前回、チェーンワックスの施行というネタを記事内で投稿しました。
最近まで継続しているトラブルを始めに持ってきた記事で、投稿が久しぶりなこともあり、ワックスとは関係ないタイトルがついています。ですが大部分は自転車機材の話題でワックスネタを含んだ記事です。
今回はワックス記事の続編の記事になります。
記事の結論は、チェーンワックスは自作できる。という内容です。
今回、近年チェーン潤滑の一方法として定着してきた感があるワックスに注目しています。チェーンワックス自作にて成分選定を通し、効果の正体に迫り、チェーントリートメントの選定に活かす知識にしていきたいと思います。
①自作に至る経緯
②成分
③材料選定
④実際に作る
⑤まとめ
以上が構成。
①自作に至る経緯
今やチェーン潤滑はワックス系がオイル系に取って代わろうとしています。汚れからの開放、高潤滑かつ性能維持、これらがワックスに期待される性能として認知されています。私も例に漏れず、チェーン汚れと決別し、潤滑性能に集中したいと思ってワックスに注目しました。オイル時代にはオイルを何本か持ちシーンで使い分けるために毎回洗浄を繰り返していました。洗浄には多くの時間を割き機材管理の負担の大部分を占めていたと言って過言ではないです。
ワックスに注目した当時、セラミックスピードUFOdripに手を出しました。チェーンへの施工後は確かに効果を感じ、従来の溶剤を使った洗浄ですら潤滑性能を落とすことができないほどで驚いた記憶があります。しかしながら、あまりの高価と施工時に多量にこぼれたり、撹拌不足やボトル内での固化のせいで施工の面倒さを感じていました。
次に使ったWENDwaxonは塗りつけるだけで施工完了という簡便さに惹かれ採用したものの、結局加熱によりチェーンに浸透させる必要が明らかになりました。ワックス施工の手間をここでも喰らうことになりました。また、WENDの性能には、ペダル踏み込みの重さを感じ、わずかながら潤滑力不足を感じました。
施工の面倒さからは逃げられないと分かり、ワックスを使う根本目的である潤滑性能を再考するようになりました。ロードバイクのようにチェーンが外部にむき出しのシステムにおいて、ワックス系の性能維持の特徴は、オイルにはない優れた防水防塵性能により担保されているからであり、ワックスというスタイルを選択することに議論の余地はありません。
一方の、潤滑を担保するための添加剤には数種類の物質があり、それぞれの物質を特異的に配合した製品が既に存在します。潤滑剤の配合を調整することで性能に差を生むと予想しました。よって潤滑性能には再考の余地があります。それら潤滑に関わる成分を特定し、自分の期待する性能がこれらの成分量でコントロールできるならば、効果を最大化できるのではないだろうか?と思い至りワックスの自作を考えました。
②成分
成分を調査するうえで既存の製品などの状態をチェックします。チェーン用として存在するワックス系潤滑剤の状態は、見た目や力学的な性質からざっくり次の図状態と思われます。潤滑剤がワックスに溶かし込まれている状態です。
要するに構成成分は大まかに、
ワックス(溶媒や担体的な役割)と添加剤の2成分
に分類しました。
まずそれらの、成分を調べることにして、
既に市販されているワックスの状態に注目しました。
1、個体系
見た目から判断して、ワックス系に見られるパターンの一つ、個体系です。正体はパラフィンロウや脂肪酸アルコール結合物です。前者はその名の通りロウソクで、後者は植物油など由来の物です。
個体系の例を挙げると、モルテンスピードワックスやWENDwax-onはロウ系、フラワーパワーワックスやsquirtは植物油系と考えられます。
2、液体系
ボトルに封入され、こぼれて液体成分が消えてしまうパターンです。液状の製品は塗布後固化しチェーン表面に定着します。このとき溶媒である揮発油が揮発して、潤滑成分のみが残ると思われます。
例えば、セラミックスピードUFOdripやフィニッシュラインセラミックwaxlubeなどが液体揮発系と考えられます。
既存のケミカルを見るとおおよそこれらに分類できると思います。そして、これらのロウや溶剤はそれ自体が潤滑のメインではなく、添加物に流動性を与え、または保持しておくための担体としての役割で使われていると考えられます。ロウの場合はそれ自体に防水性があるので、塗布対象のチェーン内部への水の侵入を防いだり、同時に潤滑剤の流出を防ぐ役割もあると考えられます。
次に色に注目しました。
各種製品はそれぞれ独特の色味を呈しています。先述の担体や溶媒として用いられるロウなどは一般的には白や無色に見えるはずです。
従って、呈色している物は添加された潤滑剤の成分に依存しているはずです。
例えば、モリブデン、銅やセラミックは黒から灰色、アルミや亜鉛は白色をそれぞれ呈します。それ以外の黄、赤、青などのカラフルは性能とは無関係な着色と思われます。その点から類推した成分を挙げてみます。
1、金属系添加物
銅、アルミ、亜鉛、セラミック(シリコン系、窒化ホウ素、)、モリブデン、チタン、グラファイト、グラフェン(!)
