病院のベッドで、私は仰向けで斜めに寝かされました。

頭を低く、足を高く、真っ直ぐに斜めです。

 

原始的ですが、

羊水が引力で、これ以上出てしまわないように、逆さまにしているのです。

診察をした後、医師は私に淡々と
「破水してるね。このまま赤ちゃんは亡くなってしまうから。」

「たぶん」「ひょっとしたら」「おそらく」などという言葉を使わず、
私に「赤ちゃんは、死んでしまうから」と、アッサリと言うのです。
あっけない言葉には、真実を伝え、この母親に覚悟をさせたほうが悲しみが少なくて済むだろう・・・という優しい配慮だったのだと思います。

私は泣いて、ハイハイと答えるのがやっとでした。


まだ妊娠初期だというのに破水してしまった。
赤ちゃんは死ぬ。
大変なことをしてしまった。


ナースさんは、私のベッドを移動させながら
「今、空いてる部屋が無いから、ここで我慢してね。エアコンが無いから寒いけどゴメンネ」
掃除道具や資料が積んである、倉庫代わりのような部屋に私は置かれました。
天井には薄暗い蛍光灯。
私の他に誰もいません。


日本でも有名で大きい大学病院。
ベテラン先生や若い先生がたが、私の倉庫部屋に
数分の間に1人づつ、5~6人くらい入れ替わり立ち替わり入って来ました。

代わる代わる来ては、お腹を触りながら
「こういうことはよくある。だいたいこのまま亡くなってしまう」
「赤ちゃんは、しばらくすると死んでしまうから。」
「今は、心音聞こえるけど、しばらくしたら止まってしまうから・・・」
「心音が聞こえなくなったら亡くなっている」
「亡くなったらどうする?出す?それとも吸収されるのを待つ?」
「まだ若いから、次があるから」
「赤ちゃんの袋が破れてお水が出ちゃったね。逆さまにしているから今は出てないけど、立つと出ちゃうかもしてないから、逆さまのままで我慢してね」
「頭に血が上っちゃうね」
「羊水がどれくらい出ちゃってるのか分からない。羊水はまだ残ってるのかもしれないけど、それは見れないから」
「羊水が少なかったら赤ちゃんは生きていけない」
「このまま羊水が出なかったら、羊水はまた自然に貯まっていく」
「バイ菌が入っていたら熱が出る。赤ちゃんは死んでしまう」


可能性の薄いものを「大丈夫!頑張ろう!」とは言いません。
赤ちゃんが亡くなった時に私が冷静に受け入れられるように、
静かに、優しく、分かりやすい言葉で、
しかし、私に覚悟させるように
先生がたは私にハッキリと伝えてくれているのです。



この赤ちゃんは、明日には死んでいくんだよ。それを覚悟しようね。
と理解しました。



Sちゃんママは、一旦家へ戻り、ご主人とSちゃんと息子の晩御飯を出し、
また戻ってきてくれました。
「タクちゃん(息子)は大丈夫だから。ダンナが見てくれてる。泣いてないよ!
ダンナが高い高いしたら、タクちゃんが『もっともっと』と言うから、ダンナが『何度も何度も、重たいのに大変だーーー笑ー』って言ってたよ」
と、息子は大丈夫だと笑顔で私に伝えてくれます。

ありがとう!

「タクちゃんは今日はうちに泊めるから。任せて!大丈夫!もうすぐご主人が来るよ。連絡取れたから。今こっちに向かっている。」
と言って、帰っていきました。

ありがとう!



ひとりになった倉庫部屋の天井を見ながら考えました。

先生がたがの言葉をグルグルと思い出して考えました。

私の股には、羊水を吸い取るためにバスタオルがあてがわれている。
どうやらビシャビシャと、どんどん出ている感覚は無い。
流水は止まっているようだが、それは逆さまにしているから?
立ったらパシャッと出てしまうの??

羊水が止まって、熱が出なかったら、
少なくなった羊水も徐々に増えて、
赤ちゃんは生き続けられるってこと?


私は、1ヶ月前のあの日のことを思い出していました。

 
あんなふうになっちゃうのかなぁ・・・

1ヶ月前のあの日、あれを目撃していなかったら、娘は間違いなく死んでいた。
ひとつめのラッキーです