産婦人科医として一つの大きな目標に「早産」を減らすことがあります。



早産で生まれてくると、赤ちゃんが未熟であるために様々な合併症が起きうるため、出来るだけお母さんのお腹の中にいる週数を伸ばす事が大事になるのですが、中でも「肺の成熟」は非常に大切な要素です。





そこで、肺がまだ成熟していない段階で赤ちゃんが産まれそうになった時、妊婦さんにステロイドを注射して、肺の成熟を促す治療が選ばれる事があります。



ただ、ステロイドを注射したとしても、実際には早産にならずに、正期産となることも非常に多いのが実情です。




そこで、そのような早産に対するステロイド注射と、赤ちゃんの長期的予後に関する論文を見ていきたいと思います。






この論文では、早産の恐れがありステロイドを注射したものの正期産で生まれた赤ちゃんと、早産の恐れがあるもののステロイドは注射せずに正期産となった赤ちゃんの5歳時点での発達を評価しています。



正期産で生まれた合計3,556人の赤ちゃんのうち、629人(17.6%)はステロイド接種群、2,927人はステロイド非接種群です。ステロイド接種群の方は、糖尿病や高血圧のある妊婦さんが多くなっていました。



実際に生まれた赤ちゃんの予後を比較すると、ステロイド接種群と非接種群では、


・気管支喘息: 12.6% vs. 11.6%


と、ほぼ差がなく、注意欠陥障害や発達障害にも差はありませんでした。



一方で、ステロイド接種群では、子供の体重が下位10%未満となるリスクが2.0倍と、やや高くなっていました。




以上のことから、切迫早産のためにステロイドを注射して、最終的には正期産で生まれた場合には、5歳の時点でやや体重が軽いものの、発達に関するリスクは考えなくてもよい、と言えそうです。



妊娠中から確実に早産になる可能性を判断できればいいのですが、なかなかそれは難しく、早産になる場合に備えて、念のためステロイドを注射しておく、というのは良くあることではあります。



その後に早産となればステロイドの意味もあるのですが、正期産まで妊娠継続できた場合に、ステロイドがマイナスに働くような事があると、ステロイド接種の判断が非常に難しくなるのですが、今回の論文を読む限りは、あまり長期的なデメリットを考えなくてもよさそうですね。


実際に切迫早産で入院されると、ステロイド接種の治療方針を提案される事もあるかと思いますので、そういった時には参考にしもらえらば、と思います。