げっ歯動物の安楽殺処分は,適切な技術・設備を整えた上で,十分訓練された者が行わなければならない.研究目的を遂行するためにも無痛での安楽殺処分を確実に施行する事は,不可欠である.また,できるだけ苦痛を与えない事に加えて,できるだけ迅速に施行するべきである.終了の際には,心拍動や呼吸の停止の確認,あるいは動物の死後硬直や瞳孔散大の確認等の,適切な手段で,死亡を確認しなければならない[7].また,安楽殺処分は動物飼育室で施行するべきではない.安楽殺処分の方法は,動物種に応じ,適切で,さらに研究に支障をきたさない方法でなければならないし,また,最新(2007年6月)のAVMA Guidelines on Euthanasia[3]に準じたものでなければならない.
 CO2吸入法は,NIHでマウスやラット,豚やハムスターに対して使われる最も一般的な安楽殺処分法である.この方法の重要な点を次にあげる.
 (1)動物の新生子(10日齢以下)はCO2の効果に耐性があるので,代わりの方法が必要である[3, 8]
 (2)CO2を満たす安楽殺処分用チャンバーは中の動物が見えるものでなければならない.チャンバーの中に動物をつめこんではならない.すなわち,チャンバー内で全ての動物が,通常の姿勢を取ることができるようにしなければならない.
 (3)圧縮CO2ガスボンベは,安楽殺処分用チャンバー内へCO2ガスの流量を調節しながら供給できる,唯一奨励できるCO2ガスの供給源である.チャンバー内へあらかじめCO2ガスを満たさずに,チャンバー内へ動物をいれ,そこに100%のCO2を流し入れる.チャンバー内で,チャンバー容量に対して1分あたり20%以上のCO2と呼気が混ざりあうことで,動物にとって最小限のストレスで素早く意識を失う,適切な濃度比のガスが得られることとなる[9].(例えば10lのチャンバーなら毎分2lの流量で使用).意識のある動物を突然70%以上のCO2濃度に曝すと苦しみを与えることが明らかとなっている[3].
 (4)通常2分以内に無意識になるのが望ましい[10].呼吸運動の消失や眼球の退色がみられるかどうかを,それぞれのげっ歯動物で観察する.この両方の徴候がみられたら,チャンバーから動物を取り出すが,徴候がみられない場合は,チャンバー内に留置する.もし,2分経過してもまだ意識を失わないなら,チャンバー内へのCO2の充満度をチェックするべきである.また,CO2の漏れや供給の停止がないかどうかや,フローメーターでの流量を点検するべきである.CO2濃度や感作時間を適切にすれば,動物が予想外に回復することは防がれる.安楽殺処分の施行後や,実験後の動物の廃棄の前に,再度,動物の死亡を確認せねばならない.
 (5)安楽殺処分のために動物を飼育ケージやチャンバーに寄せ集める事は,一般的慣例として容認されている.動物を集める際には,個々の動物が通常の姿勢を取ることができるようにするべきである.それに代わり,いつでも,住み慣れた飼育ケージ内で,動物を安楽殺処分することもできる.しかし,同じ安楽殺処分用チャンバーを用いて動物群を順次安楽殺処分する際には,動物の苦痛を避けるために,チャンバー内の残存CO2を除去することに配慮するべきである.準備できるのであれば,ユーサネクスリッズ(Euthanex Lids)はこれを実施する上で,優れた道具となる.