無痛分娩の時に背中から麻酔のための管を入れる方法を
硬膜外麻酔
と呼ぶのですが、今回はこの硬膜外麻酔と、生まれた子供の自閉症やADHDとの関係について説明したいと思います。
この関係性については、いくつかの論文があるため、一つずつ見ていきます。
【対象】
カリフォルニアで2008〜2015年に経腟分娩で生まれた147,895人の子供。
74,452人(50.3%)は男児
平均出産週数は38.9週
109,719人(74.2%)は無痛分娩
【結果】
自閉症と診断されたのは、
硬膜外麻酔群: 2,039人(1.9%)
無麻酔群: 485人(1.3%)
それぞれの群で母体年齢、BMI、出産歴、人種、教育レベル、収入、喫煙歴、合併症などを揃えて比較すると、硬膜外麻酔群の方が1.37倍ほどリスクが高くなっていました。
硬膜外麻酔の継続時間別では
4時間未満: 1.33倍
4〜8時間: 1.35倍
8時間以上: 1.46倍
母体年齢などの背景を揃えて比較すると、硬膜外麻酔が4時間伸びるごとに1.05倍だけリスクが上がっていました。
分娩中に発熱が認められたのは、硬膜外麻酔群: 13055人(11.9%)、無麻酔群: 38,176人のうち510人(1.3%)でしたが、発熱の有無でリスクは変わりませんでした。
この論文では、硬膜外麻酔を使用することで、自閉症のリスクがやや上がり、その継続時間が長いほど、リスクも上がるだろう、と言う結論になっています。
【対象】
2000〜2014年にかけて、カナダで生まれた388,254人の子供。
49.8%が女児
平均出産週数は39.2週
平均追跡期間は9.05年
【結果】
5,192人(1.34%)が自閉症と診断され、その内訳を見てみると、
硬膜外麻酔群: 111,480人のうち1,710人(1.53%)
無麻酔群: 276,774人のうち3,482人(1.26%)
硬膜外麻酔による自閉症のリスクは1.32倍となり、様々な妊婦さんの背景を調整した場合には1.09倍と、リスクはわずかなものになりました。
論文の結論としては、その他にも様々な要因が関連している可能性があり、硬膜外麻酔によって自閉症のリスクが増えるとは断定できない、という結論になっています。
【対象】
フィンランド(1987〜2005年生まれ)、ノルウェー(1999〜2015年生まれ)、スウェーデン(1987〜2011年生まれ)の4,498,462人の子供。
平均して13.6〜16.8歳までフォローしました。
4,498,462人(48.7%が女児)のうち、1,091,846人が硬膜外麻酔を使用して生まれていました。
【結果】
1.2%が自閉症、4.0%がADHDと診断されました。
硬膜外麻酔の使用は、自閉症が1.12倍、ADHDが1.2倍のリスクがありました。
しかし、硬膜下麻酔を使わずに生まれた兄弟姉妹でも、自閉症やADHDは同様の確率で診断されてました。
以上のことから、出産時の硬膜外麻酔は、自閉症やADHDのリスクにはならないだろう、という事が言えます。
結論として、出産時の硬膜外麻酔と自閉症・ADHDの関係については、「関係がある」と「関係がない」の両方の論文があることになります。
最後にご紹介した論文では、対象が400万人以上とかなり大規模であることや、社会的な背景が比較的同じになる兄弟姉妹を比較していることから、どちらかというと硬膜外麻酔と自閉症・ADHDの関係は低いと思ってもらっていいのではないでしょうか。