彼の名前を出すことが、

業界のタブー用語のようになってしまって、

ほとんど誰も彼の名前を口にしない。

 

そうだよね、

彼の名前を出せば、

それが瞬く間にニュースになり、

そこから、思いもよらない憶測が生まれてしまう。

彼の名前を口にした本人が意味したかったことを

はるかに超越した憶測。

 

だったら、

彼の名前を口にしない方が無難。

だから、ほとんど誰も、

彼の名前を口にしない。

 

あの日から、

業界からは彼の存在だけでなく、

彼の名前までもが消えてしまったかのように、

ほとんど誰も、彼の話をしない。

誰かが口にしても、

それを聞いた相手側は、動揺してスルーしてしまうほど。

 

大切な親友をなくし、ものすごく辛いのを我慢して、

無理に笑顔を作っている俳優さんたち。

 

ライバルが減って、安心しているんだろうか、

彼のことは一切語ることなく、

何もなかったかのように、

普段通りの笑顔でテレビに映る俳優さんたち。

 

私の心は、そんな皮肉に取りつかれ、

あの日から、笑顔をふりまいている俳優さんを見るのがつらくなってしまいました。

あの日がなければ、俳優さんたちの笑顔とともに、

私は優しい気持ちで日々過ごせたのに。

あの日から、私の心は悪魔に取りつかれてしまいました。

 

時間は無情に過ぎていく。

だから、過ぎていく時間とともに進んでいくしかない。

いつまでもそこに立ち止まって悲しんでいては、

何も動き出さないし、何も変わらない。

だから、それぞれが、

自分のやらなければいけないことを、

ただ一生懸命やっていている。

ただそれだけ。

それは、私の頭の中では分かっている。

だけど、私の心が付いてきてくれない。

 

あの日、大きな衝撃を受けた俳優さんはたくさんいると思います。

それぞれが何を思っているかはわかりませんが、

彼の名前を口にしなくても、心のどこかにいつも彼がいることを願っています。

 

皮肉でごめんなさい。

でも、俳優さんたちの笑顔を素直に受け止められない私がいて、

そんな自分に嘘を付いてまで

俳優さんたちの笑顔を受け止めることもできない私がいて、

ごめんなさい。

だから、

彼のいないエンターテイメントから距離を置いています。

彼のいないエンターテイメントの世界を訪れることは、今の私にはできません。