インフルエンザの季節がやってきました。地域によっては既にインフルエンザが流行っている所もあるようです。
そこで今回はインフルエンザワクチンと妊娠に関してまとめてみたいと思います。
まず最初に「ワクチンを打ったのにインフルエンザに感染して高熱が出たから、ワクチンは意味がない」という感想について。
そもそもワクチンは100%感染予防できるものではありません。また、高熱が出ないようにするものではなく、肺炎など入院が必要になる重症化の確率を下げるものです。
そのため、ワクチンを打ったとしても、39度、40度の熱が出てもおかしくはありません。ワクチンを打っても、高熱が出る人はいるので、それだけをもってワクチンは無効だとは言えないのです。
では、実際にインフルエンザと妊娠に関する論文をいくつかご紹介したいと思います。
妊娠中のインフルエンザ感染
インフルエンザは出産前後に感染すると肺炎になるなど重症化しやすいと言われています。
例えばこちらの論文
Impact of influenza exposure on rates of hospital admissions and physician visits because of respiratory illness among pregnant women
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1800555/こちらの論文では、1990年から2002年にかけてカナダのノバスコシア州における134188人の妊婦さんの調査をしています。
その結果、510名(0.4%)が呼吸器疾患にて入院し、33775名(22.5%)が同じ理由で受診をしています。
そして、インフルエンザシーズンで比較すると、何らかの病気を持っている方は、妊娠前に比べて妊娠中は入院率が7.9倍、何も病気を持っていない方でも、妊娠前に比べて妊娠中は5.1倍の入院率となっていました。
また、何も病気を持っていない妊婦さんはインフルエンザシーズンに1万人・1か月あたり7.4人が入院していましたが、インフルエンザシーズンでなければ、入院数は1万人・1か月あたり3.1人でした。
何らかの病気がある方では、インフルエンザシーズンでは入院数が1万人・1か月あたり44.9人、インフルエンザシーズンでなければ、入院数は1万人・1か月あたり18.9人でした。
以上の事から、何らかの病気がある妊婦さんはインフルエンザに感染した時のリスクはかなり高く、何も病気がない方でも、妊娠中にインフルエンザに感染することは避けた方がいいことがわかります。
インフルエンザワクチンの効果
妊娠中のワクチン接種による効果についてもいくつかの論文があります。
まずはこちら。
Effectiveness of maternal influenza immunization in mothers and infants.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0708630
こちらの論文では、2004年から2005年にかけてのインフルエンザシーズンに、バングラデシュの妊婦さん340名を、インフルエンザワクチンを接種する群と、肺炎球菌ワクチンを接種する群に分けて比較し、産後6カ月まで調査しました。
その結果、インフルエンザワクチンを受けたお母さんから生まれた赤ちゃんでは、6人がインフルエンザに感染し、肺炎球菌ワクチンを受けた群では、16人がインフルエンザに感染していました。インフルエンザワクチンによって、インフルエンザ感染率が63%減少したと言えます。
また、発熱を伴う呼吸器疾患は、インフルエンザワクチンを受けた群では110人だったのに対し、肺炎球菌ワクチンを受けた群では153人でした。インフルエンザワクチンによって、感染率が29%下がったと言えます。
お母さんに関しても、インフルエンザワクチンを受けることで、発熱を伴う呼吸器疾患の感染率は36%下がっていました。
次に妊娠中のワクチンによって赤ちゃんへの予防効果があったという論文です。
Maternal influenza vaccination and effect on influenza virus infection in young infants.
https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/384298
こちらでは、アメリカのナバホ族とホワイトマウンテンアパッチ族というインディアン居留地において、3年間のインフルエンザシーズンに1回出産した1169人の妊婦さんを対象に調査しています。
その結果、赤ちゃんでは193人(17%)がインフルエンザのような病気で入院し、412人(36%)がインフルエンザのよな病気で外来受診しており、555人(48%)はそのような病気になりませんでした。
ワクチン接種の有無によって評価したところ、インフルエンザのような病気に関しては、ワクチン接種群:7.2人/1000人、ワクチン非接種群:6.7人と、大きな違いはありませんでした。
しかし、血液検査をしてインフルエンザと確定診断がついたものに関して比較すると、ワクチンによってインフルエンザに感染する子供は41%減少し、入院のリスクも39%減少していました。
以上から、お母さんがインフルエンザワクチンを接種することで、生まれてくる赤ちゃんの感染リスクを大きく下げられることがわかります。
インフルエンザワクチンの安全性
次に、妊娠中のワクチン接種についてです。
Effect of influenza vaccination in the first trimester of pregnancy.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/22914461/
こちらの論文では、アメリカのテキサス州において、5年間に10255人の妊婦さんがインフルエンザワクチンを接種し、出産や赤ちゃんに対する影響を調べています。
ワクチンを受けた時期は、妊娠16週までが439人、それ以降が8251人でした。
その結果、ワクチンをどの時期に受けたとしても、赤ちゃんの大きな奇形の確率は変わりませんでした。
また、死産・新生児死亡・早産に関しては、ワクチンを受けた方が確率が低い結果となりました。
Trivalent Inactivated Influenza Vaccine and Spontaneous Abortion
https://insights.ovid.com/article/00006250-201301000-00024
また、こちらの論文では、アメリカのウィスコンシン州で、自然流産した243人と流産しなかった妊婦さん243人を比較しています。自然流産した平均週数は妊娠7.8週でした。
その結果、28日以内にワクチンを接種した人数は、自然流産した群で16人(7%)であり、流産しなかった群では15人(6%)と、両方に違いはありませんでした。
以上の事から、妊娠初期にワクチンを接種したとしても、流産の確率が上がったり、奇形の確率が上がる心配はいらないと言えます。
ワクチンの効果や安全性についていくつか論文をご紹介しました。
妊娠中のインフルエンザワクチンに関しては、多くの論文で効果・安全性が示されているため、これからインフルエンザが流行る季節に備えて、ワクチン接種されることをお勧めします。