(1)AVMA委員会での安楽殺処分に関する報告において,動物の胎子や新生子の安楽殺処分法が条件付きで推奨された.2000年の報告では,「卵巣子宮摘出術の際には,胎子の安楽殺処分は母体から摘出後,すみやかに施行するべきである」と述べられている.また,「動物の新生子は低酸素血症に抵抗性があり,また,すべての吸入薬は最後には低酸素血症をひきおこすため,新生子は成獣より死亡までに長く時間がかかる」とも述べられている[11].次に提唱しているガイドラインは,NIHに設置された,げっ歯動物の胎子やあるいは新生子を含む動物の実験審査委員会である「動物実験委員会;Animal Care and Use Committees」を補完する目的で提案された.どのような場合も,安楽殺処分を施行する者は適切な手順を十分に教育訓練されていなければならない.
 (2)胎子:全妊娠期間の約60%の胎齢では,神経管が,脳として機能するまでに発達した段階であり,胎子が痛みを感じるであろう可能性を考慮すべきである[12, 13].痛みの刺激に対する反応が胎子で観察されており,またそれは,母体での痛みの刺激に対する反応とも相互に関係がある[14].しかし,大脳皮質の一連の作用が動脈内の低酸素状態によって著しく制限されることにより,胎子の行動の誘起や認知が抑制される事もある[15].
 ア 胎齢15日以内のマウス,ラット,ハムスターと胎齢34日以内のモルモット:神経系の発達はこの段階ではごくわずかで,痛みの知覚もないだろうと考えられている[16, 17].母体を安楽殺処分すること,もしくは胎子を摘出する事により,胎子への血液供給が停止する事や,またこの発育段階では生育不可能であることから,胎子は確実に迅速に,死に到るはずである[18].
 イ 胎齢15日から誕生までのマウス,ラット,ハムスターと胎齢34日から誕生までのモルモット:この段階での神経の発達から,痛みを感ずる事もある可能性が示唆される[13, 16, 17].胎子が研究に必要な際には,個々の胎子の安楽殺処分は,熟練した麻酔薬の注射により,施行され得る.物理的な安楽殺処分法としては,手術用はさみでの断頭や頸椎脱臼が許容され得る.事前の麻酔なしに急速に冷凍することは,安楽殺処分法としては,人道的とは考えられない[11].動物を冷凍する前には,深く麻酔を施行するべきである.胎子をそのまま固定する必要がある時は,固定液で浸漬や還流をする前に,胎子に深く麻酔を施行するべきである.胎子を低体温にする[19, 20],もしくは麻酔薬を胎子に注射する事[21]により,麻酔状態を得ることもある.低体温による方法をとる場合には,胎子を直接冷たい媒体に触れさせるべきではない.それぞれの麻酔薬に対する胎子の感受性については施設の獣医師に助言を求めるべきである.この胎齢の胎子は低酸素血症に耐性があり[22],CO2を含んだ吸入麻酔剤を多量に吸入させる必要がある.
 ウ 胎子を研究に必要としない時は,胎子ができるだけ覚醒しない子宮環境となるような,最小限の障害で,確実に素早く胎子を無酸素状態にする方法を,妊娠母体への安楽殺処分法として選択するべきである[15].母体に推奨される安楽殺処分法は,CO2の吸入による方法であり,頸椎脱臼を伴っても伴わなくてもよい.安楽殺処分施行後と動物の廃棄前には母体の死亡を確認しなければならない.その他の安楽殺処分法を考慮すべきかどうかについては施設の獣医師に相談するべきである.
 (3)新生子:侵害受容器(nociceptor)の成熟や,興奮性および抑制性のレセプターの発達は生まれる直前から生後2週間の間におこる[23-26].安楽殺処分法にCO2による方法を適用すると,この週齢での低酸素血症への耐性により,無意識状態に陥るまでの時間が延長することとなる[11, 18].確実に死亡させる第2の安楽殺処分法として,物理的方法を勧める(e.g.頸椎脱臼,断頭,両側性気胸).安楽殺処分後や動物を廃棄する前に死亡を確かめなければならない[27].
 ア 10日齢以下のマウス,ラット,ハムスターの新生子:容認される安楽殺処分法:注射用麻酔薬の投与(e.g.,ペントバルビタール),断頭,頸椎脱臼.さらに,吸入時間の延長は避けられないかもしれないが,これらの動物は吸入麻酔によく反応する;e.g.,CO2,ハロタンあるいはイソフルラン(安全性に配慮して適切に使用する).追加の安楽殺処分法として物理的方法は,確実に死に到らしめる方法として勧められる;e.g.,頸椎脱臼,断頭,両側性気胸.液体窒素に浸漬する方法は,前もって麻酔を施行した場合のみ用いることがある.同様に,固定薬剤で浸漬もしくは潅流する場合にも予め麻酔を施行するべきである.麻酔は,吸入麻酔薬もしくは注射麻酔薬で実施してもよいが,適切な薬剤と用量については,施設の獣医師に助言を求めるべきである.あるいはまた,十分に評価がされていれば,6日齢以下のげっ歯動物に,低体温法により麻酔を施行する事が可能な場合もある.
 イ モルモットの新生子:成熟動物のガイドラインに従うこと[11].
 ウ 10日齢以上のマウス,ラット,ハムスターの新生子:成熟動物のガイドラインに従うこと[11].