こんにちは、内科医 ひとちゃんです
気持ちのよい青空の広がる休日となりました。
桜が満開となっているようで、まさにお花見日和(はなみびより)といったところでしょうか?
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
今回は、ちょっと驚きのイヤなニュースを話題にしてみたいと思います。
そのニュースとは、次のようなものです。
日本と韓国の成人を対象とした最近の研究で、新型コロナウイルス感染後の1年以内に「自己免疫性疾患」の発症リスクが高まることが明らかになった・・・というのですね。
「自己免疫疾患」とは、どのようなものでしょうか?
少し整理をしてみたいと思います。
「自己免疫疾患」とは・・・
「免疫システム」が誤って(あやまって)、自分の体の組織や細胞を外来の病原体と認識し、攻撃してしまう疾患です。
通常の場合、」免疫システム」は自分の体を守るために細菌、ウイルス、がん細胞などの外来の侵入物に反応します。
これが、ヒトの「免疫システム」の主な働きとなります。
「自己免疫疾患」がある状況では、何らかの理由で「免疫システム」が「自己」と「非自己」を区別できなくなってしまいます。
そして、自分の組織に対して「自己抗体」と呼ばれる異常な抗体を作り出したり、また・・・細胞障害性T細胞(CTL)などが、自分自身の体内にある特定の細胞や組織を標的にして攻撃してしまう異常が生じてしまうのですね。
つまり、本来ならウイルスや細菌などの外部からの外敵と戦う(たたかう)免疫が、自分の組織に向かい、炎症や組織の損傷を引き起こしてしまうというのが「自己免疫疾患」の病態ということになりますね。
ニュースの中では、新型コロナウイルス感染後に認められる「自己免疫疾患」には、次のような疾患があると述べられています。
関節リウマチ、乾癬(かんせん)性関節炎、シェーグレン症候群、全身性強皮症、リウマチ性多発筋痛症、混合性結合組織病、皮膚筋炎、多発性筋炎、結節性多発動脈炎、血管炎などの疾患が含まれる。
今回の研究では、重度の新型コロナウイルス感染症から回復したワクチン接種済み患者でも、これらの疾患のいずれかに罹患(りかん)するリスクが高まる可能性があることが分かった・・・というのですね。
この結果は、遠い昔に「自己免疫疾患」の発症機序を解明したいと思い、研究していた私にとっては、かなり、信じたくない結果ではあるのですが・・・
韓国の首都ソウルを拠点とする研究者らが、新型コロナウイルスが「自己免疫疾患」の発症リスクに与える影響を解明するため、日本と韓国の2カ国で2200万人以上(20歳以上の日本人1200万人以上と韓国人1000万人以上が含まれている)のデータを分析した結果である・・・そうなので、この結果を重く受け止めるべきだなあ〜なんて思いますね。
これまで・・・「自己免疫疾患」の原因は、次のように考えられてきました。
遺伝的な要因や長期的な病気、ウイルス感染、細菌感染、日光(紫外線)、妊娠、出産などにより、免疫システムが自己と非自己を区別できなくなることが原因となる・・・というようにですね。
もちろん、「ウイルス感染説」もあったわけですが・・・はっきりとは、しませんでした。
しかしながら、「新型コロナウイルス」の発症後に・・・何らかの「自己免疫疾患」の発症リスクが高まるとしても、新型コロナウイルスの遺伝子のなかに「自己免疫疾患」を発症させる遺伝子が含まれていたわけでなく、おそらくは「分子相同性(分子学的相同性)」によるものではないか・・・なんて、思っています。
「分子相同性(分子学的相同性)」とは・・・とは、どのようなものか?・・・というお話は、後日の話題にしたいと思いますが・・・
いずれにしても・・・「新型コロナウイルス」の感染後に調子がよくないなあ〜と感じる方がいらっしゃるとすれば・・・
「新型コロナウイルス感染後後遺症」と決めつけずに、「自己免疫疾患」の合併がないかを精査してみる必要がありそうですね。
素敵な1週間をお過ごしください
それでは、また
参考)
1. Forbes Japan 記事より
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<ブログ後記>4月9日
今年の春は天候に恵まれず、桜を楽しむ時間が少なかったような気がします。まあ、天気ばかりは仕方がない・・・のですが。
さて、今回は新型コロナ感染後に自己免疫疾患を発症する可能性がある・・・ということを話題にさせていただきました。
このような話題は、どうも眉唾物(まゆつばもの)じゃないのか??
