血栓症というのは、血管の中に血の塊ができてしまって、大事な臓器がダメージを受けてしまう状態です。

有名な病気としては心筋梗塞や脳梗塞などがありますが、エコノミークラス症候群というのも、同じ血栓症が原因となっています。

また、生理痛や避妊のために使うピルにも血栓症の副作用があるのですが、その他にも「妊娠」そのものが血栓症のリスクになります。


そこで、今回は妊娠中の血栓症に関する論文をご紹介したいと思います。

まず、血栓症の症状として激しい頭痛や胸痛、片脚だけむくみがひどい、などが挙げられるのですが、それほどひどい症状が出ない場合もあります。

そんな時は血液検査で「Dダイマー」という項目を調べます。

これは、血栓症があると高くなる項目なんですが、残念なことに血栓症がなくても高くなることがあり、また妊娠中には自然と高くなる項目でもあります。

そのため、Dダイマーが高いから血栓症がある、という検査ではなく、Dダイマーが高くないので血栓症は無さそうだ、という使い方をすることになります。


そこで、今回は少し専門的になりますが、妊娠中のDダイマーの具体的な数値に注目した論文をご紹介したいと思います。





その結果、Dダイマーの平均値は、妊娠していない女性で0.265μg/ml(0.799未満)だったのに対し、妊娠初期では0.481μg/ml(1.070未満)、妊娠中期では1.073μg/ml(0.357〜1.748)、妊娠後期では1.533μg/ml(0.771〜2.410)となっていました。


妊娠中は普段より数値が高くなることがわかります。また、妊娠週数が進むにつれて高くなっていく様子もうかがえます。


https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26223147/


こちらの論文では、ナイジェリアにおける妊婦さんのDダイマーを検討しています。

対象となったのは、7妊娠していない健康な女性71人、妊娠初期(〜妊娠13週)の64人、妊娠中期(妊娠14週〜26週)の65人、妊娠後期(妊娠27週以降)の82人です。

その結果、Dダイマーの平均値は、妊娠していない女性で0.19μg/ml(0.086〜0.494)、妊娠初期で0.485μg/ml(0.338〜0.624)、妊娠中期で0.620μg/ml(0.451〜0.799)、妊娠後期で1.185μg/ml(0.665〜1.262)でした。


https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25060670/



こちらの論文では、416人の妊婦さんと、32人の妊娠していない女性を比較しています。

123人が妊娠初期(妊娠5〜11週)、164人が妊娠中期(妊娠13〜20週)、126人が妊娠後期(妊娠25〜35週)でした。

妊娠していない時は、Dダイマーの基準値が0.50μg/ml以下となるのですが、その基準で調べると、妊娠中期では4.8%、妊娠後期では23.8%が基準値を超えていました。


それぞれのDダイマーの値を調べると、妊娠初期では0.11〜0.40μg/ml、妊娠中期では0.14〜0.75μg/ml、妊娠後期では0.16〜1.3μg/mlとなりました。



以上のように、妊娠していない時のDダイマーと比べて、妊娠時は基準値が変わってくることがわかります。特に妊娠週数が進むにつれて、少しずつ基準値は高くなると言えそうです。


妊娠している時の血栓症の検査は、Dダイマーだと正確な評価ができない、というイメージでしたが、これらの論文の数値を踏まえて、ある程度はDダイマーで評価できそうですね。


今回は妊婦さん向けのブログではありませんでしたが、妊娠中はそれだけで血栓症のリスクが高くなる事もあり、血栓症の診断についてまとめてみました。


妊婦さん自身はむくみやトイレが近くなることから、水分を摂る量を減らしたくなるかも知れませんが、水分量が少なくなると、それだけでも血栓症のリスクになるため、しっかり水分を摂るようにして下さいね。