普段、自分が出入りできるライブハウス、スタジオや練習室にあるピアノはだいたい、以下のようなものだ。
・池袋のバンド用スタジオ 1 ヤマハのグランドピアノ、アップライトピアノ
・池袋のバンド用スタジオ2 ヤマハのグランドピアノ
・駒込のバンド用スタジオ ヤマハのアップライトピアノ
・自宅近くの練習室 アポロピアノのアップライト
・ジロキチ ヤマハのグランドピアノ
・マルディグラ ヤマハのアップライトピアノ
こんな感じで、とにかくヤマハヤマハのオンパレードなのだ。近くの練習室がアポロピアノなのは本当に偶然で、普通に過ごしていたらカワイピアノすら触ることができない。海外のピアノなんてものは、もはや夢のまた夢…どうやったら触ることができるのか、途方に暮れるレベルだ。
おそらくこれは自分がたまたま偶然、狭い世界で生きているからということではなく、クラシックでバリバリ活躍している一部のエリートたちを除いた、一般的なピアノ奏者の現実を反映しているものだと思われる。だからこそ、今回のカシオのチャレンジのように、海外ピアノの高いクオリティのピアノを、もっと気軽に演奏できるようになることは我々にとって必要不可欠であり、望まれるべきことなのだ。
人間というのは、どうやったって自分の生まれた場所、家族、周りの人、高校大学、仕事、現在住んでいるところや練習室、組んでいるバンドや友達のバンド…このような「環境」に大部分を規定されてしまう生き物だ。しかし、近年めざましいスピードで発展するインターネット関連技術やバーチャルリアリティ、シミュレーターの登場は、そうした「規定されていた環境」から我々個人を解き放つ可能性を大いに与えてくれている。つまり、「高いレベルでベヒシュタインをシミュレートしたハイブリッドピアノ」は、「どうせ頑張ってもヤマハしか触れない」環境から我々を連れ出し、引っ張りあげ、未知の素晴らしい音楽体験をもたらしてくれるはずである。それによって得られるものはもちろん体験だけではなく、新しい音楽的なフレーズがもたらされたり、高度なピアノテクニックを生み出すかもしれない。消費者の自己満足を超えて社会的なものに還元されうるのだ。
だからこそ、もっとリアルに、あの素晴らしいベヒシュタインを再現して欲しかった。あれがまだまだ目標とする完成品ではなく、より進化したものが今後も開発され生まれていくことを期待する私であるのだった。