サイトメガロウィルスというのを聞いた事はあるでしょうか。

これは、風疹やトキソプラズマのように、妊娠中に妊婦さんが感染すると赤ちゃんに影響が出る可能性のあるウィルスです。

成人女性の7割近くはすでに感染していると言われており、残りの3割の女性がもしも妊娠中に感染してしまうと、流産や脳・聴力に障害が出る原因になる事があります。

風疹や麻疹と違って、サイトメガロウィルスにはワクチンがないため、感染予防を心がける事が大切になってきます。

主な感染経路は、上のお子さんなど周囲にいる小さいお子さんからの感染が挙げられます。
そういった子供たちの尿や唾液にウィルスがいるため、手洗いを心がけ、食べ残しを食べない、などの注意が必要になります。

具体的な注意内容はこちらをご覧ください。



そこで、今回ご紹介したいのは、予防ではなく治療に関する情報です。

以前まで、サイトメガロウィルスにはこれといった治療法が見つかっておらず、予防に心がけるしかないのが現状でした。

治療法がないので妊娠中に検査する項目にも入っていない事が多かったのですが、治療効果が期待できる薬の論文を見つけたのでご紹介したいと思います。


こちらの論文は、2020年9月12日に発表されたランセットという世界的に有名な医学雑誌に掲載されたものなので、最新の情報となります。



サイトメガロウィルスが妊婦さんから胎児へ感染するのを予防するために使われた薬は「バラシクロビル」という薬です。


一般的には、ヘルペスの治療の際に使う薬なんですが、サイトメガロウィルス自体がヘルペスウィルスの5型であるため、同じようにバラシクロビルが選ばれています。


対象となったのは、妊娠成立前後、もしくは妊娠初期に血液検査にてサイトメガロウィルス感染と診断された18歳以上の妊婦さんです。

一方のグループには、1日8gのバラシクロビルを内服してもらい、もう一方にはプラセボ(何の治療効果もない粒)を内服してもらいました。それを妊娠21〜22週頃まで続け、その時点で羊水検査をしてサイトメガロウィルスの感染がないか確認しました。


バラシクロビル群には45人(全員が単胎妊娠)、プラセボ群には45人(43人が単胎妊娠、2人が双胎妊娠)が選ばれました。


その結果、バラシクロビル群では、5人(11%)に羊水検査でサイトメガロウィルスが認められたのに対し、プラセボ群では14人(30%)に認められました。


妊娠初期の感染に限って調べると、バラシクロビル群では11%(19人中2人)が羊水検査でサイトメガロウィルスが認められたのに対し、プラセボ群では48%(23人中11人)に認められました。

明らかな副作用は認められませんでした。

このように、バラシクロビルを妊娠中に内服する事で、羊水中にサイトメガロウィルスが出てくる確率を下げる事ができ、その結果として胎児への感染も予防できる可能性があります。


今まで予防中心だったサイトメガロウィルスに対して、治療効果が期待できる薬は大変画期的な事です。是非とも多くの研究が進み、確固たる治療法として確立して頂きたいですね。