生理痛に対して処方するジエノゲストという薬があるのですが、子宮筋腫がある状態で処方され、その後にくも膜下出血で亡くなられた事で、「子宮が大きい状態でジエノゲストを処方した医師に責任がある」という訴訟を起こされたようです。
定期的に大学病院に通院される中で、くも膜下出血によりお亡くなりになったこと、ご冥福をお祈りいたします。
ジエノゲストそのものは、多くの方が生理痛に対して処方されているので、今回はジエノゲストと出血に関して説明したいと思います。
もう10年以上前になりますが、それまで生理痛に対してピルくらいしか選択肢がなかった中で、ジエノゲストが登場したのは画期的な事でした。
製薬会社さんが病院まで来て説明会をしてくれたのを昨日のように思い出せます。
極めて稀ではありますが、ピルによる副作用としての「血栓症」は、片頭痛や喫煙、40代以上でリスクが高くなる事があり、そういった場合にピル以外の選択がなかったのは、今思えば「よく診療できていたな」と思うくらいです。
ピルにはそのようなリスクがあり、現在ではジエノゲストという薬は非常に重要な治療薬の一つとなっているのですが、怖い副作用の一つとして「大量出血」というのがあります。
特に子宮そのものが大きくなる子宮腺筋症が酷い状態でジエノゲストを始めると、生理2日目くらいの出血が何日も続くことがあります。
ジエノゲストが発売された当初は、まだその辺りの知見も少なく、ジエノゲストによる大量出血で入院して輸血をしていた事も。
その後、閉経状態に持ち込む薬を使って、子宮をできるだけ小さくしてからジエノゲストを使うと大量出血のリスクが減らせる、という治療法が広まっていき、今では輸血が必要になるケースもかなり減りました。
そこで今回の裁判のケースを見てみると、どうやら子宮筋腫に対して、上記で説明したように閉経状態に持ち込む薬を使った後にジエノゲストに変更した様子。
ここまでは、特に違和感を感じない治療方針です。
そして、その後にくも膜下出血を起こされたとのこと。
果たしてジエノゲストによって「くも膜下出血」のリスクは上がるのでしょうか。
現在ジエノゲストを内服されている方は、非常に心配されている事かと思いますが、今までジエノゲストを処方してきた中で、くも膜下出血のリスクが上がる、という話は私は一度も聞いた事がありません。
世界中の論文が集まっているpubmedというサイトで検索しても、「ジエノゲスト くも膜下出血」では1件もヒットしませんでした。
そう考えると、ジエノゲストとくも膜下出血の関係性は、現時点では心配する必要がないと言えます。
実際に裁判が起きているので、患者さんやご遺族と病院の間に何らかのトラブルがあった可能性はありますが、ジエノゲストという薬そのものを「くも膜下出血」のリスクとして懸念する段階ではなく、現在内服されている方は安心してジエノゲストを内服して頂ければと思います。