美容外科の分野では、筋肉に注射することで筋肉を小さくするボトックス注射というものがあります。



エラの部分に注射して小顔になったり、眉間や目尻の筋肉に注射してシワを消したりと、非常に効果が高い薬剤なのですが、子宮本体も筋肉の塊、、、


ひょっとして、子宮の筋肉が厚くなって、生理痛や過多月経の原因となっている「子宮腺筋症」にもボトックスが効くのではないか、、、ということで調べた結果、その効果を検証した論文がありました。


これらは、MRIにて所見を認めていない方達が対象のため、子宮腺筋症がない状況ですが、それでも過度に子宮の筋肉が収縮することで痛みが強くなっているという想定の元、子宮にボトックス注射を行っています。





この論文では、重度の月経困難症、性交痛、慢性骨盤痛に対してボトックス注射をする事で、痛みのレベルや生活の質がどの程度変化するかを検証しています。



対象

ピルや鎮痛剤など従来の治療では効果がなく、MRIや内視鏡で所見を認めない重度の月経困難症がある30人。


子宮鏡にて、子宮の前壁・後壁にボトックスを200単位注射し、8週間後、12週間後、6ヶ月後に評価しました。



結果

8〜12週間後の月経困難症スコア

 注射前: 80

 注射後: 25


性交痛スコア

 注射前: 71

 注射後: 28


生理以外での骨盤痛

 注射前: 67

 注射後: 28


副作用は非常に少なく、2人(6.7%)が注射直後の短期間に痛みが酷くなりましたが、8週間後には明らかに軽快していました。



ボトックス注射の6ヶ月後、12人(40%)は痛みが再発して再度ボトックス注射を受けましたが、14人(47%)は痛みの改善が続いており、新たな注射を必要としませんでした。



4人は痛みの改善が不十分でしたが、再度のボトックス注射を希望しませんでした。






そして、この論文のその後をフォローしたものがこちら。





対象

ボトックス注射を受ける1年前の従来の治療を受けている時と、ボトックス注射を受けた1年後の比較をしました。



結果

ボトックス注射前後の痛みの強さ

 注射前: 80.55

 注射後: 31.6 


性交痛を訴える割合

 注射前: 75%(15人)

 注射後: 15%(3人)


生理痛を訴える割合も明らかに少なくなっていました。



また、海外での費用面の比較ではありますが、


ボトックス注射: 714±336ユーロ

従来の治療: 1104±227ユーロ


と、一人当たり389ユーロ安く済んでいました。



このように従来の治療法による効果が不十分な場合には、ボトックス注射による治療効果が期待できる、と言えそうです。



実際に日本の治療では、ピルやディナゲスト、ミレーナが選択肢になります。



大きな子宮腺筋症に対して最初からディナゲストを使うと副作用で大量出血したり、ミレーナは自然に脱落する事があり、最初にGnRHという薬で閉経状態に持ち込んでから、ディナゲスト・ミレーナに移行する事もあります。



こういった治療法が保険適応で出来る選択肢になるのですが、もしそれでも痛みの改善が不十分な場合には、自費治療にて子宮にボトックスを注射するのも選択肢になるかもしれません。




ちなみに、この論文自体が非常に新しく、日本国内で対応している病院は、調べた範囲内ではまだないようです。



美容外科で使っているボトックス注射200単位の値段を調べてみると10万円以上、ここに子宮鏡という非常に高価な医療機器を使うことを考えると、1回あたりの治療が15万以上になるかも知れません。。。




ピルやディナゲスト、ミレーナ、GnRHでも痛みのコントロールがつかない方がたくさんおられるようなら、当院で導入しても良いかなとは思うのですが、いかがでしょうか。