先日、妊娠中におすすめのワクチンとして、百日咳に関するブログを書きました。
そこで、今回は百日咳のワクチンを妊娠中に接種した場合の安全性について見ていきたいと思います。
対象
イギリスで妊娠後半に百日咳のワクチンを接種した、平均年齢30歳の妊婦さん20,074人
結果
ワクチン接種群と非接種群を比較して、妊娠24週以降の死産、母体・新生児死亡、妊娠高血圧腎症、産後大量出血、胎児ジストレス(赤ちゃんが苦しくなる事)、子宮破裂、前置胎盤、帝王切開、低出生体重児など、妊娠に関わる重篤な合併症が起きる確率は何も変化ありませんでした。
こちらの論文では、百日咳、ジフテリア、破傷風の3つに対するワクチンであるTdapについて評価しています。
対象
ニュージーランドで妊娠28〜38週にTdapワクチンを接種した8,178人の妊婦さん
結果
ワクチン接種によって、「早産」「妊娠高血圧腎症」「妊娠高血圧」「胎児発育不全」「出産時の大量出血」のリスクは増えませんでした。
また、「妊娠糖尿病」「癒着胎盤」「胎児ジストレス:赤ちゃんが苦しくなる状況」「絨毛羊膜炎: 妊娠中の子宮内感染」「出産前後の母体発熱」といったリスクも増加していませんでした。
一方で「授乳障害」のリスクは増加していました。これに関しては、詳しいデータが確認できないため、詳細が不明なのですが、母乳の量が少なくなるなど、授乳に関するリスクが増えることが考えられました。
こちらは、2021年までに発表されている19件の論文をまとめて検証したものになります。
その結果としては、百日咳のワクチン接種によって、絨毛羊膜炎のリスクが1.27倍になっているものの、流産や死産のリスクは増えていませんでした。
この論文での検証では絨毛羊膜炎のリスクがやや上がっていましたが、結論として確定的な段階ではなく、更なる検証が必要である、と締めくくられています。
ここまでが、現時点でわかっている「妊娠中の百日咳ワクチン接種」によるリスクについてです。
生まれてくる赤ちゃんを百日咳から守る効果は比較的はっきりしている中で、妊娠中の絨毛羊膜炎のリスクが上がる可能性をどう考えるか、というのが難しいところではあります。
実際、百日咳は毎年1万人ほどが感染していたものの、おそらくコロナ対策のおかげで、ここ数年は年間700人前後には減っています。
その感染対策がこれから変わっていく中で、百日咳の患者数も増えることが予想され、妊娠中の百日咳ワクチンの重要性が増してくるのではないでしょうか。
絨毛羊膜炎に関しては、なかなかクリニックレベルで治療することも難しく、分娩施設で対応してもらう形にはなるので、妊娠中の百日咳ワクチンに関しても、一度分娩先で相談してもらってもいいかもしれませんね。