こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ 

 

2月も半ばを過ぎ、春めいた陽気の日が多くなってきていますね。

今週は寒くなる日もあるなんて、ニュースもあったような気もします。

 

どこかの情報で見かけた小説の一節に次のようなものがありました。

 

春めいた天気が続いていたが、どこかで手つかずの寒気の在庫でも見つかったかのように、今朝からまた急に寒さがぶり返していた。

 

平野 啓一郎さんの小説「マチネの終わりに」に書いてある言葉なのですが、今週はそんな感じなのかもしれませんね。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

 

 

さて、今回は「神経」に関するお話をしてみたいと思います。

 

脳内では、神経細胞同士を結ぶ「シナプス」という部分を介して情報が伝達されます。

 

          (図はお借りしました)」

 

一つの神経細胞には数千から数万個の「シナプス」があり、

さらには1千億個にも及ぶ脳内の「神経細胞」が、この「シナプス」により特徴的なパターンで、つながることで膨大な神経回路を形成していることが分かっています。

 

「シナプス」では、情報を送る側の神経細胞のシナプス前終末から神経伝達物質(興奮性シナプスでは主にグルタミン酸)が放出され、それが次の神経細胞のシナプス後部にある受容体に結合することで情報が伝わります。

 

「痛み」についても、同様のメカニズムが働き、「ニューロン」内では電気的信号(活動電位)として伝導し、「ニューロン」間はシナプスと呼ばれる接続部位において神経伝達物質による化学的信号として伝達することが分かっています。

 

なぜ、このようなお話をするのか?・・・と言いますと「線維筋痛症(せんいきんつうしょう)」という難病の激しい痛みも最終的には、

「神経細胞(ニューロン)」と「神経細胞(ニューロン)」の間を

化学物質を介して、伝達されまして、最終的に「痛み」として感知するのは、大脳皮質(知覚野)ということになります。

 

私自身、「線維筋痛症(せんいきんつうしょう)」の新しい有効な治療を生み出せないか?・・・と考えているわけですが・・・なかなか、「神経細胞(ニューロン)」と「神経細胞(ニューロン)」の間で、瞬間的に情報伝達される「痛み」をコントロールするのは、難しいなあ〜と思っていたのですね。

 

そこで、最近になり、何気なく開いた医学書の中で見つけたのが下の図です。

 

 

少し解説しますと・・・情報伝達に必須な「神経細胞(ニューロン)」は脳科学の分野において、中心的な要素であると言えます。

 

しかし、脳内では「神経細胞(ニューロン)」とほぼ同数の「グリア細胞」というものが存在するのですね。

 

グリア細胞の一種である「アストロサイト」は、脳内環境を整えて神経回路機能を支える役割を担うと考えられていましたが、最近、神経細胞の活動を主導的に制御することが分かってきました。ただし、そのメカニズムの多くは未解明であったのですね。

 

しかしながら、理科学研究所の脳科学総合研究センター 副センター長の合田 裕紀子さんの研究チームは、

「アストロサイト」によるシナプス制御メカニズムに着目し、2016年に「アストロサイト」が、異なるシナプス間の相互作用を制御することを発見していたのです。

 

それなら・・・「アストロサイト」に働きかけることによって、「神経細胞(ニューロン)」と「神経細胞(ニューロン)」の間で、瞬間的に情報伝達される「痛み」をコントロールすることは可能なのではないか?・・・と思ったわけですね。

 

調べてみますと・・・(まだ、途中ですが)面白いことが分かってきました。

 

 

「アストロサイト」の機能が低下すると、痛みの閾値の変化が起こる可能性があるというのですね。

 

「アストロサイト」の機能低下は、次の2つの要因により、痛みの閾値変化に関与します。

 

1)痛みの情報伝達の亢進

 

アストロサイトは、痛みの情報伝達に関与する神経伝達物質の放出を調節します。

「アストロサイト」機能低下により、痛みの情報伝達物質が過剰に放出され、痛みの閾値が低下します。

  • 例:

    • グルタミン酸

    • アセチルコリン

    • BDNF

2) 慢性的な炎症

 

「アストロサイト」は、脳内の炎症を抑制する役割も担っています。

 