2、合成樹脂系添加物
フッ素(PTFE)
私の知識ではこの程度を挙げるにとどまります。しかしながら、グリスやオイルで使われる主な添加剤は以上の類の物質ではないでしょうか。もっと詳しくご存じの方がいればぜひ教えてほしいです。
添加剤には主に2つの性能を求めると思います。
潤滑性能と極圧性能です。
潤滑性能は読んで字の如く滑りやすくる性能ですね。極圧性能は潤滑対象に圧力負荷が掛かったときにその場に留まる性能です。例えば、流動性のある豆腐など柔らかいものを皿においた状況想像して見てください。おたまなどで押しつぶすと豆腐は砕けながら脇に逃げておたまと皿は接触しますよね。押しつぶされたときに逃げずに留まる性能が極圧性能です。
2つの性能の特徴から成分を分類すると次のようになります。
1、潤滑性能
グラファイト、グラフェン、PTFE
2、極圧性能
先述の潤滑3物資以外の金属系
これで成分のおよその目星が付きました。これらの内の幾つかを調達してみようと思います。
③材料選定
チェーンワックスの自作に必要な材料を検討します。
まず、作成したワックスが短期的経時的に消えてしまったり性能が変化してしまうのは期待していないので、担体や溶媒は保管や施工時の扱いやすさを重視しました。
常温で個体管理できるロウを使うことにします。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20230730/22/hkmp7spark/ad/73/j/o1080081015318985180.jpg?caw=800)
④実際に作る
●準備(チェーン洗浄)
まず、施工対象のチェーンを洗浄します。
ロウを温めてチェーン内部に隙間なく浸透させたいので、
新品チェーン内部の錆止め油を洗浄します。
●チェーンワックス作成
小鍋にワックスと銅グリスを加えて煮ます。
まず、成分としては、ワックス100gに対して5%の銅グリスを加えました。
この時点では、グラファイトが未配達でしたのでロウと銅だけで混ぜてみます。
後からグラファイトも足します。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20230731/12/hkmp7spark/b6/56/j/o1080081015319206090.jpg?caw=800)
施工後の感触はWENDwax-onを熱してチェーンに浸透させたときに似ています。
具体的には、コマ内にワックスが浸透しきっているので施工直後の初チェーン動かしでは抵抗を感じます。同時に動きではみ出たワックスがボロボロと押し出されてきます。
モルテンスピードワックスを取り上げている施工のブログ記事でも同じような状況がレビューされているのを見たことがあります。自作のワックスでも市販品と似た状況を再現できているようです。
固まったワックスは硬いようでチェーンを動かしたときに剥離が目立ちました。KMCのDLCに施工したので炭素コーティングにワックスコーティングを重ねた状況が剥離の主な要因かもしれませんが。銅の粒子がまばらに付着した点も気になります。混合比の見直しや潤滑剤の投入したり、グリスやオイル成分を再考して添加するのも良いかもしれません。
鍋のワックスを冷ましてみました。
10分ほどで固まりました。
再度施工してみます。KMCのDLCとノーマルチェーンの2本に施工してみます。
⑤まとめ
作成自体は材料さえあれば簡単と判りました。
しかしながら、材料の選定に置いて、既製品の成分はほぼ企業秘密であり自身で材料を検討する場合、性能担保の化学的根拠を限界までリサーチすることが必要と思われます。なにせどの材料もコストがかかるので。
ロードバイクのチェーンを低抵抗にすることは全体のチューニングの一部に過ぎません。ベアリングのグリスアップやタイヤの転がり抵抗なども改善してバイク全体として快適に走れるようになります。
いま、バイクのエアロダイナミクスを改善する施策を考え、準備しています。
近々記事化する予定です。お楽しみに!