産後に尿失禁が続いたり、将来的には子宮の位置が下がってくる「子宮脱」という状態になる事があります。



そこで、今回は帝王切開や経腟分娩といった出産方法と、尿失禁・子宮脱との関係についての論文を見ていきたいと思います。







多くの論文では産後の尿失禁や子宮脱について、自己申告での評価をしていますが、この論文では、尿失禁・子宮脱について手術が必要になった方を対象に検証しています。



対象となったのは、2010〜2017年に尿失禁・子宮脱の手術を受けた45歳以上の女性です。


尿失禁の手術は20,488人、子宮脱の手術は39,617人が受けていました。




子宮脱の手術を受けた人のうち、97.8%は経腟分娩が1回以上、0.4%は帝王切開だけを1回以上、1.9%が出産経験のない人でした。



尿失禁の手術を受けた人では、93.1%は経腟分娩が1回以上、2.6%は帝王切開だけを1回以上、4.3%が出産経験のない人でした。



出産方法別に子宮脱・尿失禁の手術リスクを見てみると、



子宮脱の手術リスク

 経腟分娩: 1.23倍

 出産経験なし: 0.14倍

 帝王切開: 0.055倍


尿失禁の手術リスク

 経腟分娩: 1.17倍

 出産経験なし: 0.31倍

 帝王切開: 0.40倍


となっていました。



具体的な人数としては、


子宮脱の手術

 帝王切開: 1000人あたり0.09人

 経腟分娩: 1000人あたり23人


となっており、経腟分娩後の出産回数が多いほど、子宮脱の手術リスクは増加していました。

(帝王切開では、その傾向はありませんでした)



経腟分娩が1回あると、子宮脱の手術リスクが6倍、尿失禁の手術リスクが3倍となり、2回目の経腟分娩で子宮脱の手術リスクが1.3倍、尿失禁の手術リスクが1.1倍となっていました。



以上のことから、経腟分娩は将来的な子宮脱や尿失禁のリスクになり得る、という事が言えそうです。




産婦人科として、経腟分娩も帝王切開も立派なお産であり、どちらが優れている、というものでもありませんが、中には経腟分娩の方が優れているような事を面と向かって言ってくるような方がいたりします。



そんな心無い事を言われた時には、心の中で「帝王切開の方が将来の尿失禁や子宮脱のリスクが低いんだ」と思ってもらえたら、少しは気が楽になるのではないでしょうか。