「アストロサイト」の低下により、脳内の慢性的な炎症が促進され、痛みの閾値が低下します。

  • 炎症性サイトカイン

    • TNF-α

    • IL-1β

    • IL-6

 

これらのメカニズムにより、「アストロサイト」の機能低下は、慢性的な痛みや神経障害性疼痛などの痛みの閾値変化に関与するというわけですね。

 

まだまだ、勉強が必要であるとは思いますが・・・風が吹いても、激しい痛みがある・・・と表現される「線維筋痛症」の痛みをコントロールする新しい治療に繋がって(つながって)いけばよいな〜と考えています。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>2月20日

先ほどまで窓を開けて、春らしい空気を感じていました。

明日からは、また寒さが戻るそうで、まさに「三寒四温(さんかんしおん)」といったところでしょうか?

 

今回は、神経細胞に影響を与える「アストロサイト」について、お話をさせていただきました。

 

「アストロサイト」は、中枢神経系(脳および脊髄)に存在するグリア細胞の一種であり、神経細胞のサポートや保護、および神経組織の機能維持に重要な役割を果たします。

「アストロ」は、ギリシア語で「星」を、「サイト」はギリシア語で「細胞」という意味に由来します。 
「アストログリア」とも呼ばれ。 「星状膠細胞(せいじょうこうさいぼう) 」という日本語訳もありますね。

「グリア細胞」は、神経細胞の生存や発達機能発現のための脳内環境や脊髄神経の維持と代謝的サポートなどを行っているとされています。

一方、本文でご紹介した「線維筋痛症(せんいきんつうしょう)」は、全身に激しい痛みが生じる疾患となります 。
 

他の自己免疫疾患のように特徴的なデータはなく、CRPなどの炎症を示すデータにも異常がないことから、
その病態がどのようなものか?・・・については、まだ、解明されていません。

風が吹いても、身体(からだ)のあちらこちらが痛い・・・というのは、大袈裟(おおげさ)なことでなく、わずかの外部刺激だけでも、激しい疼痛(とうつう)が出現するとされています。このような状態を「痛みの閾値(いきち)が低下」している状態といいます。

もちろん、神経障害性の疼痛では、神経の損傷や機能不全によって痛みの閾値が下がり、正常な刺激でも痛みを感じるように
なることはあります。ただし、この場合は、線維筋痛症のように痛みに強さが変化することは、あまりないかもしれません。

では、どのような異常が起きていれば・・・「痛みの強さ」が変動するのでしょうか?

視点を「神経細胞」から「アストロサイト」に変えてみると・・・「痛み」は、どうなるでしょうか?

例えば、「アストロサイト」は神経伝達物質の再取り込みや分解に関与しており、この機能が低下すると、
痛みに関連する神経伝達物質(例えばグルタミン酸や物質P)の濃度が異常になり、痛みの感受性が変化する可能性があります。

また、「アストロサイト」は神経細胞を保護する役割も持っています。この「アストロサイト」の機能が低下すると、神経細胞が損傷
しやすくなり、それが痛みの感受性の変化につながる可能性があります。

これまで、「アストロサイト」は、「神経細胞とは異なり電気信号を発生しないため、脳が働くために必要な情報伝達には関わっていない」と考えられ、その重要性が見過ごされてきたそうです。


しかし近年の研究で、「アストロサイト」が神経細胞の活動を直接的かつ積極的に調節するなど、脳が健全に働くために重要な役割をはたすことがわかってきているのですね。

もちろん、「線維筋痛症」が「アストロサイト」の異常によって生じているという証拠は・・・当然、ありません。

では、「アストロサイト」の機能が低下で起こる症状は、「痛みの閾値」の変化以外には、どのようなものがあるのでしょうか?

