先日、テストステロンを使っているトランスジェンダーの方にとっての生理についてブログを書きました。




実際の外来では、なかなか診察する機会がないので、もう少し様々なデータを調べてみたいと思います。







まずはこちら。



この論文では、テストステロンを使用しているトランスジェンダーの方の骨盤の痛みについて検証しています。



対象

テストステロンを1年以上使っているトランスジェンダーの方の中で、テストステロン開始時に子宮・卵巣が残っている方。



結果

1年以上テストステロンを使っている280人のうち、100人(36%)がテストステロン使用中に骨盤痛を経験していました。


そのうち、71人(71%)は、テストステロン開始前に骨盤痛を経験したことがありませんでした。



テストステロン開始前に骨盤痛のあったのは42人(15%)で、そのうち13人(31%)はテストステロン開始後に骨盤痛を経験しませんでした。


テストステロン開始年齢の平均は22歳で、平均使用期間は48ヶ月でした。


テストステロン使用中に骨盤痛を経験する人は、テストステロン開始前から骨盤痛を経験している割合が高くなっていました。



また、テストステロン開始前に月経困難症、子宮内膜症、卵巣腫瘍を指摘されていると、テストステロン使用中に骨盤痛を経験する割合が高くなっていました。



また、骨盤痛を経験する人では、生理を抑える薬の使用率が高かったり、使用期間が長い傾向がありました。









こちらの論文でもテストステロンを使用している16歳以上のオーストラリアでのトランスジェンダーの方について調べています。


対象 

平均年齢27歳の486人



結果 

351人(72.2%)がテストステロン使用中に骨盤痛を経験しており、「恥骨より上のズキズキするような痛み」が最も多くなっていました。


具体的な痛みの位置としては、下の図のような分布でした。






テストステロンの平均使用期間は32ヶ月で、骨盤痛を経験するリスク因子としては、


・生理が続いていること

・PTSD

・オーガズム時の痛み


が挙げられました。



一方で、


・外陰部の乾燥

・ミレーナの使用

・妊娠経験

・性交経験

・子宮内膜症

・慢性的な外陰部痛

・鬱

・不安

・肥満


は骨盤痛との関係性が認められませんでした。




以上が、テストステロン使用中の骨盤痛に関するデータとなります。



論文によって、骨盤痛を経験する割合が3割〜7割とかなり幅があるのですが、決して珍しくない症状というのは確かなようですね。



婦人科としては、子宮内膜症など生理痛が強いと、骨盤痛にも繋がる印象なのですが、これも論文によっては関係がないとするものもあり、なかなか解釈が難しい状況ではあります。



更なる検証が必要な分野ですので、またデータが出てきたらご紹介したいと思います。