパク」は、DNA異常を生じた細胞を通常の場合は、修復するか、それが無理なら、プログラムされた細胞死
(アポトーシス)を起こさせて、破壊するわけですが・・・それも無理であれば「老化細胞」に変えてしまうというわけですね。
「老化細胞」は、テロメアという部分が極端に短くなり、それ以上は分裂できなくなった細胞ですよね。DNAの異常が残ってしまって
いたとしても、それ以上の分裂ができないわけですから、癌細胞に変化することはないというわけですね。これが、「老化の促進」ということになります。
では、ヒトで「p53遺伝子」そのものが、異常をきたしてしまった場合には、どのようなことが起こると予想されるのでしょうか?
その場合、DNA損傷に対する応答が不十分となり、細胞の異常増殖が抑制されなくなるため、癌化するリスクが高まると考えられています。
実際に、多くの種類の癌で、「p53遺伝子」の変異が見られ、これががん細胞の増加や進行に寄与していることが知られています。
これは、ヒトの「p53遺伝子」が、1ケ所にしか、存在しないからですね。
それに対して、ゾウは多くの染色体に位置する形で、20ケ所に存在するので、ひとつの「p53遺伝子」に異常を来しても、
残りの19個の「p53 遺伝子」から「正常なp53タンパク」が作られますので、まったく、問題はないというわけですね。
長々とお話をしてきたのですが・・・「p53遺伝子」のお話は、ある論文をみますと・・・驚くような展開になっていく可能性があるのですね。
少しだけご紹介しますと・・・
「老化細胞」の表面には、「HLA-E」という分子が発現が増加し、NK細胞やT細胞の応答を阻害して、「老化細胞」の持続を可能にしている可能性がある・・・というのですね。
DNA上の「TP53遺伝子」の一部の遺伝子だけを切り出した「p53アイソフォーム」と呼ばれる部分の遺伝子は、「老化細胞」の恒常的な細胞機能が改善し、炎症性サイトカインやケモカインを含むSASP関連タンパク質の分泌が減少する可能性があるというのですね
また、「老化細胞」から放出される炎症性サイトカインやケモカインを含むSASP関連タンパク質は、免疫細胞、とくにCD8+T細胞(細胞障害T細胞)の免疫力を極端に低下させるそうですが・・「p53アイソフォーム」と呼ばれる部分の遺伝子を用いることで・・・
CD8+T細胞(細胞障害T細胞)の免疫力が回復する・・現象が認められる・・・というのですね。
ちょっと、信じられない部分もありますが・・・もし、本当であるとしますと・・・「老化細胞」を恐れる必要はない・・・となりそうですが・・・現時点では「老化細胞」もすみやかに排除(はいじょ)すべきものと言えそうですね。
機会があれば・・・少しだけ見えてきた「老化細胞」と「p53遺伝子」、そして、「p53アイソフォーム」と呼ばれる遺伝子領域の不思議な関係もお話をしていけたらと思います。
今回も最後までお付き合いくださいまして
誠にありがとうございました
参考)
1.Carcinogenesis, Volume 41, Issue 8, August 2020, Pages 1017–1029
Targeting cellular senescence in cancer and aging: roles of p53 and its isoforms
Jessica Beckら
2.総説 p53とヒトのがん
東北大学加齢医学研究所 癌化学療法研究分野
東北大学病院 腫瘍内科
著者: 石岡 千加史 など
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小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
新潟大医学部卒
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