今泉力哉監督にインタビュー

伊坂幸太郎と斉藤和義の絆が生んだ恋愛小説が待望の映画化!

 

このお二人のタッグだけでもわくわくするのに、

 

メガホンをとるのが「愛がなんだ」のヒットが記憶に新しい今泉力哉監督となれば

もう完璧じゃないですか!

 

今泉監督の作品は、まるで日常を切り取ったかのような自然体な表現がとてもうまく、

成就する恋愛を描いていないところが好き。

恋すればその瞬間は薔薇色だけど、その先が不安になり、苦しくて胸がギュッとなったり、長く付き合っていると自己中になったりする。

そんな恋する人々の本音をそのまま映像に出来る人なのです。

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監督の作品はシネマスコーレで上映された商業デビュー作「たまの映画」(2010)や、東京国際映画祭のスプラッシュ部門で「こっぴどい猫」「サッドティー」を観賞していましたが、

今や大注目の監督となりオファーが絶えません。あと、監督のTwitterのつぶやきがリアルすぎて、「なにしてんの、監督?」ってツッコミながら毎日読むのが楽しみなのです。

 

本作の主演が三浦春馬と多部未華子、脇を固めるのが矢本悠馬、貫地谷しほり、原田泰造、わたくしの大好きな柳憂怜さん、

「凪待ち」の演技が素晴らしかった恒松祐里さんなど、演技派&フレッシュな俳優陣が名を連ねています。

 

この映画のなりたちが面白いんです。ミュージシャンの斉藤和義さんが出会いをテーマにしたアルバムに収録するために、

曲の歌詞を書いて欲しいと小説家の伊坂幸太郎さんにオファー。作詞はもとより恋愛小説を書いたことがない伊坂さんは、大ファンの斉藤さんの頼みならと、

短編を書き下ろしました。この短編に斉藤さんが「ベリーベリーストロング〜アイネクライネ〜」で応えると、と再び伊坂さんが「ライトヘビー」を執筆。

この夢のような交流から生まれたのが「アイネクライネナハトムジーク」なのです。

 

日常でも、おもいがけなくつながっていく人の絆と縁。

人間っておもしろいなと人間観察しながら楽しめる作品です。

 

『愛がなんだ』よりも先に撮影していた作品

 

―大ヒットした『愛がなんだ』から半年しかたっていないですね。

 

監督「そうですね。でも『アイネクライネナハトムジーク』のほうが先に撮影していて、

公開は(愛がなんだ)先になったんですけどね」

 

―アルトマンのショートカットがすきで群像劇がすきなので、監督の作品はいつも楽しみにしています。

監督「僕もアルトマンとか群像劇は好きなんです」

 

―タランティーノの「パルプフィクション」とか!

監督「いいですね〜」

 

―監督の作品はダメな恋愛映画というか、いままでは片思いが多かったけれど、今回は両思いでしたね?

 

監督「あはは!(笑)たしかに今までは片思いが多かったですね。今回は、結ばれていく話ではあります。

原作のテーマである劇的な出会いよりも、出会った人と時間がたったときに、後々この人で良かったという部分を大切にしました。

ただもうひとつ、映画を作る上でそこに乗せたのが、『後々っていつ?』という視点。

例えば、高校生のふたりに、後々ふたりがどうなるか聞いてもそんなの今はわからないじゃないですか。

そう考えながら出た答えが、今、この瞬間瞬間をどう大事にするか。この考えを原作にプラスしました。」

 

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―わたしは結婚して20年以上たちます。この作品を見て「いつのタイミングで相手が夫で

よかったとおもったかな」と考えました。

 

監督「普段はそんなこと考えないですからね。この映画をきっかけ考えて見るといいですよね。」

 

―この映画をみて真剣に考え込みました(笑)

 

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三浦春馬さんと作った“佐藤”のキャラクター

 

監督「三浦さんがあちこちで取材をうけているときに、いい話をしていました。

“この映画をみてから、まわりにいるひとたちがちょっとだけ愛おしく思えたり、普段の生活が誇れれば”と言っていたんです。」

 

―三浦さん演じる“佐藤”はほんとに普通の人でしたね。

 

監督「佐藤という普通の人の代表のような人。それは小説で伊坂さんも意識していて、名字だけで下の名前もなくて普通の人の象徴のような人物なんです。

三浦さんに初めて会ったときに“監督は佐藤についてどうおもっていますか?”と聞かれたんです。

“普通”な人という役はむつかしいですよ。三浦さんは“普通”という人を演じることをちゃんと考えてくださっていたんですよ。

でも“普通”の人でもその人なりの癖があったり特徴がありますよね?

