妊娠週数が進むにつれて、特に何も皮膚の変化はないのに皮膚が痒くなる「妊娠性掻痒(そうよう)」という状態があります。



保湿したら痒み止めを飲んだりして対応し、産後には自然と改善していくのですが、今回は同じように皮膚が痒くなる病気として、




妊娠性肝臓内胆汁うっ滞




という病気について説明したいと思います。



これは、肝臓の細胞の中に胆汁という液体が溜まってしまうことで、血液の中に「胆汁酸」という成分が増えてしまい、それが原因で皮膚が痒くなったり、黄疸:皮膚が黄色くなる状態 が現れたりする病気です。



皮膚が痒くなる事そのものは良くあるのですが、黄疸まで出ることは稀で、私自身も今まで一度も診たことかありません、、、



そこで、今回はこの「妊娠性肝臓内胆汁うっ滞」が妊娠に与える影響について見ていきたいと思います。






妊娠性肝臓内胆汁うっ滞は、胎児不整脈から死産につながるリスクが指摘されており、これは胆汁うっ滞の酷さを表す血中胆汁酸のレベルに関係していると言われています。



そこで、この論文では他の妊娠経過について、胆汁酸の濃度がどのように関係しているか調べています。



対象となったのは、2005〜2019年に妊娠性肝臓内胆汁うっ滞と診断された1,202人です。




胆汁酸の血中濃度別では、



軽症(10〜19μmol/L): 306人


軽度中等症(20〜39μmol/L): 449人


高度中等症(40〜99μmol/L): 327人


重症(100μmol/L以上): 120人 



でした。




様々な妊娠経過に関するリスクを、軽症を基準に比較検証すると、


・自然早産


軽度中等症: 1.60倍

高度中等症: 3.49倍

重症: 6.58倍 



・医学的早産

妊婦さんや赤ちゃんの様子から妊娠継続が困難と判断し、陣痛促進剤を使ったり、帝王切開をして早産とする事。


軽度中等症: 1.54倍

高度中等症: 3.11倍

重症: 4.94倍 



・羊水混濁

羊水が赤ちゃんの胎便で濁る状況で、出産予定日を過ぎると自然に増えてくる状態です。この羊水を出産時に赤ちゃんが吸い込んでしまう事で、赤ちゃんの呼吸状態が悪くなる事もあります。


軽度中等症: 1.33倍

高度中等症: 2.63倍

重症: 3.91倍


と胆汁酸の濃度が高くなるにつれて、それぞれのリスクも高くなっていました。



それ以外の出産に関わるリスクと胆汁酸の濃度には関係が認められませんでした。



以上から、胆汁うっ滞の程度がひどくなるほど、早産や羊水混濁のリスクが高くなる、という事が伺えます。




実際には、妊娠中の皮膚の痒さが胆汁うっ滞から来る事は非常に珍しいのですが、もし黄疸: 皮膚の黄色さ が気になるな、と思ったら、一度かかりつけで相談して見てくださいね。