その一部を見てみますと・・・次のようなことが挙げられます。

1)「アストロサイト」の機能障害は、「神経伝達物質の過剰、または不足」を引き起こし、神経伝達の異常や神経系の興奮性の変化をもたらす可能性があります。

2)神経炎症の促進

「アストロサイト」の機能障害が起こると、制御不能な「炎症反応」が引き起こされ、神経細胞の損傷や死を促進する可能性があります。

「神経伝達物質の過剰、または不足が神経性の興奮をもたらす」や「制御不能な」という言葉は、「線維筋痛症」の病態に矛盾していないように思います。

次に「セロトニン」については、どうでしょうか?
「線維筋痛症」では、何らかの「セロトニン」の産生異常がある可能性が高いとも考えられています。
 

それなので、SSRI(選択式セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が、一定の効果を示すことが多いのですね。

「アストロサイト」の炎症と「セロトニン」の低下には、いくつかの関係が示唆されています。
例えば、以下のようなものがあります。
 

「アストロサイト」は、「セロトニン」を取り込むトランスポーター分子「Slc22a3」を発現しているのが知られており、
神経活動に応じて細胞内の「セロトニン」の量を調節していることが報告されています。

「アストロサイト」の機能低下に伴い、トランスポーター分子「Slc22a3」の機能が低下すると、「アストロサイト」の
GABA分泌が減少し、シナプス活動が変化することが報告されています。

つまり、神経の活動状態が変化する可能性が高いというわけですね。

さらに、「アストロサイト」は、「セロトニン」の合成に必要な「トリプトファン」を神経細胞に供給する役割も担っています。

アストロサイト」の炎症によってトリプトファンの代謝が変化すると、「セロトニン」の合成が阻害される可能性があるというわけですね。

なんとか、「アストロサイト」と「セロトニン」の関係性も矛盾のないストーリーを作ることができましたね。

では、仮にの話ですが・・・本当に「アストロサイト」の機能不全が、「線維筋痛症」の病態を形成しているとすれば・・・


「アストロサイト」の機能異常は、どのような方法で改善すればよいのでしょうか?

実は次のような報告もあるのですね。

 「サーチュイン1」は、「アストロサイト」の炎症応答を調節することが報告されています。

「サーチュイン1」の欠損は、「アストロサイト」の炎症性サイトカインの産生を増加させ、神経炎症を悪化させることを示した報告もあります。

 

その反対に「サーチュイン1」の活性化は、「アストロサイト」の

「NF-κB経路」を抑制し、炎症応答を抑えることで、神経保護作用を発揮すると考えられています。


また、他の論文では、「サーチュイン1」の活性化は、「アストロサイト」のAMPK経路を活性化し、エネルギー代謝を向上させることで、神経機能をサポートすると考えられています。

説明するまでもないのですが・・・

 

「サーチュイン1」とは、7つある「サーチュイン遺伝子」のうちの、「サーチュイン遺伝子1」から作られたタンパク質ですよね。
 

この「サーチュイン遺伝子」を活性化させるのは、「NAD+(ニコチンアミドジヌクレオチド)」でしたよね。


「NAD+(ニコチンアミドジヌクレオチド)」の前駆体が、「NMN(ニコチンアミド・モノ・ヌクレオチド)」ということになるのですが・・・ちょっと、話が、できすぎていますよね。

確かに・・・以前にJTK クリニックで、市販される予定の「NMN」を「線維筋痛症」の方に投与して、疼痛が改善するかをみた治験のようなものを施行した際には、一定の割合の方で良好であったわけですが・・・ね。

 

まだまだ・・・「線維筋痛症」の真の病態の解明には、時間がかかる喪かもしれませんが、「アストロサイト」にも注目していくことで、その時期は早まるかもしれない・・・と考えたりもします。

 

ロシアの小説家Leo Tolstoy(レオ・トルストイ)は、次のような言葉を残したそうです。

 

Spring is the time of plans and projects.

 

春には新しいことが始まったり、

新しい何かが待ち受けていたりする。

 

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1.Science. 2023 Jun 16;380

Induction of astrocytic Slc22a3 regulates sensory processing through histone serotonylation

Debosmita Sardarら

 

2. Proc Natl Acad Sci USA. 2022 Aug 30;119(35)

NAD+ metabolism drives astrocyte proinflammatory reprogramming in central nervous system autoimmunity

Tom Meyerら

 

 

( 筆者撮影)

 

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 理事長、院長  

小笠原  均  (Hitoshi Ogasawara)   

医学博士, 内科医

(総合内科、リウマチ専門医)

新潟大医学部卒

 

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