現場で演技しながら、“佐藤ってこうするかな” “親友の一真はああだけど、佐藤はどうかな”と三浦君と話し合って役を作っていきました。

矢本くん演じる佐藤の親友である一真が熱弁しているときも、“佐藤は、ああ、また一真がなんかいっているよ”というシーンの表情はちゃんと“佐藤”の芝居をしてくれるんです。」

 

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シーン毎の効果的な音楽“劇伴”はすべて斉藤和義さん

 

―主題歌はもちろん斉藤和義さんが手がけていますが、シーン毎にぴったりの曲がながれていた劇伴についても教えてください。

 

監督「劇伴も全部斉藤さんです。ツアーなどで忙しいから劇伴までは難しいかなと思いましたが、頼んだらこころよく受けてくださったんです。

自分は音楽の専門ではないので、曲の正解はわからないので、提案はそこまで具体的ではないです。

音楽の打ち合わせも“ここは音楽いりますよね?”“ここは芝居でみせるので音楽はいらないです”とか、同じような話題のシーンのときは同じ曲のアレンジ違いとか。

ざっくり打ち合わせしかしていません。もちろん方向性はいいました。

 

―佐藤と紗季が再会する工事現場のシーンの曲がすごくよかったです。

 

監督「まさに工事現場で二人が再会するシーンにあのような曲がつくとおもっていなかったのです。最初に聞いた時は、こんな宇宙的なSFっぽいものがくるとはおもわなかったんです(笑)。

自分も使ったことがない。イメージですけど斎藤さんなのでギターとかでシンプルな曲ができるとおもったので、聞いたときは“これは正解なのか?”と、思いました。

でも、全編通して聞くとあの曲は、すごくよかった。とても物語の世界が広がりましたね。」

 

―斉藤さんにこの映画を豊かにしていただけましたね。

 

監督「あそこで物語がかわりますよからね。斉藤さんの中にちゃんと群像劇というのがあって様々な音を鳴らしていい映画だとおもったのかも。

でも、お好きにどうぞではなく、こちらの希望も真摯にとらえてくださって。

自分の主張というよりは、作品をよくすること=監督の好きなようにというのを常に考えてくださった。」

 

 

現場では冷静にならないようにしていました

 

―斉藤さんや俳優さんたちとのお仕事を振り返っていかがでしたか?

 

監督「冷静にならないようにしていました!(笑)

冷静になると“あ、伊坂幸太郎だ!斉藤和義だ!三浦春馬だ!自分の目の前にいる!”となってしまうので(笑)。目の前にいるのは斉藤和義さんだけど

“音楽を作っているただの斎藤さんという人”と思わないとおかしくなっちゃいますよ。」

 

―これだけのメンバーですからね

 

監督「基本はミーハーなテレビっ子からはじまっているので、冷静にならないようにしないと。」

 

―そういう気持ちは常に大切ですよね。

 

監督「みなさんすごく作品のことを思っていてくれましたね。

多部さんはご一緒したのは、初めてなんですけど、綺麗に映りたいとか役として目立とうということはまったくない人でした。目の前で起きていることを真摯にこなしていく人。

自分のためではなく作品のために考えて演じてくださった。」

 

 

つい10年前の過去の表現へのこだわり

 

―それぞれの登場人物の10年間を描いていますが、外見や美術面で気をつけたことは?

 

監督「三浦さんや多部さんが演じた二人の27歳から37歳の差をどうつけるかは迷いました。

短編の頃からのヘアメイクさんにお願いしていましたが、“変化のなさ”“成長のなさ”もこの二人にあっているので大げさに10年間の変化はやらなくていいかなと思いました。」

 

―しかし、この頃の10年はテレビや携帯とか周りが急成長しましたよね!

 

監督「まさにちょうど、そういう時代でしたよね。ブラウン管がギリギリあった2008年前後。

二人が出会う仙台駅のペデストリアンデッキにあるモニターは現在は仙台駅にはないんです。あれは実は、CGで作ったんです。

原作を伊坂さんが書いたときはあったのです。モニターを“あり”にしようか“なし”にしようかという話が出ましたが、やはり出会いの場所のシーンは大切なので、CGで作りました。

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仙台出身のサンドウィッチマンの起用について

―仙台出身のサンドウィッチマンが出演していますね?

 

監督「お二人は役者もされているので、すごく演技が良いですね。

仙台出身なので、伊坂作品にはずっとでたかったそうです。“なかなか、よばれないな〜っ”て言っていたらしいです(笑)。ですから今回ご依頼できてよかったです。」

 

―ボクシングのセコンド役が似合ってました。

 

監督「台詞があったわけではないのですが、プロの人からセコンドのやり方を教わって演じてくださいました。体が大きいですから、すごく似合っていましたね。」

 

伊坂幸太郎さんからのラブコール

 

原作者自ら、映画化の監督にオファーされた時の感想は?

 

監督「プロデューサーを通じて依頼がきました。プロデューサーが、小説があがるときに映画化にしたいと動いていたんです。

“伊坂さんが自分の作品をみていてくれて気に入ってくださっていた”とお聞きしました。

そのときは、嬉しいけど、恐れ多いという感想でしたね。この小説は(映像化)とても難しい。どのエピソードを使うかというのは悩みました。」

 

―今回、脚本は、他の方にたのまれていますね?

