先日、卵巣年齢と妊娠に関するブログを書きました。
卵巣年齢と言われるAMHというホルモンは、卵巣の中に残っている卵子の数を推測する時に使われ、その数値が低すぎると、残されている卵子の数が少ない=妊活できる時間が短い可能性が出てきます。
AMHは「妊娠しやすさ」ではなく「妊娠トライできる時間」を表す目安になるのですが、今回はこのAMHと多発性硬化症という病気の関係について見ていきたいと思います。
多発性硬化症とは
中枢神経系(脳、脊髄)を攻撃する自己免疫疾患の一種です。この病気は、免疫系が誤って自分自身の神経系の組織を攻撃し、炎症や脱髄(神経の隔壁であるミエリン鞘の破壊)を引き起こすことによって、神経系に損傷を与えます。
多発性硬化症は、初期症状として視覚異常、感覚異常、筋力低下、疲れやすさ、認知機能障害などが現れることがあります。進行すると、症状が進行し、歩行困難、筋肉痙攣、痙性排尿などの重篤な症状が現れることがあります。
この病気は、主に若い女性に発症することが多く、原因は不明ですが、遺伝的要因や環境要因、ウイルス感染などが関与していると考えられています
この論文では、多発性硬化症と診断されている女性と、健康な女性のAMH、FSH、卵巣の大きさを比較しています。
(FSH: 卵巣を刺激するために頭から出ているホルモンで、卵巣の機能が落ちると、より刺激を強くするために、FSHの値が高くなります。)
多発性硬化症の方では、AMHやFSH、卵巣の大きさが健康な人と変わりありませんでした。
一方で、超音波検査で測る卵巣の中の卵胞の数やエストラジオール(卵巣から出る女性ホルモン)の値は明らかに低く、LH(FSHと同様に卵巣に作用する頭から出ているホルモンです)の値は明らかに高くなっていました。
以上のことから多発性硬化症があると、様々なホルモンの数値が影響を受けることがわかります。
では、実際に多発性硬化症と妊娠の関係はどうなっているのかというと、こちらの論文で調べられています。
こちらの論文では、18〜55歳の多発性硬化症と診断された96,937人と、診断されていない96,937人を比較しています。
生児出生率: 5.0% vs 7.0%
と、多発性硬化症の診断にてやや低い数字となっていました。
不妊症と診断された割合: 8.5% vs 8.1%
不妊治療を受ける割合: 1.0% vs 1.2%
不妊治療の種類別による生児出生率
経口治療薬: 32.2% vs 31.5%
注射治療薬: 44.0% vs 49.3%
以上のように、全体としては多発性硬化症にてやや生児出生率が低いものの、不妊治療を受けた結果にはそれほど影響がないと言えそうですね。