・・・と思っていたのですが・・・
実際に論文などを読んでみると・・・なるほどと思うところもあって、しぶしぶ、この話題を取り上げた次第です。
自己免疫疾患とは、いわゆる膠原病(こうげんびょう)ということになりますね。
本文内でも触れたように・・・自己免疫疾患の原因のひとつに「ウイルス感染説」があるのは確かです。
例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己免疫疾患のひとつですが、患者は健常者に比べて、血液中の「EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)に対する抗体価が高いことが報告されています。
また、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)が、シェーグレン症候群と関連があるのではないかとされたり、A型肝炎ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、麻疹ウイルス)や一部の薬剤が
自己免疫性肝炎発症の誘因として報告されてもいます。
もし、ウイルスの感染が自己免疫疾患を生じるとすれば、その機序としては、以下のような可能性が指摘されています。
1. 分子相同性(モレキュラーミミクリー)
ウイルスの特定のタンパク質が宿主のタンパク質と構造的に類似している場合、免疫系がウイルスを攻撃する際に誤って自己の組織を攻撃することがあります。これにより、自己免疫反応が引き起こされる可能性があります。
ウイルスの一部のアミノ酸とヒトの組織のアミノ酸が一致している
(図はお借りしました)
2.ウイルス感染によって破壊された細胞から放出される自己抗原が、免疫系によって認識されることで、新たな自己抗原に対する免疫反応が引き起こされることがあります。
これは、通常は細胞内にあるものが、細胞の外に放出されると・・・それが「自分のものではない(非自己)」と判断され、免疫細胞の攻撃を受ける・・・ということを指します。
3. ウイルスの持続的感染は、免疫系の持続的な活性化を引き起こし、自己免疫疾患の発症につながる可能性があります。
そして、このような持続感染の状態が長期に維持されるようになりますと・・・「免疫調節異常」が生じてくることがあります。
新型コロナウイルス感染に伴う物は、上記の3..にあたると考えられます。
実際に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が免疫の調節異常を引き起こし、自己免疫疾患の発症に結びつく可能性が報告されています。
特に、COVID-19患者は感染後3~15カ月以内に自己免疫疾患を発症するリスクが増加しているとの報告があります.
本文内でご紹介した韓国の研究者の論文は、以下のようなものです。
2020年から2021年の間に、韓国の全国コホート(K-COV-Nコホート、総数n=10 027 506)と日本の請求ベースコホート(JMDCコホート、総数n=12 218 680)の中から、新型コロナウイルス感染者、または、インフルエンザ感染者を割り出したそうです。
これらのデータベースを利用して、新型コロナウイルスに感染した患者群は、
非感染者群とインフルエンザ感染者を合わせた対照患者群と比較して、「自己免疫疾患」の発症リスクが上昇し、統計学的な有意差があった・・・というのですね。
では、新型コロナウイルスの感染が「免疫異常」を高頻度を生じさせるのか?・・・ということについての詳細は、もちろん。明らかにされていません。
しかしながら、次のような報告と関連があるのかもしれません。
これは、以前にブログ内でもご紹介したことがある「オープン リーディング フレーム 8(ORF8)」という部分にある可能性が指摘されています。
新型コロナウイルスは、ヒトの免疫システムにに認識されることを徹底的に回避する能力を持っており、これが「ORF8」の存在することで、実現している可能性が指摘されているのですね。
また、免疫細胞の能力を低下させる可能性も指摘されています。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、スパイクタンパク質を変化せることができ、この部分を標的とするCD8 T細胞(細胞障害性T細胞に認識されないようにすることができることは知られています。
ワクチンを変化させる必要があるのは、そのためですね。
それ以外のも「免疫回避の重要なメカニズム」は、「MHCクラス I抗原」のダウンレギュレーション(発現低下)というものがあり、ウイルス感染細胞が、本来ならこれを攻撃して破壊するためのCD8 T細胞(細胞障害性T細胞)に認識されないようにしてしまうのです
このようなメカニズムは、新型コロナウイルスが「ORF8タンパク質」を介して実現していることが報告されています。
また、「ORF8タンパク質」は、抗体産生にかかわる免疫システムのレベルも低下させることも報告されているのです。
このような新型コロナウイルスの特徴が、長期にわたり、ヒトの体内にウイルス粒子が残存させる可能性があり、
このことが新型コロナウイルス感染後の後遺症ばかりでなく、各種の自己免疫疾患を発症させるきっかけとなっている可能性があるのかもしれませんね。
後遺症により、症状が改善しない場合には、何らかの自己免疫疾患を発症していないかを検査しておくことは、有用なのだと思います。
もしも・・・「自己免疫疾患」を合併しているのではないか?・・・
という結果になった時には、膠原病を専門とする医療機関を紹介してもらうことをお勧めします。
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました
参考)
1.Annals of Internal Medicine
Long-Term Autoimmune Inflammatory Rheumatic Outcomes of COVID-19 : A Binational Cohort Study
Min Seo Kim et al. Ann Intern Med. 2024 Mar.
2.Viruses. 2024 Jan; 16(1): 161.
SARS-CoV-2 ORF8 as a Modulator of Cytokine Induction: Evidence and Search for Molecular Mechanisms
Marília Inês Móvioら
(筆者撮影)
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小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
新潟大医学部卒
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