 

監督「短編の時は脚本も書いていますが、今回もやりますと言って時間をもらって3ヶ月脚本を書いていたんですけど、書けなくて。

伊坂作品の映画の脚本を手がけている鈴木謙一さんに助けていただきました。でも、脚本の打ち合わせも毎回参加して、オリジナル時代からやってきた不器用な人たちの話など、

自分の持ち味はうまく出せたと思います。」

 

オール仙台ロケにこだわったこと

―大規模の撮影はいかがでしたか?

 

監督「現場の規模感が今までと全く違うので最初は緊張していたんですけど。

スタッフはほとんどはじめてでしたが、やりやすい環境をスタッフがつくってくれたのですぐになじめました。」

―オール仙台ロケは初めてづくしだったそうですね?

 

監督「まず、初の合宿でした。ずっと仙台で撮影していてずっとホテルにとまってというのも初めての経験でした。

カメラマンも助監督も初めて組む方でしたが、とても真面目な方々でした。」

 

―オール仙台ロケで良かったことは?

 

監督「僕が一番不安だったボクシングの試合シーンや佐藤が、紗季の乗ったバスを追いかけていくというシーンは、事前にカット割とか決めておかなくちゃいけないから

前日の遅い時間にホテルのロビーで集まって打ち合わせしたり。合宿で撮影しているからこそできる準備がたくさんありました。

東京で撮影できるシーンもありましたけど、写っているもの以外の空気などは役者にも影響するし、仙台だったからこそ撮れたシーンもたくさんありました。

仙台のフィルムコミッションにたくさん助けてもらいました。」

 

―地元の人の協力があってこその作品といえますね

 

監督「この作品は、ここに(仙台)住んでいる人を撮るので、観光名所というよりは街中の景色を撮りたいと思いまして。

生活している人たちは、この映画を観たときに知ってる場所が映っているのは嬉しいだろうなと思います。」

 

―高校生の和人と美緒が自転車で街中を走るシーンはいつも通る道、という地元の人っていうのが出ていましたね。

 

監督とボクシング

―ところで監督とボクシングがどうしても結びつかなかったんです(笑)

監督「できあがったとき、このシーンは本当に僕が撮ったのかな?というぐらい客観的に見てしまいました(笑)。

撮影時は大作も手がけている助監督にたよってました。わかんないときはわかったふりをしないで、すべて頼って(笑)」

 

―観客も多く大がかりな撮影になったのでは?

 

監督「5、600人のエキストラが参加してくださったんです。

ボクシングのシーンで歓声がひびいているので、“カット”といっても声が届かないんです。何度も大きな声を出したり、助監督が動作で止めるとかしたのですが、

その止まらない歓声を聞いたとき感動しましたね(笑)。こんな人数で何かをしたことがないので、自分はその感動が大きかったです。

あとは映画撮影になれていないエキストラの方たちが、

カットがかかるたびに拍手をしてくださって。こんな経験したことがないのでびっくりしました。

今までエキストラをお願いすることはあまりなくて、居酒屋とかでもただいる人として配置していくのがあまり好きじゃなかったんですが、

このように500人規模の人の力でしか作れないことがあるという新しい発見に感動しました。」

 

これからも変わらぬ自分の映画作り

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監督「映画って一人で作れないのでそれぞれの力を引き出したり、意見を出し合って作っていきますよね。一人で考えていくと狭くなってしまう。

自分は人と作るということが好きですから、“餅は餅屋”でたくさんの人の力を発揮できるような現場をどうつくっていくか、作るかそれが自分のすることだと思っています。」

 

監督は、3人のお子さんのお父さん。

たまにTwitterで、子どもさんとのやりとりをつぶやいていますが、

お家に帰ってホッとしながら、お子さんと映画監督でもある奥様と団らんしているときに、

“この人でよかった”と奥様のことを思っているのかなと想像しちゃいました。

 

監督との心地よいインタビューで心がほっこりしました。わたしも主人のことをもう少し大切にしてもっと感謝しようと思いましたよ(笑)

 

 

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【ストーリー】

仙台駅前。大型ビジョンには、日本人のボクシング世界王座をかけたタイトルマッチに沸く人々。そんな中、この時代に街頭アンケートに立つ会社員・佐藤の耳に、ふとギターの弾き語りが響く。

歌に聴き入る紗季と目が合い思わず声をかけると、快くアンケートに応えてくれた。二人の小さな出会いは、妻と娘に出て行かれて途方にくれる佐藤の上司や、

分不相応な美人妻と可愛い娘を持つ佐藤の親友、その娘の同級生家族、美人妻の友人で声しか知らない男に恋する美容師らを巻き込み、10年の時をかけて奇跡のような瞬間を呼び起こす。

(作品資料より)

 

「アイネクライネナハトムジーク」

(C) 2019 映画「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会